2013年10月26日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/26)

本日、とりあげる作品は
「コールド・ウォー」です。

爆弾テロと同時に起きた警官誘拐事件。鉄壁のセキュリティと通信・監視網がいとも簡単に破られ、身代金が要求される。緊急事態に陥った香港、警察内部では主導権をめぐってたたき上げの現場部門とオフィスワークの管理部門が対立する。そこに見え隠れする裏切り者と密告者の影、犯人はテロリストのみならず警察官にもいる。誰が正しくて誰が黒幕なのか、そして本当の敵は誰なのか、映画は一瞬の気の緩みも許さないテンションで疾走する。さらに、内務調査機関の介入で、事件は一層複雑な様相を見せる。一つの謎を解決しても、二の矢・三の矢と繰り出される予想外の展開にスクリーンから目が離せない。
5人の警官が車両ごと消え、その中に息子がいると知った「行動班」のリーダー・リーは、非常事態宣言を出すが救出作戦に失敗。代わって「管理班」のラウが指揮を執るが、彼も身代金を奪われてしまう。
警察の人事・命令系統をすべて把握し、2人の副長官がせめぎ合う長官不在の時期を狙って犯行に及ぶテロリストたち。特にラウを散々振り回したあげくカネを強奪するユニークなアイデアには思わず膝を打った。しかも、お互いを解任し合うほど仲の悪いリーとラウの出世争いを利用するなど、犯人側の手口は洗練されている。
その上で、彼らを疑う内務調査官・ビリーの登場が、物語をアクションからミステリーに鮮やかに変貌させる。この練り込まれた脚本は警察映画の新境地と言っても過言ではない。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「コールド・ウォー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130928を参考にしてください。
本日はもう1本
「セイフ ヘイヴン 」です。

髪を切って脱色し妊婦のフリをして必死に走る女、バスターミナルで行方をくらました彼女を執拗に探す刑事。一瞬の差で逃げ延びた彼女は遠く離れた見知らぬ町で新しい暮らしを始める。物語は逃亡中の容疑者と思しきヒロインが身分を変えて、新たな恋を手に入れる姿を描く。彼女は許されるべきなのか、愛される資格があるのか。確かにやむを得ず相手を傷つけたのだろう、だがきちんと決着をつけずに未来はあるのか。それらの謎を一枚ずつはがす過程は意外性に満ちていた。
ボストンから夜行バスに乗ったエリンは小さな町で下車、ケイティと名乗って腰を落ち着ける。そこで雑貨店を営むシングルファザーのアレックスと出会い、彼から自転車をプレゼントされる。
ケイティには当地の濃密なコミュニティが疎ましく、他人の好意ですら詮索好きの好奇心に思える。そんな彼女の警戒心を隣人のジョーが解き、いつしかケイティは妻に先立たれたアレックスとデートを重ねる。このあたりの展開は通俗的で、映画はむしろ海や森など豊かな自然に恵まれ、住人の気質も穏やかで親切な町の住みやすさを強調する。
しかし、刑事が発した指名手配所はこの町にも届き、ケイティの安住が脅かされる。やがてアレックスにケイティの嘘がばれるとともに、ケイティと彼女が刺した男、そして刑事との関係が明らかになっていく。中盤からはケイティとアレックスのぬる〜いラブストーリーに緊張感が漂い始め、一気に加速する。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「セイフ ヘイヴン 」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130810を参考にしてください。
本日はもう1本
「マッキー」です。

あいつだけは絶対に許さない! 殺された男の魂はハエとなって転生し、復讐の炎を燃やす。愛する女を守るため、自らの恨みを晴らすため、持てる能力を最大限に発揮して敵に挑んでいく雄姿はコミカルだが哀しくもある。ハニカム構造の視界から見た人間の世界はすべてが巨大、その大きさの違いを逆に生かしてわずかな隙間から忍び込み、姿を隠し、意外なところから攻撃する。一方で精一杯のボディランゲージで恋人に思いを伝える。あくまでハエらしい外観にこだわりつつキュートさも失わないディテール豊かなCGが素晴らしい。
ビンドゥはジャニの歓心を買おうと懸命だが、彼女は強欲な社長・スディープにも追い回されていた。ある日、ビンドゥがジャニを誘ったことからスディープは激怒、ジャニを拉致してなぶり殺しにする。
登場人物の感情表現が非常に明確なうえ音楽で強調されるので、誰が見てもきちんとストーリーが理解できる構成は、いかにもインド映画。また、復讐という血なまぐさいテーマのなか、暴力がはびこり、銃弾が飛び交い、爆発が起き、ガラスや針が人体に刺さる痛みを伴う映像にもかかわらず、擬人化されたハエのユーモラスな動きが中和しているので残酷さをあまり感じさせない。
どんな内容であれ映画はエンタテインメント、観客を心底楽しませなければならないといった思想が貫徹され、頭を空っぽにしてスクリーンに没頭できる作品だった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「マッキー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131016を参考にしてください。
本日はもう1本
「危険なプロット」です。

