2013年8月31日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/31)

本日、とりあげる作品は
「ジェリー・フィッシュ」です。

話が合わないクラスメイトとは距離を置き、口うるさい両親とはそりが合わない。学校でも家庭でも疎外感を覚えている女子高生は水中で浮遊するクラゲに自身を重ねている。そんな彼女に同類の雰囲気を嗅ぎ取った同級生が接近してくる。やがて彼女たちは、お互いの肉体を確かめることだけが己の存在を証明する手続きであるかのように求め合う。男との愛のないセックスよりも、女同士の思いやりにあふれた抱合。繊細で傷つきやすい、でも傷ついても決して壊れない彼女たちの心の彷徨を、逆光を多用したソフトなタッチの映像で再現する。
水族館のクラゲ水槽の前で、夕紀は叶子に突然キスされる。その後もふたりは唇を重ね淋しさを埋め合わせていく。ある日、叶子が男子と付き合いだしたせいでふたりの間に微妙な隙間風が吹き始める。
夕紀はおとなしそうな外見とは裏腹に、セックスのなんたるかを知ろうとバイト先のDVD店店長と関係を持っていた。美人で溌剌とした叶子は、ボーイフレンドに抱かれていても表情は上の空。ふたりとも、イクことしか頭にない男とのセックスでは空疎な後味しか得られなかったのだろう。女同士だからこそ感じるポイントが分かっている安心感が、更にふたりの距離を縮めていく。
心も体も許しあったのに話せない秘密がある。友情を煮詰めて肉体関係に発展させたのに、やっぱりそれは探していたものではなかった。抑制された感情に、人生に対する彼女たちの諦観がにじみ出ていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ジェリー・フィッシュ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130812を参考にしてください。
本日はもう1本
「悪いやつら」です。

暴力団、検事、民間人…。同じ姓、同じ出身地ならどこかでつながっている。そして目上の者には頭が上がらない。韓国の伝統的な血縁社会で身内の係累を最大限に活用する男。度胸も腕っ節もないが他人の歓心を買う才能には恵まれた彼は、やがてボスをしのぐほどの力を蓄えていく。映画はしがない公務員から裏社会を仕切るまでになった半グレ中年男の半生を描く。大胆だが小心、媚を売るけれど虚勢も張る、ケンカは弱いが利に聡い。暴力がはびこり陰謀が渦巻く世界で、人脈を武器に仁義よりも実利を選ぶ彼はヒーローとは対極。見苦しさすら人間的な主人公をチェ・ミンシクがリアルな感情表現で演じる。
大量の覚醒剤をネコババしたイクヒョンは新興組織のボス・ヒョンベに転売、ヒョンベが遠縁の親戚と知って彼の元に出入りするようになる。ある日、イクヒョンはキムの組織の縄張り内のクラブに介入する。
自分のほうがヒョンベより上の世代と知ったイクヒョンは急にヒョンベに礼節を求め態度がでかくなる。1980年代でも儒教道徳に基づいた大家族制度が健在だったのだろう。一族は助け合うものという暗黙の掟は、時に法に優先し逮捕された彼らをたびたび救う。
特にベテラン検事とイクヒョンの関係は、つい20年ほど前までは前近代的な悪習が根付いていたことを物語る。極道としてのプライドがないがゆえに己の欲望に忠実になれる、大統領直々の犯罪組織撲滅命令はそんな封建制の悪しき名残を一掃する機会でもあったのだ。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「悪いやつら」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130731を参考にしてください。
本日はもう1本
「美輪明宏ドキュメンタリー 〜黒蜥蜴を探して〜」です。

