2013年8月17日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/17)

本日、とりあげる作品は
「エンド・オブ・ウォッチ」です。

わずかな違反も見逃さず厳格に法を執行する制服警官。彼らにとって、担当する全米一治安が悪いといわれる一帯は絶好の狩場になる。ドラッグと暴力、銃撃と殺人が茶飯事と化した街で、日々彼らは見回り、摘発し、人命救助に奮闘する。映画はそんな2人の日常に密着、車載カメラやクリップカメラ、ハンディカメラの映像は圧倒的な臨場感とリアリティにあふれ、犯罪取締りの最前線をレポートするドキュメンタリーのようだ。そこで描かれているのは黒人ギャングの衰退とメキシコ系ギャングの隆盛だ。
LAサウス・セントラル地区をパトロールするテイラーとザヴァラは、黒人を逮捕したり子供を救ったりと大活躍。ある日、メキシコ系のチンピラに職質をかけるとトラックにドラッグと自動小銃を隠していた。
四六時中カメラを回し続けるテイラーは、警察署内のミーティングやロッカールームなど、普段部外者が目にできない場所でも撮影をやめない。記憶媒体に残された、時に危険も顧みない2人の行動は、スリルを楽しんでいるかに見える反面、相棒に恐怖を悟られないための蛮勇にも思える。そのあたり、感情表現に走らないこの作品のスタイルが、解釈に奥行きを持たせていた。
妥協しないテイラーは、記録することで自分たちを客観的にとらえようとする。そして目の当たりにした現実。ザヴァラのエッチ話の使い方は、命のはかなさを象徴していた。。。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「エンド・オブ・ウォッチ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130725を参考にしてください。
本日はもう1本
「タイピスト!」です。

数十人のタイピストたちが一心不乱に指を動かし、速さと正確さを競う。成績上位者が勝ち残り、決勝戦は1対1の勝負。正面に相対してお互いの表情を読み、けん制し合う様子はまるで決闘のような緊張感だ。物語はかつて世界中で盛んだった競技タイプに青春をかけたヒロインの成長を追う。しっとりと柔らかな色調の映像は1950年代を意識し、ファッションやクルマ、テニスラケットなどのディテールが時代の空気を再現する。加えてユーモアを忍ばせたシチュエーションの数々はエスプリの極み、何よりデボラ・フランソワが最高にキュートだ。
秘書に憧れるローズは保険会社に試験採用されるが、タイプの早打ち以外はまったくの役立たず。だが彼女の素質を見抜いた社長のルイはタイプ大会出場を提案、彼女を自宅に引っ越させて特訓を始める。
その日からはオンもオフもタイプ漬けの生活。人差し指だけで打っていたローズに5本指打法を叩き込み、用紙を効率よくセットする方法や、ボキャブラリーを増やして単語を予測させるために読書もさせ、さらに長丁場を戦い抜く体力をつけようとランニングも欠かさないなど、もはやスポ根マンガ顔負けの訓練の数々がテンポよく描かれる。
一方で、ローズのルイへの思いが恋に変わり、ローズの気持ちを受け入れるべきか突き放すべきか悩むルイも彼女を愛し始めていることに気づく。そのあたり、あくまで禁欲的にならず"勝利も恋も"欲張るあたりフランス人の人生に対する取り組み方・楽しみ方を感じさせる。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「タイピスト!」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130804を参考にしてください。
本日はもう1本
「楽園からの旅人」です。

"善行は信仰に勝る"。生涯を通じて祈りを捧げてきた男は、その思いが決して届かないと悟り、神に頼るのではなく己の意思と責任で実行する道を選ぶ。礼拝堂の天井近くにつるされたキリスト像が撤去された時の絶望、そして神ではなく難民という人間が与えてくれた希望。きっと彼はあらゆる出来事が"神の御心"と決め付けて思考を放棄し難事に立ち向かうのを避けてきたのだろう。やっと教会の重石から解放され、いかに振る舞うべきかに目覚めていく。物語は閉鎖される教会の司祭がアフリカ難民を匿う過程で、勇気とは何かを問う。
信者数の減少で廃止が決まった教会、業者が絵画や美術品を運び出してしまい、建物が取り壊されると居場所も行き場もない司祭は悲嘆に暮れている。その夜、十数人のアフリカ難民が礼拝堂に避難してくる。
事情を察した司祭は空になった礼拝堂を彼らに提供するが、もてなす準備がないと心を痛めている。難民の中にはけが人や妊婦もいる。おそらく彼にとって腹をくくって違法行為に手を貸すのは初めての経験だったはずなのに、当局の捜査を頑として拒む。一方でアフリカ人の中には単なる就労目的の者以外に、大量のダイナマイトを隠し持つテロリストや異教徒もいる。ところが、司祭は彼らを守ることで自分の声に耳を貸さなかったキリスト教の神に意趣返しをするのだ。
明るい未来ではないかもしれない、それでも立ち止まっているよりはましだと寡黙なこの作品は訴えているようだった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「楽園からの旅人」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130801を参考にしてください。
本日はもう1本
「ザ・タワー 超高層ビル大火災」です。