他人の秘められた日常を知りたい、そしてそこに隠された真実をあぶりだしたい。かつて作家を志した教師は、立場を忘れて好奇心に負けてしまう。彼の欲望を見抜いた若き作家はその気持ちを巧みに利用し、子弟の関係は逆転していく。映画は高校の国語教師が生徒の文才を伸ばそうとアドバイスするうちに、いつしか彼の紡ぎだす物語に絡め取られていく姿を描く。自分を圧倒的に凌駕する能力を持つ少年に出会ったとき、大人はどう対処すべきか。しかも本人は己の可能性にまだ気づいていない。何をすべきで何をすべきでないか、正しく導けるのか。主人公の逡巡と葛藤は、天才に嫉妬するあらゆる凡人を象徴する。
生徒の駄文にうんざりしていたジェルマンは、クロードが書いた文章に光るものを見出す。文体、ボキャブラリー、表現、先を期待させる展開は申し分なく、ジェルマンはクロードに個人的な指導を申し出る。
クロードの作文の内容は、クラスメートの家庭をのぞき見する視点で描写したもの。悪趣味と注意しつつもジェルマンは、読者を惹きつけてやまない構成に続きを読みたくて仕方がない。彼の妻・ジャンヌも夢中になっていく。いまや連載小説と化した完成度の高い作文に舌を巻きつつも、教師としてのプライドは守りたいジェルマン。だが、クロードはそんな彼の心に更なる言葉の毒を仕込んでいく。
美しさと狡猾さを備えたクロードを演じるエルンスト・ウンハウワーの悪魔のような妖しさが、ミステリアスな魅力をふりまいていた。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「危険なプロット」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131024を参考にしてください。

2013年10月24日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/24)

本日、とりあげる作品は
「マダム・マーマレードの異常な謎 出題編」です。

映画の中で提示された謎を、与えられたヒントを元に観客が上映時間内に解く。しかも3分間の"シンキングタイム"を3度挟む思いがけない展開は、"史上初"らしい。映画は、30年前に死んだ高名な映画監督の未公開フィルムに残された「遺言」の解明を依頼された"謎解き屋"と共にそのフィルムを見る設定の下、趣向を凝らした3本の短編を楽しめる構成になっている。芝居がかったヒロインをはじめ胡散臭そうな登場人物がそろった現在のパートに比べ、劇中劇は時代を感じさせる古風な作風。そんな手の込んだ作りに、遊園地のミステリーツアーに参加しているような高揚感を覚える。
"解けない謎はない"と豪語するマダム・マーマレードは古い豪邸に招待され、世界的名声を得ていた藤堂監督の遺族から彼の遺書の真意を探り出してくれと頼まれる。手がかりは「最初のセリフ」のみ。
1本目の「つむじ風」は、好きになってはいけない人に恋をした少女が、デビュー当時の吉永小百合を連想させるきらめきで繊細な心を表現している。気持ちは直接口にするか手紙でしか伝えられないもどかしさが初々しい。2本目の「鏡」は、鏡の中に閉じ込められた女に強く惹かれた男が、彼女を救い出そうとするうちに邪悪な怨念に呪われていく。
3本目の、頭の弱い少女の母への思いを描いた「やまわろわ」は、これだけ独立させても通用するほどの情愛にあふれた作品で、少女の一途な感情が胸を打った。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「マダム・マーマレードの異常な謎 出題編」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131003を参考にしてください。
本日はもう1本
「人類資金」です。

騙しているつもりが利用され、操っているはずが躍らされている。戦後、さまざまな巨額の詐欺事件が起きた「M資金」。映画は、マネーゲーム資金と堕した「M資金」を正しい使い道に戻そうとする戦後世代の奮闘を描く。世界の富の99%を独占する富裕層と、数十億人の貧困層。それらの対立項を軸に、ある種の正義感に目覚めた主人公の冒険の旅は、コンゲームとアクションが入り混じりより複雑にねじれていく。だが、東京・極東ロシア・東南アジア・NYと地球を半周する壮大なスケールに見合う内容に乏しく、「人」に投資してこそカネは生きるというテーマにたどり着くまで迷走が続く。
「M資金」をネタに詐欺を繰り返す真船は東南アジア系の男・セキを通じ本物の「M資金」に関係するグループに呼び出され、Mと名乗る責任者から「M資金」の管理財団から10兆円を詐取する計画を依頼される。
その後、真船やセキの前に自衛隊のスパイ組織や米国の殺し屋が現れたり、「M資金」を"相続"した老人などの思惑が絡むなど、ますます全体像が見えづらくなっていく。さらにセキの故郷である極貧国の資源開発を利用して国際マーケットに仕手戦を仕掛けるなど、真船は自らの詐欺行為を"良心の戦い"と定義づけていく。
ところがそのエピソードの数々は極めて大雑把で、"ホラ話にリアリティを持たせるのはディテール"のルールを無視している。パソコンで取引する時代に50億円分の札束を用意する必要があるのか。。。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「人類資金」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131020を参考にしてください。
本日はもう1本
「アルカナ」です。

心霊現象なのかまったく新しい怪奇現象なのか、臨死体験した人間は自らの分身を体から分離させ、分身は独立した人格として活動する。生気のない顔ながら卓越した身体能力で人間を襲い、その心臓を糧として闇の世界で生きている分身。映画はそんな彼らが起こした惨殺事件を追う刑事が記憶喪失の少女とかかわるうちに、霊が見える能力で覚える疎外感を共有し、お互いに理解を深めていく過程を描く。スタイリッシュな映像を短いカットにしてスピーディに畳み掛けてくる。
死者の霊が見える刑事の村上は、大量殺人事件の現場で逮捕された少女も同じ悩みを持つと知り、彼女に接近する。自彼女に、村上はマキと名付け、殺人犯と決めつける同僚から守ろうとする。
一方、警視庁の心霊事件専門班が、惨殺事件は分身の仕業と断定、村上の捜査に介入してくる。同時に、マキとそっくりのさつきが現れ、マキの正体が明らかになっていく。普通は分身になるとゾンビのような邪悪な面を見せるのに、彼女たちの場合、さつきが親不孝者なのに対しマキは気立てがよくおとなしい。分身のほうがより愛される存在という皮肉が、本体と分身の価値の差に疑問を投げかける。
しかし映画はそれらの要素を取り留めなく羅列しているのみ。村上が爆弾犯を追うアクションの疾走感や、最強分身・ミチルとの格闘場面の躍動感は洗練されていただけに、もう少しきちんとした構成の脚本を作ってほしかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「アルカナ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131021を参考にしてください。