ブロンドの長髪、年老いた魔女のような外見なのに、男性名を名乗っている。この人の人生を知らない世代の者にとって、男なのか女なのか、同性愛者なのか女装趣味なのか、直接本人に聞いてみたい謎は尽きない。映画は、彼が"女優"として出演した古い日本映画を見たフランス人映像作家が、美しく妖艶な姿に隠された素顔に迫る過程を描く。美少年歌手・俳優デビューした後、いち早く「女であること」に目覚め、性の先駆者となって20世紀後半から21世紀の現在まで走り続けてきた彼の半生は、波乱と刺激に満ちている。
1957年に丸山明宏の名で映画に出た三輪は小柄ゆえ女装に活路を見出し、それ以来女らしさを追求し始める。次第に世間は彼を"女優"と認知し始め、'70年代になるとそのスタイルは輝きを増し始める。
まだ同性愛がタブー視されていた当時、三輪は心無い人から「バケモノ」「死ね」といった罵声と文字通り石やガラス片を投げつけられたと語る。一方でそういう風潮だったからこそ、女以上に女っぽい彼の芸風は一部のアングラ劇団やアーティストには受け入れられ、活躍のチャンスを広げていく。
そして、ホモ告白の過去にも触れるが、どれほどの逆風が吹こうとも彼は己に正直であろうとする。もはや性別や性的嗜好の問題ではない、三輪明宏という一人の人間として見てほしい。そう願う彼の言葉は、差別や偏見を持つ、すべての人の心に突き刺さる。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「美輪明宏ドキュメンタリー 〜黒蜥蜴を探して〜」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130819を参考にしてください。
本日はもう1本
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」です。

いつも一緒だった友人の死。原因が己にあると思い込み、悩み傷つき、まだ高校生の年頃なのに老成してしまった少年少女たちは、いまだに呪縛から逃れられない。もちろん幽霊だからといって恐れるわけではなく、彼女を仲間として迎える。物語は小学校の仲良し男女6人組の女子メンバー1人が事故死したのをきっかけに、残った者が葛藤を抱えながら生きていく姿を描く。十代の若さで過去に捕らわれ、苦悩し、他人の気持ちばかり考えてしまう彼らの優しさが痛々しい。
"超平和バスターズ"元リーダー・じんたんの前に、5年前亡くなっためんまが現れる。めんまはじんたんにしか見えないが、メンバーはめんまの存在を信じ、彼女がこの世に戻ってきた理由を探る。
小学生の時のように無邪気に戯れてはいられない。しかし、めんまと最後に交わした言葉だけは鮮烈に共有している。あの日、僕たちは何を伝えたかったのだろう、私たちは何を望んでいたのだろう。届かなかった思いと叶わなかった願い。再び秘密基地に集まった5人はめんまが成仏できるように頭をひねり、その過程でわが身を見つめ直す。
"好き"と口には出せなくても素直に態度に出ていた小学校時代とは違い、今は感情を巧みにオブラートに包むすべを心得ている。隠し事はナシというルールは生きていても、隠さないと相手を傷つけることを知っている。それでもやっぱり、親友たちにきちんと感謝したい。言葉の持つ力をあらためて教えられた作品だった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130817を参考にしてください。

2013年8月29日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/29)

本日、とりあげる作品は
「黒いスーツを着た男」です。

取り返しのないことをしてしまった男。放っておけなった女。悲しみの中で手をこまねいてる妻。一つの交通事故が3人の人生を交錯させ、彼らの苦悩を掘り下げていく。物語は、加害者と目撃者そして被害者の妻のバックグラウンドのディテールに踏み込み、人間の良心の在りかたのみならず、3つの階層が抱える社会問題をあぶりだす。成り上がりの労働者、インテリの小市民、市民権を制限された不法就労者、彼らがみな特別ではなく、どの立場に置かれたとしても共感を得られる人間であるという設定が、観客に問いかける。あなたならどうするかと。
結婚を控えたアルは労働者をひき逃げ、アパートから事故を目撃したジュリエットは被害者の身元を調べ妻のヴェラに連絡する。被害者の様子を密かに見にいったアルはジュリエットに気づかれてしまう。
自首を同僚に止められたアルはせめて見舞金を渡そうと金策に走り回り、ジュリエットに仲介を頼む。その過程で、結局自分の周りにいる人々は誰も親身になってくれないと知る。一方で胸の内を打ち明けられたジュリエットはアルに協力しヴェラの信用を失う。
このあたり、無責任にも無関心にも強欲にもなれない彼らの、人間としての理性と節度だけでなく弱さまで克明に描きこまれ、映画はある意味平凡な彼らの感情が、予想もしない展開に発展していく非凡さを見せる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「黒いスーツを着た男」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130802を参考にしてください。
本日はもう1本
「上京ものがたり」です。

