2012年9月21日金曜日
天下の男前ミュージシャン・吉井和哉が映画監督・内田けんじに語る“オトナの男のメソッド”
男前にもほどがあるロックミュージシャン、吉井和哉と、 その脚本力が世界で評価されている映画監督、内田けんじ。
新作映画『鍵泥棒のメソッド』でタッグを組んだ俊才ふたりが、 40代の目線から恋愛や家族、そして"子作り"まで語る……!
■30代くらいの女性は結婚を気にしすぎ(吉井)
内田 いや~、イエモン(THEYELLOW MONKEY)時代から大ファンの僕にとって、「吉井和哉」って「徳川家康」とかと変わんない重みのある名前なんですよ(笑)。
まさか、仕事でご一緒できるとは思いませんでした!
―初っぱなからテンション高いですが(笑)、それもそのはず。
今回、内田監督の新作で、吉井さんにとっても初の映画主題歌を書き下ろしていただいたんですよね。
吉井 依頼が来たときは台本だけ上がっている状態で、読んでもまるっきりわかんなかったというか(笑)。
けど、完成した映画を観たら、あまりの面白さにびっくりしちゃって。
ぶっちゃけ、日本のコメディ映画って、寒いのもあるじゃないですか(笑)。
でも、この『鍵泥棒のメソッド』は、笑いにしろセリフにしろ音にしろ、細部へのこだわり方がハンパないんですよ。
内田 ありがとうございます! 僕も上がってきた主題歌『点描のしくみ』を初めて聴いたときは、一瞬、時が止まったような気がしました。
「かっけー!!」って。
―でも、台本を読んだだけで作った曲なのに、歌詞も含めて作品イメージにぴったりですよね。
吉井 まあ、それが運命かなって(笑)。
もともと「風変わりな時代劇のエンディング曲をやってみたいな」とか、漠然とした憧れはあったんです。
そういう情念系の曲、書けるぞ俺!とか思ってて(笑)。
内田 吉井さんって、時代劇が好きなんですか?
吉井 大好きなんですよ。
僕の父親が旅芸人だったんで、ちょんまげには昔からなじみがあるっていうか(笑)。
テレビでも、前に『鬼平犯科帳』の音楽がジプシー・キングスだったり……ああいう新感覚な時代劇の音楽をやってみたいんですよね。
内田 時代劇にエレキギターの音が流れるとカッコいいですよね。
吉井 内田監督は、時代劇は撮らないんですか?
内田 先ほど言われていた、情念系の風変わりな時代劇ってすごく興味あるんですけど、簡単に手をつけたらいけないジャンルだって気がする。
予算もかかるし(笑)。
吉井 変な話、野蛮な時代の物語だよね。
日常的に刀を持ってるんだから(笑)。
内田 時代劇はアメリカの西部劇と一緒で、日本が世界に誇れるエンターテインメントのおいしいジャンルだと思うんですよ。
「叩き斬っちゃえ!」みたいなアクションって、ある種、娯楽映画の基本。
鬱積したストレスを刀で象徴的に斬るのは、それだけでカタルシスがある。
しかも、江戸時代っていうのがクッションになる。
今の時代で人を叩き斬る映画をやると後味が悪すぎますけど(笑)、でも今の、何が正義で何が悪か、みたいな混沌としてきた時代には、すごく気持ちいいはずなんですけどね。
―吉井さんは侍の役とかも似合うんじゃないですか?
吉井 ああ、やってみたいですね。
セリフが少なければ(笑)。
内田 でも、きっと立ち姿だけでカッコいいですよね。
最近、侍の格好が似合う役者さんがなかなかそろわないと思うんです。
時代劇のラブコメを作るにしても、三船敏郎みたいな迫力ある男が恋に落ちるから面白いわけで(笑)。
―内田監督の映画には、常にラブストーリーの要素が入っていますよね。
吉井 『鍵泥棒のメソッド』って、ヒロインの香苗(広末涼子)が婚活中って設定じゃない。
今の30代くらいの女性は、ちょっと結婚を気にしすぎな気もするんだよなあ。
前にウチのスタッフの女のコと飲んだとき、「もう30なんで結婚しなきゃいけない」とか「お母さんがそろそろ子供を産めって」とか、やたら自虐的に言うんですよ。
だから、「じゃあ籍は入れないけど、俺と結婚式だけしようよ」って。
写真も撮って、「1回、結婚式をした」っていう事実だけつくってみないかと。
もちろん冗談ですよ(笑)。
―そこで言っちゃうのが、吉井流"男と女のメソッド"といったところでしょうか(笑)。
それって最近の話ですか?
吉井 おととしくらいだね(笑)。
―内田監督には"恋愛のメソッド"的なものはないんですか?