2013年10月19日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/19)

本日、とりあげる作品は
「もうひとりの息子」です。

自分はいったい何者なのか。体に流れているのは異教徒の血、でも両親は愛してくれる。過去を取り戻せないのならせめて真実を知りたい、その上で現実を直視するしかない。物語は、戦乱の中で生まれた2人に衝撃の事実が判明したのを機に起きる、本人たちと家族の葛藤を描く。宗教も言葉も異なる本当の父と母、しかも互いに敵対関係にある地域に住んでいる。いまだ高い壁に分断され流血の絶えないパレスチナ、映画は2つの家庭の交流を通じて人間の理性と良心を導き、2人の青年に未来を託す。
イスラエル人に育てられたヨセフは病院で取り違えられたアラブ人の子だと告げられる。パレスチナ人のヤシンも、ユダヤ人の子と知らされる。双方の家族は食事会を開き、2人は心中を打ち明け合う。
初めて親同士で面会した時、母親たちは息子の写真を見せ合ってすぐに打ち解けるのに、父親たちは憮然と席を立つ。過ぎてしまったことよりもこれからを考える女と、名誉を傷つけられたととらえる男。このあたり「そして父になる」の親たちと似たような反応だが、わが子への親の気持ちは国や民族が違っても変わらないのだ。一方、ヨセフとヤシンはわだかまりを呑み込んで友人になっていく。
軍人であるヨセフの父に嫌悪感を抱いていたヤシンの父が通行証を融通してくれた礼に訪れ、2人が無言でコーヒーを飲むシーンが、理性とは怒りや憎しみを抑制する冷静さだと訴える。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「もうひとりの息子」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130828を参考にしてください。
本日はもう1本
「ブロークンシティ」です。

欲望渦巻く汚れきった町、政治家もまた金権体質にまみれ強欲を隠さない。市長選を控えたNY、再開発の利権をめぐって現職市長と対立候補が公開討論する場面が刺激的だ。公共工事か、富裕層への増税か。まるで財政再建に苦慮する昨今の日本の現状を見るような身近な話題に、否応なく引きずり込まれる。映画は、とんでもないスキャンダルを入手した探偵が、そこに仕組まれた罠に気づくうちに自らも命の危険にさらされていく過程を描く。自分自身の良心とも戦う運命に直面する苦悩に満ちた探偵をマーク・ウォールバーグが熱演、荒んだ街並みにぴったりとなじんでいる。
捜査中に容疑者を射殺したビリーは無罪になったものの警察を退職、今は探偵事務所を開いている。ある日、市長のホステラーに呼び出されたビリーは、ホステラーの妻・キャサリンの浮気調査を依頼される。
ビリーはキャサリンに尾行をやめるようくぎを刺されるが、証拠写真をホステラーに渡してしまう。折しも市長選を直後に控え、支持率を挽回したいホステラー。ホステラーとキャサリンは仮面夫婦なのか。ホステラーと対立候補の言い分はどちらが正しいのか。さらに再開発業者との癒着と内通者の存在。謎が謎を呼ぶ展開の中で、最初からビリーはホステラーの捨て駒にされていたのだけは確か。
政治家と土建屋が巨利をむさぼろうとする、オリンピック招致でこんなきな臭い話が東京でもあちこちで出るのではと思わせる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ブロークンシティ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130910を参考にしてください。
本日はもう1本
「マイク・ミルズのうつの話」です。

心が鉛になったように重く、押しつぶされる苦しみに襲われる。生きていてもつらいばかり、いっそのこと死んでしまいたいと思いつつ、なかなか実行に移せない。睡眠中は現実を忘れさせてくれるのでベッドから出られないetc. それが病気として一般的に認知されたのは古い話ではなく、21世紀になって米国の製薬会社がキャンペーンを張ったからだという。ある程度抗うつ薬で症状が抑制できる、でも薬をやめるとまた気分が落ち込んでしまう。映画は毎日数種類の抗うつ薬を服用し続ける5人の日本人の日常に密着し、彼らが何を考えどう暮らしてきたかを追う。
うつ克服にミカは毎日嫌いな酢を飲む。睡眠中が一番幸せというカヨコは自殺願望が消えない。酒もタバコもやめられないダイスケは抗うつ薬もやめられない。両親と同居中のタケトシは自立の道を探る。
5人の登場人物の中ではケンがいちばん個性的。半ケツ状態のホットパンツにハイヒールを履いて街に出る典型的なゲイファッション。人あたりも話し方もごく普通で、心を病んでいるようには見えないし、ゲイに対する偏見と闘っているわけでもない。何が彼を追いこんでいるのか、結局は彼自身にもわからない。
唯一、縄師に縛られ吊るされる瞬間は心が解放される。ケンだけは自分なりにうつとの付き合い方を学び実践し、己の置かれている状況を何とか快適なものにしているように見えた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「マイク・ミルズのうつの話」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130927を参考にしてください。