自分には特別な才能がある、そう思い込んで故郷を後にした女子大生。だが、東京での生活はシビアで、バイトに明け暮れる毎日が待っている。描いても描いても絵は認められない、転がり込んできた男とはずるずると別れられない、物語はそんな美大生のうだつの上がらない日常を追う。壮大な夢よりも目の前の現実、己の表現したいアートよりも編集者が求めるカット、そして何より生まれついてのセンスよりもあきらめずに努力を継続できる能力こそが"才能"であると、彼女は身を以て示そうとする。"最下位には最下位の戦い方がある"という言葉に象徴されるように、人生とは日々戦いなのだ。
東京の美大に入学した菜都美は万年ビリの成績。ある日バイト先のャバクラで先輩キャバ嬢・吹雪の娘・沙希に絵を気に入ってもらう。自信をつけた菜都美は出版社に売り込みにいくが、ことごとく断られる。
一方、プータローの良介と同棲する菜都美。時に彼の優しさに癒されるが向上心のなさに苛立っている。カネよりも大切なことがあると良介は諭すが、絵で生計を立てようとする菜都美は"稼いでこそプロ"と、カネの重要性を主張する。
ただ、エロ小説のイラストには、キャバクラでの下ネタトークや良介とのセックス体験が生かされているはずなのに、具体的なエピソードとして結実せず、吹雪母子との関わりもきれいごとの域を出ていない。もっと人間の深い業を前面に出してほしかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「上京ものがたり」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130826を参考にしてください。

2013年8月22日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/22)

本日、とりあげる作品は
「スター・トレック イントゥ・ダークネス」です。

直観に従い、正しいと思えばどれほど無謀でも行動に移す男。何事もロジカルに考え、決してエモーショナルに流されず合理的に対処する男。全く正反対の性格の2人はコインの表裏のごとくぴったりと寄り添いながらお互いの欠点を補いあっている。カーク船長とミスター・スポック、今回はそのキャラクターをより際立たせ、壊れかけた友情と信頼を修復するまでを描く。感情と論理、それは生まれつき持つ性質と、成長の過程で身につける理性。だが、最後の最後では本質的な部分が少しだけ勝るのではと思わせる。彼らはロボットではない、血の通った人間なのだから。
軍事情報記録保管庫が爆破され評議会はハリソンと呼ばれる男を犯人に特定するが、会議場がハリソンに襲撃される。カークは提督の命令を受け、クリンゴン支配地域の惑星に逃亡したハリソンを追跡する。
宇宙空間で繰り広げられる戦場絵巻は3Dのスケール感で見る者を圧倒し、地上での肉弾戦はスピード感に手に汗握る。さらに小道具まで細密に再現された映像は臨場感にあふれ、過剰なほどの情報量が視覚を刺激する。
しかし、先住民族に追われるカークや、クライマックスでハリソンを追走するスポックなど、走るという人間の根源的なアクションが一番躍動感を伴っていたのは確か。やはり俳優が身体能力を極限まで駆使してこそ映画はスリリングになる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「スター・トレック イントゥ・ダークネス」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130615を参考にしてください。

2013年8月17日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/17)

本日、とりあげる作品は
「エンド・オブ・ウォッチ」です。

わずかな違反も見逃さず厳格に法を執行する制服警官。彼らにとって、担当する全米一治安が悪いといわれる一帯は絶好の狩場になる。ドラッグと暴力、銃撃と殺人が茶飯事と化した街で、日々彼らは見回り、摘発し、人命救助に奮闘する。映画はそんな2人の日常に密着、車載カメラやクリップカメラ、ハンディカメラの映像は圧倒的な臨場感とリアリティにあふれ、犯罪取締りの最前線をレポートするドキュメンタリーのようだ。そこで描かれているのは黒人ギャングの衰退とメキシコ系ギャングの隆盛だ。
LAサウス・セントラル地区をパトロールするテイラーとザヴァラは、黒人を逮捕したり子供を救ったりと大活躍。ある日、メキシコ系のチンピラに職質をかけるとトラックにドラッグと自動小銃を隠していた。
四六時中カメラを回し続けるテイラーは、警察署内のミーティングやロッカールームなど、普段部外者が目にできない場所でも撮影をやめない。記憶媒体に残された、時に危険も顧みない2人の行動は、スリルを楽しんでいるかに見える反面、相棒に恐怖を悟られないための蛮勇にも思える。そのあたり、感情表現に走らないこの作品のスタイルが、解釈に奥行きを持たせていた。
妥協しないテイラーは、記録することで自分たちを客観的にとらえようとする。そして目の当たりにした現実。ザヴァラのエッチ話の使い方は、命のはかなさを象徴していた。。。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「エンド・オブ・ウォッチ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130725を参考にしてください。
本日はもう1本
「タイピスト!」です。