熱で膨張した鉄骨がひしゃげ、その影響で壁が崩れ床が抜けガラスが飛散する。天井から落ちてくるコンクリート片、迫りくる火と煙、運よく生き残っても逃げ場はない。超高層ビルの中層階、映画はそこに取り残された人々と救出に向かった消防士たちの壮絶な脱出劇を追う。進路も退路も断たれ頼りは運任せのアイデアのみ、命の危機にさらされる過程で彼らは人としての価値を試されていく。自分だけは助かりたい者、幼い娘を捜す者、息子のために生きなければならない者、使命感に突き動かされる者。それぞれの立場で描かれる様々な愛の形が灼熱の火炎の前に浮き彫りにされていく。
108階建てのツインタワーにヘリコプターが激突、火災が発生する。セキュリティ担当のデホはレストラン街に孤立した娘と好意を寄せるユニを救助するために、カン消防士らと現場に向かう。
遠景では天を目指す水晶の塔、近寄ると空を覆うほど威容、きらきらと反射しつつもビルの内部が半ば透けて見える2棟の高層ビルはまるで光り輝くアート作品。そして生き物のごとく天井を這い壁を走る業火は人間の強欲を焼きつくすかのよう。それらメインのビジュアルは精緻なCGで再現され圧倒的なリアリティを持つ。
そんな、ハリウッドを凌駕する韓国クリエイターの英知が結集された映像は最後まで炎の恐ろしさを見る者に知らしめる。911を思い出させるビルの大崩壊は高慢な人間に対する神の鉄槌に見えた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ザ・タワー 超高層ビル大火災」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130729を参考にしてください。
本日はもう1本
「ローン・レンジャー」です。

法による裁きか、死の復讐か。白馬にまたがって駆ける黒マスクの男と顔に奇妙なペイントを施したカラスを頭に頂いた男。"正義"に対する考え方の対照的な2人がコンビを組んで、己の描く世界を実現するために裏切りと欺瞞を繰り返す資本家に迫っていく。その過程で繰り広げられるアクションの数々は躍動感に満ち、手に汗握る展開の連続に胸が躍る。映画は、19世紀後半、広大な米国を統治するために敷設された鉄道を舞台に、善玉、悪玉、正体不明の女、原住民、騎兵隊、出稼ぎ中国人、女子供までを絡ませてラストまで疾走する。
インディアンのトントは、脱走したブッチを追って返り討ちにあった新任検事・ジョンの命を助ける。トントによって蘇生したジョンはローン・レンジャーとなって共にブッチを追う。
ブッチの足跡をたどるうちに、鉄道建設の邪魔になるインディアンを排除する計画が浮き彫りになっていく。しかしトントとジョンは協力するどころか、ことあるごとに対立るばかり。のあたり、人生の先輩・トントが、血気盛んな若者・ジョンに生き方を伝授する、ある種の"師弟関係"を描けば飲み込めたのだが、ジョンはあくまでトントに"上から目線"を貫く。
もちろん当時インディアンは白人より劣ると考えるのが米国の常識だったのだろうが、ヒーローの誕生・成長秘話をすっ飛ばしいきなり大活躍するジョンの姿には共感できなかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ローン・レンジャー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130807を参考にしてください。
本日はもう1本
「パシフィック・リム」です。