2013年10月17日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/17)

本日、とりあげる作品は
「ダイアナ」です。

警備員や執事といった人々に四六時中守られ、身の回りの世話を任せているけれど、胸の内を打ち明けられるのはエステティシャンだけ。かつて世界中の注目と祝福を浴びた元皇太子妃の眼前にあるのは、抱えきれないほどの孤独。そんな彼女が、初めて自分を特別な目で見ない男と出会い、恋に落ちる。物語は若くして交通事故死したダイアナ元妃の最期の2年間を描く。慈愛あふれるプリンセスの顔で海外を飛び回りつつも、女としての幸せを追いかけて己に正直に生きようとする。一見愚かにも見える、葛藤する姿が人間的で親近感を覚える。
離婚したダイアナは人生に倦んだ日々を送っていた。ある日、父危篤の知らせが入り病院に駆け、主治医・ハスナットの飾らない人柄にときめきを感じたダイアナは、彼を宮殿に招待し親交を深めていく。
離婚後もそれなりの身分は保障されているが、世間からみるとゴシップの対象。だがハスナットと一緒にいたい気持ちを抑えきれない。クルマのトランクに身をひそめたり、駐車場でクルマを乗り換えたり、黒髪のウィッグで変装したりと、涙ぐましい努力をして束の間の逢瀬を楽しむふたり。
ハスナットとの甘いひとときに身も心も溺れていくダイアナは普通の恋する女と変わらない。一方で地雷除去活動では並々ならぬ決意を全世界に示す。その私生活と公務のギャップが、彼女が人々に愛された理由だろう。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ダイアナ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130918を参考にしてください。
本日はもう1本
「ゴースト・エージェント R.I.P.D.」です。

ショットガンを浴びて落下、床にたたきつけられた男が目を開けると、人は鼓動を止め、飛び交う破片や銃弾、パトカーまでが空中で静止している。固まってしまった世界で覚醒し足を動かしているのは自分だけ。3Dで再現された奇妙な感覚、奥行ある映像が「死」をリアルに実感させる。物語は殉職した刑事が、成仏せずに悪事を企む悪霊たちを取り締まる捜査官になって大活躍する姿を描く。未練を残した妻に思いを伝えたいが、全くの別人の外見で復活しているため取り合ってもらえない。そのギャップが、派手なアクションの中にもユーモアと切なさをもたらし、主人公の愛の深さを代弁していた。
刑事のニックは横領した金塊を返納しようとして相棒のボビーに殺される。あの世の入り口で悪霊捜査官・R.I.P.D.に志願したニックは、ベテラン捜査官・ロイとコンビを組んで地上に戻ってくる。
R.I.P.D.隊員同士には生前の風貌のまま認識されるが、生きている人間にはニックは中国人の老人、ロイはブロンド美女に見えている。ボビーがニックの妻・ジュリアに近づき金塊の隠し場所を聞き出そうしても、ニックに阻むすべはない。
映画は謎解きの面白さよりも視覚効果に軸足を置き、悪霊ハンター対悪霊たちのバトルで楽しませようとする。あらゆる方向から降り注ぐ多大な情報量のCGと音響の圧倒的な臨場感に、体験型アトラクションに参加している気分を味わった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ゴースト・エージェント R.I.P.D.」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130906を参考にしてください。
本日はもう1本
「陽だまりの彼女」です。

風に揺れるモービルをせわしなく目で追う、興味がないと素知らぬふり、関心を持ったことには目を丸くして好奇心をむき出しにする。かまってほしいときには体を摺り寄せるけれど、相手の話はほとんど聞いていない。熱いコーヒーを飲めない・・・。気まぐれだけど一途なロインを上野樹里がしなやかに演じる。物語は10年ぶりに中学時代の同級生に再会した主人公が、彼女の魅力を再発見していく過程を描く。ふたりにとってはつらい過去も、共に過ごすうちに美しく懐かしい思い出に変わっていく。そんな恋の魔法の数々が、きらめくような映像に再現されていた。
広告会社に勤務する浩介は、取引先で打ち合わせに現れた真緒に驚くが、思い切って誘いのメールを出す。真緒は快く返事、ふたりはデートを重ねる仲になるが、浩介は真緒の父から衝撃の事実を知らされる。
中学時代いじめられていた真緒を助けた浩介はクラスから孤立し、ふたりは仲良くなる。男女で一緒にいるのが恥ずかしくて仕方のない年頃なのに、真緒は浩介から離れない。浩介の何気ない優しさとただ浩介といるだけでほおが緩む真緒、すっかり忘却の彼方に置き去りにされていた出来事が浩介の脳裏によみがえる。
ところが浩介の胸に真緒との記憶が蓄積されるに従って真緒がやつれていく。満ち足りた毎日に暗い影がよぎり、真緒が命を削って秘密を守る姿が哀しく、事情が呑み込めず葛藤する浩介の苦悩が切ない。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「陽だまりの彼女」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131014を参考にしてください。
本日はもう1本
「レッド・ドーン」です。