数十人のタイピストたちが一心不乱に指を動かし、速さと正確さを競う。成績上位者が勝ち残り、決勝戦は1対1の勝負。正面に相対してお互いの表情を読み、けん制し合う様子はまるで決闘のような緊張感だ。物語はかつて世界中で盛んだった競技タイプに青春をかけたヒロインの成長を追う。しっとりと柔らかな色調の映像は1950年代を意識し、ファッションやクルマ、テニスラケットなどのディテールが時代の空気を再現する。加えてユーモアを忍ばせたシチュエーションの数々はエスプリの極み、何よりデボラ・フランソワが最高にキュートだ。
秘書に憧れるローズは保険会社に試験採用されるが、タイプの早打ち以外はまったくの役立たず。だが彼女の素質を見抜いた社長のルイはタイプ大会出場を提案、彼女を自宅に引っ越させて特訓を始める。
その日からはオンもオフもタイプ漬けの生活。人差し指だけで打っていたローズに5本指打法を叩き込み、用紙を効率よくセットする方法や、ボキャブラリーを増やして単語を予測させるために読書もさせ、さらに長丁場を戦い抜く体力をつけようとランニングも欠かさないなど、もはやスポ根マンガ顔負けの訓練の数々がテンポよく描かれる。
一方で、ローズのルイへの思いが恋に変わり、ローズの気持ちを受け入れるべきか突き放すべきか悩むルイも彼女を愛し始めていることに気づく。そのあたり、あくまで禁欲的にならず"勝利も恋も"欲張るあたりフランス人の人生に対する取り組み方・楽しみ方を感じさせる。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「タイピスト!」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130804を参考にしてください。
本日はもう1本
「楽園からの旅人」です。

"善行は信仰に勝る"。生涯を通じて祈りを捧げてきた男は、その思いが決して届かないと悟り、神に頼るのではなく己の意思と責任で実行する道を選ぶ。礼拝堂の天井近くにつるされたキリスト像が撤去された時の絶望、そして神ではなく難民という人間が与えてくれた希望。きっと彼はあらゆる出来事が"神の御心"と決め付けて思考を放棄し難事に立ち向かうのを避けてきたのだろう。やっと教会の重石から解放され、いかに振る舞うべきかに目覚めていく。物語は閉鎖される教会の司祭がアフリカ難民を匿う過程で、勇気とは何かを問う。
信者数の減少で廃止が決まった教会、業者が絵画や美術品を運び出してしまい、建物が取り壊されると居場所も行き場もない司祭は悲嘆に暮れている。その夜、十数人のアフリカ難民が礼拝堂に避難してくる。
事情を察した司祭は空になった礼拝堂を彼らに提供するが、もてなす準備がないと心を痛めている。難民の中にはけが人や妊婦もいる。おそらく彼にとって腹をくくって違法行為に手を貸すのは初めての経験だったはずなのに、当局の捜査を頑として拒む。一方でアフリカ人の中には単なる就労目的の者以外に、大量のダイナマイトを隠し持つテロリストや異教徒もいる。ところが、司祭は彼らを守ることで自分の声に耳を貸さなかったキリスト教の神に意趣返しをするのだ。
明るい未来ではないかもしれない、それでも立ち止まっているよりはましだと寡黙なこの作品は訴えているようだった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「楽園からの旅人」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130801を参考にしてください。
本日はもう1本
「ザ・タワー 超高層ビル大火災」です。