内田 そんなものがあったら、映画なんて作ってません(笑)。
まあ結局、親としては「この年齢からこの年齢の間に子供を産め」って言ってるようなもんですよね。
高校のときは彼氏とちょっと遅くなっただけで怒ったくせに。
27歳あたりで本気の恋愛をして、30前には子供を産みなさいって、親の欲望を押しつけてるだけ。
吉井 要は、ヒマだから孫をくれ!ってことだよ(笑)。
僕も人の親だけど、子供たちには好きに生きてほしい。
何か困ったときは助けるけど、基本、好きに生きろ!って。
僕も好きにしてるんで。
―そういえば内田監督って、親の影とかをあまり作品に出さないですよね。
内田 ああ……確かに。
たぶん、「屈折した親父との関係」とかを僕自身が持ってないからじゃないですか。
ウチの親はいいご両親なんで(笑)、逆に家庭の問題に対して目がいかないという。
吉井 そうか、だからカラッと笑える映画になるのか。
監督って人間性の中にトラウマや恨み、いわゆる"太宰治感"が一切ない(笑)。
そこが今っぽいんじゃないかな。
内田 でも、表現者としてはコンプレックスありますよ。
「俺、普通に幸せすぎるな」って。
何かすごく欠落してたり過剰なものを持っている人のほうが、表現者としては強い気がするんです。
めちゃくちゃな青春時代を送ってたとか、人を刺したことがあるとか(笑)。
吉井 さすがに人を刺したことがあるボーカリストは、なかなかいないと思うよ(笑)。
■最近、自分の加齢臭に気づき始めて(内田)
吉井 実は、その表現者としての問題に、僕はちょうど直面しているところで。
―といいますと?
吉井 半年ほど前、たばこをやめたんですよ。
まあ、医者に注意されたこともあって、健康のためというよりノドのために。
あと、今の時代的にも、そろそろたばこはどうなんだろうと思い始めて。
これまで、ずっと一日に2箱は吸ってたんだけどね。
内田 そのペースからゼロにするのはしんどそうですね。
吉井 僕、ロックだけでなくジャズも好きなんですけど、ジャズって「たばこと酒と女」が3点セットじゃない。
早朝とか昼間に皇居の周りをランニングしているヤツがジャズやらないよね(笑)。
―夜のニオイが全然ない(笑)。
吉井 だから、それまでの男の美学みたいなものが、たばこひとつやめるだけで崩れるんですよ! でも、実際にたばこを吸う人も減っているし、酒飲んでベロベロに酔っぱらってお姉ちゃんに絡んでる男も、若い人ではずいぶん減ってるなあと思うし。
だからもういいんじゃないかな、表現者が心身ともに健康でも(笑)。
―若いミュージシャンでも、昔のロッカーみたいに破滅型の人、いないですからね。
吉井 ミック・ジャガーがいい例だよね。
あの人こそ、すべての時代のロールモデルだから(笑)。
若い頃はドラッグをやりまくって、ある時期からピタッと水しか飲まないみたいな(笑)。
内田 でも、悪いことをやめても、ミック・ジャガーのダーティなイメージは別に消えませんもんね。
作家のスティーヴン・キングも、昔はコカインとか大量に吸っていて、その間に書き終わった小説のことを覚えてないみたいなこともあったらしくて(笑)。
でも、彼がたばこもドラッグも一切やめて書き始めた後期の作品って、また違った狂気が宿ってるんですよ。
ものすごい集中力と、しつこい感じ(笑)。
だから、表現者が怪物的なパワーを発揮していくのって、むしろ健康になってからなのかも。
―吉井さんは11月から全国縦断のライブツアーが始まりますね
吉井 実際、体の調子がいいんです。
最近は酒も控えているし。
内田 僕はたばこをやめられないと思うなあ。
親には「そんなに吸うなら、朝、1本食べなさい」って言われてる(笑)。
吉井 バナナか!(笑)
内田 そんなにちょこちょこ吸うのなら、朝、1本食べて、それで終わりにしなさいって。
家ではベランダでしか吸わない「ベランダ族」なんですけど、夏とか世界が真っ白になるくらいの、地獄のような直射日光が差すんです。
逆に冬とかは、首だけ窓から外に出して(笑)。
吉井 勝手なもんで、自分がたばこをやめちゃうと、ほかの人のヤニのニオイってすごく気になるんだよね。
内田 僕はヨメにクサいって言われますけど、ヤニがクサいっていうか、「ただ、クサい」って。
「大型犬か、おまえは!」とか(笑)。
吉井 自分で残念なのは、たばこを吸う女がニオイで無理になっちゃったことだなあ。
内田 僕も自分の加齢臭に最近気づき始めてるんです。
枕とか、オヤジのニオイがしますから(笑)。
吉井 僕より年下なのにダメじゃない!(笑)
内田 たばこをやめて酒も控えめにしていると、いろいろと手持ちぶさたじゃないですか?
吉井 その代わりに、腹筋をやってるんですよ。
腹筋、めちゃめちゃ割ってやろうと思って(笑)。
内田 ヘルシーだなあ!(笑)
吉井 3点セットのうち、たばこも酒もなくなったら、女も口説けなくなったんですよ。
全滅! だから、せめて腹筋だけでも! 勃起力だけでも!って(笑)。
これからのオトナの男は筋肉ですよ。
腹筋して、ジャズを聴く!(笑)
(取材・文/森 直人 撮影/本田雄士)
●吉井和哉(よしい・かずや)
1992年、THE YELLOWMONKEYとしてメジャーデビュー。
2001 年に活動休止(04年に解散)後、03年、YOSHIILOVINSONとしてソロ活動開始。
06年からは吉井和哉名義で活動中
●内田けんじ(うちだ・けんじ)
1972年生まれ。
92年に渡米し、サンフランシスコ州立大学で映画製作と脚本を学ぶ。
98年に帰国。
2005年、劇場デビュー作『運命じゃない人』が国内外の映画祭で賞を受賞
★映画『鍵泥棒のメソッド』は東京・シネクイントほか全国ロードショー公開中