轟音と共に目覚めると空挺部隊がパラシュートで降下してくる。平和な町はあっけなく制圧され市民は自由を奪われる。経済危機とサイバーテロで弱体化した防衛ラインはいとも簡単に破られ、敵の侵入を許してしまった米国。映画は、海外に派兵はしても、核ミサイル以外に本土が攻撃されるのを想定していない弱点を衝く。だが祖国を守ろうとする勇者は必ず現れる。物語は、一度は山中に逃げた若者たちが解放軍を組織して、占領軍相手に戦う姿を描く。無理のある設定ながら、愛国心を鼓舞する効果は絶大だ。
田舎町の高校生・マットの元に海兵隊員の兄・ジェドが帰郷してくる。翌朝、北朝鮮軍が米国に侵攻、支配下に置くが、ジェドとマットは数人の友人と共に山小屋に隠れ、武器弾薬食料を集めて徹底抗戦を誓う。
彼らの中で銃の扱いに習熟し戦闘経験があるのはジェドひとり。ジェドは占領軍から強奪した小銃・爆弾でマットたち高校生を鍛え上げ、ゲリラ戦術を叩き込む。ウルヴァリンズと名乗る彼らは、町のあらゆる場所で爆弾を仕掛け、奇襲をかけて見事に北朝鮮正規軍を出し抜く。
要するにこの作品は、かつてのベトナムや21世紀のイラク・アフガンでの米国の占領政策の裏返し。故郷を土足で踏みにじった外国人に間違いを思い知らせてやる、そんな不屈の魂を持った人間がいる限り、力による統治は早晩破たんすることを米国のタカ派指導者たちに逆説的に訴えているのだ。そのメッセージは皮肉に満ちているだけに強烈だった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「レッド・ドーン」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131015を参考にしてください。
本日はもう1本
「ムード・インディゴ うたかたの日々」です。

腕利きのコックが作る自己主張する料理、蛇口から出てくるうなぎ、演奏に合わせてカクテルを作るピアノ、長く伸びた足をくねらせるダンス…。独創的な小道具とパリの古い町並みはレトロフューチャーなイメージに命を与え、主人公が体験する、夢で見たような風景と愛の苦悩を再現する。ところが、あまりにも奇抜なアイデアの数々は驚きやあこがれを遠く超えてしまい、そこから放たれるファンタスティックな毒は何のメタファーなのかまったく見当がつかない。結果的にこの作品の世界観から完全にはじき出されてしまった。
コランはパーティでクロエを紹介され、たちまち恋に落ちる。ふたりは結婚するが、クロエは肺に睡蓮の花が咲く病気に侵され、高額な治療費のせいで資産が底をついたコランは仕方なく働きに出る。
小説の描写を可能な限り豊かな想像力で視覚化しているのだろう。カラフルな前半は、それゆえ遊び心に富み、不思議の国に迷い込んだ感覚にとらわれる。だが、それらが物語の展開にどんな影響を及ぼしているのかは不明で、ただ妄想に似た思いつきを具象化するばかり。コランとクロエの思考や行動にどうかかわるのかも理解できなかった。
不条理劇とはちがう、奔放なイマジネーションで満たされたコランとクロエの甘く切ないメロドラマととらえるべきなのだろう。恋をしている間は目に入るすべてがが極彩色の楽しさに彩られる、そんな幸せに浸っていられる者のみがこの映画を堪能する資格を持つのだ。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ムード・インディゴ うたかたの日々」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131013を参考にしてください。

2013年10月10日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/10)

本日、とりあげる作品は
「トランス」です。

失くした記憶は取り戻せるのか、消された記憶はよみがえるのか。潜在意識に埋もれたしまった出来事を浮かび上がらせた男は、知らなかったはずの事実に驚き戸惑い恐怖する。今の自分は何者なのか、本当の自我はどこにあるのか、誰かにコントロールされているのか。現実と虚構の境界が分からないほど深いトランス状態で、彼はようやく真実にたどり着く。スタイリッシュな映像とスピーディでミステリアスな展開は、主人公の混乱した頭の中を覗き込んでいる気分になる。
競売員のサイモンは強盗のフランクを出し抜いて強奪されたゴヤの名画を横取りするが、フランクに殴られたせいで隠し場所を忘れる。サイモンは催眠セラピスト・エリザベスに記憶を修復してもらう。
エリザベスは浅黒い肌の大きな目のいわくありげな美女。サイモンの素性と目的を即座に見抜いた彼女は、フランクに自分も一枚かませろと持ちかけるなど、ギャングを恐れない大胆さも持つ。彼女がサイモンの意識の深層に働きかけ手がかりを探していく過程で、サイモンの脳内に投影されるのは、夢でもなく幻覚でもなくどこか知覚と妄想が入り混じったリアルな感覚に満ちたヴィジョン。それは蓄積途中でサイモンの脳が都合よく脚色した疑似体験にも見える。
さらにエリザベスの不審な行動が、一筋縄ではいかない複雑な事件の構造を徐々に明らかにしていく。操っているのはだれか、嘘をついているのはなぜか、謎が謎を呼ぶ構成に一瞬も目が離せなかった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「トランス」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130803を参考にしてください。
本日はもう1本
「パッション」です。