開いた左の手のひらで右手の拳を受け止める人型巨大兵器。走りながら腕を大きく振り回すハンマーパンチを繰り出し、怪獣の頭部にヒットさせる。さらにひるんだ怪獣を、蹴り、絞め、投げ飛ばし、最後にプラズマ砲で仕留める。人型巨大兵器vs怪獣、重量感あふれる攻防の数々は、まるで生身の人間が戦っているかのごとき圧倒的な臨場感。怪獣が傷つき機体が破損するたびに、痛みがスクリーンから伝わってくる。物語はかつて人型巨大兵器のパイロットだった青年が地球滅亡の危機に際し再び立ち上がる姿を描く。
怪獣に敗れパートナーを失った人型巨大兵器・イエーガーのパイロット・ローリーは放浪を続けていた。だが、進化する怪獣に対処できるパイロットを探す地球防衛軍は、ローリーを部隊に復帰させる。
2人のパイロットが同時にイエーガーに指令を送り込む必要から、彼らは脳の神経回路を同期しなければならない。パイロット同士の相性や技量も重視され、ローリーは復讐に燃える女性隊員・マコと組むことになる。彼らのイエーガーは旧式、それでも2人はイエーガー体内での全身を使った操縦に、使命を果たす昂揚感以上の喜びを感じている。
センチメンタルな葛藤は一切なくし、ひたすらイエーガーと怪獣たちがパワーをぶつけ合う。それは洗練された格闘技のような技とスピードを競うのではなく、むしろ取っ組み合いのケンカ。ローリーやマコの成長より、あくまでバトルにこだわったの映像に胸が躍った。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「パシフィック・リム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130813を参考にしてください。
本日はもう1本
「少年H」です。

1枚の絵ハガキが証明した日米の国力の差。その事実を知っているとスパイとみなされる世の中で、人々たちは口をつぐんでいく。逆に"大和魂"を妄信する人々は高圧的な態度で市民に目を光らせている。そして、大人たちの振る舞いに不満を覚える少年はつい余計なことを口走り顔の痣を増やしていく。戦争、それは国民の命を奪い、生きている者の自由を奪う。物語は太平洋戦争を挟んだ数年間、神戸で思春期を過ごした主人公の成長を描く。日本が間違った方向に進んでいると考えながらも良き臣民のフリをするしたたかな父親が、実は様々な葛藤を抱えている。そんな小市民的な男を水谷豊が抑制のきいた表情で演じていた。
洋装店を営む父・盛夫と母・敏子、妹と暮らす小学生の肇は敏子のハイカラ教育にうんざりしている。だが、盛夫の仕事に付き添って外国人屋敷に行き、子供のころから西洋の風を受けて育っていた。
外国人顧客を相手にしても挨拶以外は日本語で済まし、それでもきちんと意図は伝わっている盛夫は"人と人、国や言葉は関係ない"と肇に教える。一方で軍国主義に走る日本人とは、言葉は通じても思いは届かない。肇が中学に進学するころには戦況が悪化、理性より無謀な精神論が幅を利かせていく。
戦争に反対したいができない風潮の中、少しでも良心に従おうとする両親の姿に肇は人生を学んでいく。ノスタルジックな雰囲気の映像に悲惨さはないが、戦争が人の心を蝕んでいくという真実は訴える。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「少年H」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130814を参考にしてください。
本日はもう1本
「素敵な相棒」です。

記憶を蓄え、それをもとに思考するからこそ人間。一切のメモリーを消去されても平気でいられるのがロボット。「我思う、ゆえに我あり」の言葉に象徴される人間とロボットの違いは明確だ。だが、テクノロジーの進化で"感情"のようなものを抱くロボットは、人間の友になれるのか。物語は軽度のアルツハイマー症老人と高性能ヘルパーロボットの交流を通じ、何が人間を人間足らしめているかを問う。「忘れてしまった」ことすら覚えていない主人公は、頑固な生き方を変えない。彼を一番理解しているのが家族ではなくロボットである皮肉が、高齢化社会の行く末を暗示する。
物忘れがひどく苛立ちを隠せない元泥棒のフランクは、息子から介護ロボットをプレゼントされる。当初は拒否していたが、完璧に家事をこなし世話を焼いてくれるロボットに心を開いていく。
限りなく人間の精神に近い機能をもつロボットにいかにもロボット風の外観を与えているのは、過剰に情が移るのを防ぐためだろう。ロボットのおかげで積極さと健康を取り戻したフランクは、かつて情熱を注いだ泥棒稼業に復帰するためロボットに錠前破りのテクニックを教え、やがてわが子より深い絆を感じ始める。
結局、実の息子も娘もフランクの事を心配しているが、自分たちの思いをフランクに押し付けてもいる。ロボットはフランクの気持ちを慮りつつフランクに寄り添っている。ロボット3原則のもとロボットが良きパートナーとして人間と共存する、そんな未来に希望が持てた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「素敵な相棒」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130816を参考にしてください。