熱で膨張した鉄骨がひしゃげ、その影響で壁が崩れ床が抜けガラスが飛散する。天井から落ちてくるコンクリート片、迫りくる火と煙、運よく生き残っても逃げ場はない。超高層ビルの中層階、映画はそこに取り残された人々と救出に向かった消防士たちの壮絶な脱出劇を追う。進路も退路も断たれ頼りは運任せのアイデアのみ、命の危機にさらされる過程で彼らは人としての価値を試されていく。自分だけは助かりたい者、幼い娘を捜す者、息子のために生きなければならない者、使命感に突き動かされる者。それぞれの立場で描かれる様々な愛の形が灼熱の火炎の前に浮き彫りにされていく。
108階建てのツインタワーにヘリコプターが激突、火災が発生する。セキュリティ担当のデホはレストラン街に孤立した娘と好意を寄せるユニを救助するために、カン消防士らと現場に向かう。
遠景では天を目指す水晶の塔、近寄ると空を覆うほど威容、きらきらと反射しつつもビルの内部が半ば透けて見える2棟の高層ビルはまるで光り輝くアート作品。そして生き物のごとく天井を這い壁を走る業火は人間の強欲を焼きつくすかのよう。それらメインのビジュアルは精緻なCGで再現され圧倒的なリアリティを持つ。
そんな、ハリウッドを凌駕する韓国クリエイターの英知が結集された映像は最後まで炎の恐ろしさを見る者に知らしめる。911を思い出させるビルの大崩壊は高慢な人間に対する神の鉄槌に見えた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ザ・タワー 超高層ビル大火災」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130729を参考にしてください。
本日はもう1本
「ローン・レンジャー」です。

法による裁きか、死の復讐か。白馬にまたがって駆ける黒マスクの男と顔に奇妙なペイントを施したカラスを頭に頂いた男。"正義"に対する考え方の対照的な2人がコンビを組んで、己の描く世界を実現するために裏切りと欺瞞を繰り返す資本家に迫っていく。その過程で繰り広げられるアクションの数々は躍動感に満ち、手に汗握る展開の連続に胸が躍る。映画は、19世紀後半、広大な米国を統治するために敷設された鉄道を舞台に、善玉、悪玉、正体不明の女、原住民、騎兵隊、出稼ぎ中国人、女子供までを絡ませてラストまで疾走する。
インディアンのトントは、脱走したブッチを追って返り討ちにあった新任検事・ジョンの命を助ける。トントによって蘇生したジョンはローン・レンジャーとなって共にブッチを追う。
ブッチの足跡をたどるうちに、鉄道建設の邪魔になるインディアンを排除する計画が浮き彫りになっていく。しかしトントとジョンは協力するどころか、ことあるごとに対立るばかり。のあたり、人生の先輩・トントが、血気盛んな若者・ジョンに生き方を伝授する、ある種の"師弟関係"を描けば飲み込めたのだが、ジョンはあくまでトントに"上から目線"を貫く。
もちろん当時インディアンは白人より劣ると考えるのが米国の常識だったのだろうが、ヒーローの誕生・成長秘話をすっ飛ばしいきなり大活躍するジョンの姿には共感できなかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ローン・レンジャー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130807を参考にしてください。
本日はもう1本
「パシフィック・リム」です。