親切な上司を信頼してはいけない、忠実な部下に心を許してはいけない、二股男を愛してはいけない。完全実力主義の会社、そこでは誰もが強烈な上昇志向で、結果を出した者だけが生き残り昇進していく。物語はそんな広告代理店に勤務する女たちの裏切りと嫉妬、欲望と罠のパワーゲームを描く。クローズアップの多用と感情を刺激する音楽、そして丁寧なカメラワークで撮影された登場人物の心理描写は古き良きミステリー映画を見ているよう。それぞれのシーンをじっくりと見せる、ゆったりしたテンポが逆に新鮮だった。
スマホ新製品のCMデモテープを作製、社内で好評を博したイザベルは、手柄を上司のクリスティーンに横取りされる。だがイザベルはビデオを投稿サイトで公開、すると大反響を得て社長に絶賛される。
その日からクリスティーンの露骨な嫌がらせが始まり、イザベルは精神的に追い詰められていく。部下のダニが味方になってくれたお陰で何とか打開策を出すが、起死回生とまではいかない。魅力的な微笑みを絶やさないクリスティーンに、容姿に恵まれないイザベルは歯が立たない。もはや学校での"いじめ"のレベルといえるほど執拗で陰湿、女同士の怨念と悪意の衝突はすさまじいまでの緊張感を生んでいく。
その過程で、デ・パルマ監督は情報を詰め込んで考える時間を与えない昨今の流行とは一線を隠し、腰を落ち着けてじっくりと彼女たちの胸の内を再現する。サスペンスの王道を行く演出だった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「パッション」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131007を参考にしてください。
本日はもう1本
「ランナウェイ 逃亡者」です。

正義の闘いだったはずなのに無辜の市民を死なせてしまった。その事実は30年を経ても良心の呵責となって元活動家たちを責める。罪を償うべきか逃げ続けるべきか。物語は、1960年代の過激派が、元同志の逮捕で窮地に追い込まれる姿を描く。もはや老人の域に達した彼は、今は平穏に暮らし守るべき家族もいる。だが消したかった過去は思わぬところからかま首をもたげてくる。そして彼の逃亡劇は自分自身の真実を再発見する旅でもある。相変わらず好青年が齢を重ねたようなロバート・レッドフォードが、息も絶え絶えにジョギングするシーンが時の流れを感じさせた。
30年前の銀行強盗殺人容疑で反戦運動の元闘士・シャロンがFBIに拘束される。新聞記者・ベンは事件の取材を進めるうちに、地元の弁護士・ジムの正体が同事件で指名手配中のニックだと突き止める。
FBIを出し抜いて逃走するニックは、かつての同志・ミミの消息を求め、昔の仲間を訪ね回る。当然30年前の忌まわしき亡霊ともいえるニックの訪問を歓迎していないのは明らかで、旧交を温め合うなどというセンチメンタルなことはしない。
それでも、決してニックを裏切ったりはせず、救いの手を差し伸べるのは、むしろニックに自らの過去の清算を託しているから。仲間との信頼だけは守ろうとする、命がけの修羅場を乗り越えてきた彼らの絆に、強固な意志を持って生きてきた人々の信念がうかがえた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ランナウェイ 逃亡者」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131008を参考にしてください。
本日はもう1本
「ルノワール 陽だまりの裸婦」です。

降り注ぐ陽光、風にそよぐ木々や草原、小川のせせらぎ・・・。自然と気候に恵まれた南仏に居を構え、病気と闘いながら絵筆を操る老画家。若さの輝きに満ちた娘は彼の意欲を刺激し、体力の衰えを忘れさせてキャンバスに向かわせる。尻、胸、背中、顔の輪郭、曲線だけで素描された彼女の裸像は豊かなイメージを喚起し、人生の喜びを謳歌するよう。もはや情熱を発散させる年齢ではない、黙々と絵具を塗り、目の前の風景を絵筆一本で幸せの魔法がかかった世界に変貌させていく過程は、芸術家というより職人の技を味わう気分だ。
ルノワールの邸宅を訪れたアンドレはモデルに雇われ、彼のアトリエに出入りし始める。ルノワールはリウマチに侵され手足が不自由だったが、それでも指に絵筆を巻き付けてアンドレのヌードを描き続ける。
第一次大戦中とは思えないほどのどかな日常、そこに負傷して除隊になった二男のジャンが帰ってくる。ルノワールの創作に付き合い毎日アンドレの裸を見ているうちに、当然ジャンは彼女に魅かれていく。しかし、彼女は父のモデル、今まで父がモデルに手をだし母もそのうちの一人だと知っているジャンは複雑な心境だっただろう。
ただ、この作品は極めて散文的で、淡々とエピソードが語られるのみ。自転車をこぐアンドレの主観で始まるのだから、彼女が見聞した"ルノワール父子の真実"的なアレンジが欲しかった。美しい映像が紡ぎだす至福のシーンの数々が、物語に昇華されていないのは残念だった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ルノワール 陽だまりの裸婦」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131006を参考にしてください。

2013年10月5日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/5)

本日、とりあげる作品は
「R100」です。

突然現れた女王様に回し蹴りを喰らい、握りずしを叩き潰され、噴水に沈められる男。苦痛の奥にある愉悦に思わず目を細めほおを緩める。病床の妻を心配しながら一人息子とつつましく暮らす彼にとって、唯一心が休まる瞬間だ。物語はSMクラブと特別な契約を結んだ主人公が徐々に蝕まれていく姿を描く。肉体的だけではない、精神的にも追い詰められる彼の、もう逃げ出したい、でも忘れられない、一度足を踏み入れると絶対に抜け出せない禁断の忘我をシュールな映像で再現する。既成の価値観で理解しようとしてはいけない、ただ受け入れるのみ。松本人志も"考えるな、感じるんだ"の境地に達したようだ。
サラリーマンの片山はSMクラブ"ボンデージ"に入会、その日から日常生活に女王様が闖入し彼を責める。当初片山はサプライズに満足していたが、次第にエスカレートするプレイに悩まされ始める。
女王様が片山の職場を訪れ彼を鞭打ち罵倒する場面には不安を、妻が入院する病室で片山を縛りろうそくを垂らすシーンには危うさを覚え、身の危険を感じた片山が警察に相談する気まずさと困惑には脇腹をくすぐられる。さらに謎の男が警告を発したりするなど、一応ストーリーはあるが、もはや限りなく妄想に近いまったく先の読めない不条理な展開。
だがそこから発散される豊穣なイマジネーションは強烈な引力を放ち、笑いと共感と未体験の興奮を味あわせてくれる。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「R100」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130815を参考にしてください。
本日はもう1本
「フローズン・グラウンド 」です。

昼なお薄暗い極北の地、弱々しい太陽の光は町の片隅でひっそりと生きる人々には届かない。それでも石油目当てに様々な人が集まり、夜の街を徘徊する女たちを餌食にする変質者も密かに牙を研ぐことができる。映画は1983年にアラスカで発覚した大量殺人事件を追う。善良な市民として暮らす犯人、わずかな手がかりを元に現在と過去を結びつけていく刑事。沈んだ映像が犯人の心の闇と被害者の絶望を象徴し、邪悪なエネルギーとなって刑事に伝わっていく。
保護された娼婦・シンディはハンセンを告発、州警察のジャックは彼女の証言を元にハンセンの身辺を洗う。身元不明死体が連続して発見された事件との関連に気づいたジャックはシンディに協力を求める。
ハンセンは前科はあるが、今では市警察も認めるほどの模範的な住民。だが、娼婦ばかりを監禁・レイプしたうえ猟銃で射殺するという残忍な裏の顔を持つ。飛行機に乗せて原野で犯行に及び死体を埋めるために、なかなか警察の手が及ばず、ジャックたちは後手後手に回る。論理的な仮説は立てられるが証拠はない、そんな状況で右往左往しているうちにハンセンの魔手は唯一の証人であるシンディに再び伸びる。そのあたりの描写はあくまで感情を抑制し、サスペンスを盛り上げるような演出はしない。
ハンセンを演じたジョン・キューザックは狂気をあえて封じ込めて、人殺しが日常と化した男のダークサイドを表現する。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「フローズン・グラウンド 」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130822を参考にしてください。
本日はもう1本
「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」です。

マリリン・モンローのシンボルともいえる左ほおのホクロ。デビュー間もないころの写真にはなかったり、彼女のセックスアピールの証となった後も、時に大きくなったり小さくなったり、薄くなったり消えたり。シチュエーションに応じて微妙に見かけが変わっていることに初めて気づいた。映画ではホクロの件には触れていないが、その変化は、彼女の波乱万丈の人生を象徴しているかのようだ。
マリリン・モンローについて書かれ出版された本は1000冊を超え、最近2箱分の手紙が見つかる。そこには彼女の夢、努力、不満、孤独などが赤裸々につづられ、彼女の知られざる一面を知ることができる。
20世紀FOXのカメラテストを受けたマリリンは大物プロデューサー・ザナックと寝て役を与えられる。彼女は"枕営業"を恥じてはおらず、スターになるためのステップと割り切っている。もちろん他の女優以上にレッスンに励み、チャンスが来た時の準備は怠らない。さらに無名時代のヌード写真流出事件も利用して売名を図る。
後に、NYで本格的に演技を学び、自己の深層を見つめる作業に没頭する。その先にあるのは誰にも理解されない不安と恐怖。だが、契約を棒に振って出席したJFKのパーティでも、やっぱりセクシーなマリリンを演じている矛盾。マリリン・モンローという虚像の大きさに耐えきれなかった彼女の苦悩の深さは、"alone!!!!!!"の言葉の後に付いた感嘆符の数が物語っていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130831を参考にしてください。

2013年10月3日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/3)

本日、とりあげる作品は
「謝罪の王様」です。

ただきちんと謝ってほしかっただけ。相手の思いに気づかず謝罪のタイミングを逃し、いたずらに事をこじらせる。映画は "謝罪の言葉を口にしたら負け"という米国流の悪しき習慣に染まってしまい、道や電車で他人にぶつかっても知らんぷりし、失敗しても自分の落ち度を認めようとしない昨今の日本人に、「ごめんなさい」は社会生活の潤滑油だと再認識させてくれる。
係争相手の怒りを鎮める謝罪師・黒島は、ヤクザと交通事故を起こした典子を助手に雇う。典子はセクハラで訴えられた会社員のケースを担当するが交渉は難航、黒島が奥の手を使って訴訟を取り下げさせる。
その後も芸能人夫婦の謝罪会見、やり手弁護士と娘の不和の修復など難問を解決していく。彼らはみな悪意があるのではなく、反省の気持ちを表現するのが下手なだけ。黒島はそんな彼らに、どうすれば相手の心を開けるかをレクチャーする。あくまでコミカルに処理し説教くささを消しているが、黒島のノウハウは実生活で応用できるほど具体的で、思わずメモしたくなった。さらに外交問題を一任され、そこでも重大な過失ほど素早く誠意のこもった対応を見せる大切さを説く。
互いに無関係に見えるそれぞれのエピソードの依頼人同士が実は細い糸で繋がっていたり、何気ないシーンが別のシーンの伏線になっているなど、宮藤官九郎の脚本は熟練のテクニックみせる。特に少女が口ずさむ「わき毛ボーボー自由の女神」が頭から離れなかった。。。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「謝罪の王様」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130930を参考にしてください。
本日はもう1本
「地獄でなぜ悪い」です。