開いた左の手のひらで右手の拳を受け止める人型巨大兵器。走りながら腕を大きく振り回すハンマーパンチを繰り出し、怪獣の頭部にヒットさせる。さらにひるんだ怪獣を、蹴り、絞め、投げ飛ばし、最後にプラズマ砲で仕留める。人型巨大兵器vs怪獣、重量感あふれる攻防の数々は、まるで生身の人間が戦っているかのごとき圧倒的な臨場感。怪獣が傷つき機体が破損するたびに、痛みがスクリーンから伝わってくる。物語はかつて人型巨大兵器のパイロットだった青年が地球滅亡の危機に際し再び立ち上がる姿を描く。
怪獣に敗れパートナーを失った人型巨大兵器・イエーガーのパイロット・ローリーは放浪を続けていた。だが、進化する怪獣に対処できるパイロットを探す地球防衛軍は、ローリーを部隊に復帰させる。
2人のパイロットが同時にイエーガーに指令を送り込む必要から、彼らは脳の神経回路を同期しなければならない。パイロット同士の相性や技量も重視され、ローリーは復讐に燃える女性隊員・マコと組むことになる。彼らのイエーガーは旧式、それでも2人はイエーガー体内での全身を使った操縦に、使命を果たす昂揚感以上の喜びを感じている。
センチメンタルな葛藤は一切なくし、ひたすらイエーガーと怪獣たちがパワーをぶつけ合う。それは洗練された格闘技のような技とスピードを競うのではなく、むしろ取っ組み合いのケンカ。ローリーやマコの成長より、あくまでバトルにこだわったの映像に胸が躍った。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「パシフィック・リム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130813を参考にしてください。
本日はもう1本
「少年H」です。

1枚の絵ハガキが証明した日米の国力の差。その事実を知っているとスパイとみなされる世の中で、人々たちは口をつぐんでいく。逆に"大和魂"を妄信する人々は高圧的な態度で市民に目を光らせている。そして、大人たちの振る舞いに不満を覚える少年はつい余計なことを口走り顔の痣を増やしていく。戦争、それは国民の命を奪い、生きている者の自由を奪う。物語は太平洋戦争を挟んだ数年間、神戸で思春期を過ごした主人公の成長を描く。日本が間違った方向に進んでいると考えながらも良き臣民のフリをするしたたかな父親が、実は様々な葛藤を抱えている。そんな小市民的な男を水谷豊が抑制のきいた表情で演じていた。
洋装店を営む父・盛夫と母・敏子、妹と暮らす小学生の肇は敏子のハイカラ教育にうんざりしている。だが、盛夫の仕事に付き添って外国人屋敷に行き、子供のころから西洋の風を受けて育っていた。
外国人顧客を相手にしても挨拶以外は日本語で済まし、それでもきちんと意図は伝わっている盛夫は"人と人、国や言葉は関係ない"と肇に教える。一方で軍国主義に走る日本人とは、言葉は通じても思いは届かない。肇が中学に進学するころには戦況が悪化、理性より無謀な精神論が幅を利かせていく。
戦争に反対したいができない風潮の中、少しでも良心に従おうとする両親の姿に肇は人生を学んでいく。ノスタルジックな雰囲気の映像に悲惨さはないが、戦争が人の心を蝕んでいくという真実は訴える。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「少年H」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130814を参考にしてください。
本日はもう1本
「素敵な相棒」です。

記憶を蓄え、それをもとに思考するからこそ人間。一切のメモリーを消去されても平気でいられるのがロボット。「我思う、ゆえに我あり」の言葉に象徴される人間とロボットの違いは明確だ。だが、テクノロジーの進化で"感情"のようなものを抱くロボットは、人間の友になれるのか。物語は軽度のアルツハイマー症老人と高性能ヘルパーロボットの交流を通じ、何が人間を人間足らしめているかを問う。「忘れてしまった」ことすら覚えていない主人公は、頑固な生き方を変えない。彼を一番理解しているのが家族ではなくロボットである皮肉が、高齢化社会の行く末を暗示する。
物忘れがひどく苛立ちを隠せない元泥棒のフランクは、息子から介護ロボットをプレゼントされる。当初は拒否していたが、完璧に家事をこなし世話を焼いてくれるロボットに心を開いていく。
限りなく人間の精神に近い機能をもつロボットにいかにもロボット風の外観を与えているのは、過剰に情が移るのを防ぐためだろう。ロボットのおかげで積極さと健康を取り戻したフランクは、かつて情熱を注いだ泥棒稼業に復帰するためロボットに錠前破りのテクニックを教え、やがてわが子より深い絆を感じ始める。
結局、実の息子も娘もフランクの事を心配しているが、自分たちの思いをフランクに押し付けてもいる。ロボットはフランクの気持ちを慮りつつフランクに寄り添っている。ロボット3原則のもとロボットが良きパートナーとして人間と共存する、そんな未来に希望が持てた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「素敵な相棒」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130816を参考にしてください。