過剰な言葉、過剰なサウンド、過剰な演技、過剰なイメージ、そして何より映画への過剰な愛。五感のみならず思考までも支配しようと試みる凶暴な映像の数々と、先が読めない奇想天外な展開は、まさに全開の園子温ワールド。信念を曲げず目標に向かって突き進む青年と、妻子のためにすべてをなげうつヤクザ、野性を秘めた娘と彼女に心を奪われた男たちが入り乱れて繰り広げられる大殺戮は、血と暴力の饗宴を原色アートの域に昇華させている。だが、もはや暴走列車と化した物語の加速と破壊力に感性は追いつかず、トップスピードに達する前に悪酔いしてしまった。。。
映画監督を目指す平田は、"映画の神"に見出される日を待つばかり。ある日、娘のミツコ主演の映画を撮りたいヤクザの組長・武藤に拉致されたコウジから、アクション映画の監督を依頼される。
やる気はある、アイデアもある、でも才能はなくチャンスはこない。"映画監督"という肩書で自己陶酔に浸っている平田は、あらゆる映画青年の象徴。根拠もなく願いがいつか叶うと信じる自信だけが彼を支えている。一方の武藤は義理人情を重んじる古いタイプの武闘派で、いまだ切った張ったの世界に生きている。
基本的な設定で、ブルース・リーと深作欣二へのオマージュといったタランティーノの二番煎じではなく、現代の映画青年やヤクザが影響を受けたクリエイターに焦点を当てていれば新鮮さを感じたはずだ。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「地獄でなぜ悪い」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131001を参考にしてください。
本日はもう1本
「イップ・マン 最終章」です。

武術家でありながら、哲学者のようでもある。いかなる時でも表情を変えず呼吸も乱れないない物静かな風貌は、達人の域にあることを示す。床に置いた新聞紙の上から一歩も動かず攻撃をしなやかに受け流し、相手の力と体重を利用して、最小限の動きで反撃するテクニックは芸術的。武術とはケンカの道具ではなく己の鍛練につかうべきもの、パワーやスピードを合理的に使いこなすところに奥義があるのだ。
1949年、香港に拠点を移したイップ・マンは雑居ビルの屋上に道場を開く。弟子たちは労働争議に参加したりするうちに、白鶴道場の弟子とイザコザを起こし、イップは道場主のン・チョンと闘う羽目になる。
イップもンもお互いの力量を図るためにまず問答を交わし、相手を値踏みする。その、求道者にのみ許された駆け引きが緊張感を誘う。また、地面に突き刺された数十本の太い杭の上で獅子舞を舞いながら繰り広げられるカンフーアクションはスピーディかつスリリングで、こんなスタントを考え出す香港映画人の意気込みに敬服した。
やがて、弟子のひとりがアングラファイトで九龍城の黒社会とトラブルになると、イップは弟子を率いて救出に向かう。敵味方大勢のファイターが入乱闘する中で、イップは拳だけでなく棒術を披露するし、ギャングのボスは鉤爪を使うなど、このシーンはまさに「燃えよドラゴン」のクライマックス。イップ・マンの物語を描いていても、やはり香港映画の源流はブルース・リーにあると、改めて思い知らされた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「イップ・マン 最終章」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131002を参考にしてください。

2013年9月28日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/28)

本日、とりあげる作品は
「TRASHED ゴミ地球の代償」です。

放置する、埋め立てる、焼却する。大量消費・使い捨ての時代、人間の日常生活から排出されるゴミは膨大な量となり、もはや適切に処理できなくなってきている。そこで問題視されるのはペットボトルやレジ袋といった自然分解されないプラスティック製のゴミ。それらはいつしか海に流出し、微生物が体内に取り込み、さらに食物連鎖を経て上位捕食動物に蓄積されていく。映画はジェレミー・アイアンズをガイドに世界のゴミ事情をレポートする。衝撃的な映像の数々は、ライフスタイルを改めなければ近い将来地球にぬぐい難い禍根を残すと警鐘を鳴らす。
環境に関心が深いジェレミー・アイアンズは、レバノンの古都・サイドン近郊でトラック満載の未処理のゴミが捨てられていく光景を見て驚く。英国では住宅地のすぐそばに大きな穴を掘りゴミを埋めている。
19世紀末以降、ゴミが急速に有毒化したのがいちばんの懸念材料とジェレミーは訴える。特に焼却したときに発生するダイオキシンが人体にもたらす影響は深刻。ベトナム戦争時にダイオキシン汚染された奇形児や胎児の標本は思わず目を背けたくなる。圧倒的にゴミを焼却場で処分するケースが多い日本においては他人事とは思えない恐怖だ。
当然ではあるが、最善の解決策はゴミを出さないこと。オーガニックを売りにする食料品・雑貨店では客にエコバッグを持参させ、無駄な包装は避けている。それが普通の市民にできるエコロジー活動なのだ。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「TRASHED ゴミ地球の代償」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130913を参考にしてください。
本日はもう1本
「椿姫ができるまで」です。

抒情的でリリカルな前奏曲でのパフォーマンスから大胆な意見を交わす演出家とプリマドンナ。激しい応酬にもかかわらず、お互いの考え方を理解しようとする2人はどこかこの議論を楽しんでいるよう。あまりにも有名で世界的に愛されているオペラ、その解釈は冒険しすぎると前衛的とそっぽを向かれ、チャレンジが少ないと凡庸と評される。そういったプレッシャーの中で新たなヒロイン像を構築していく2人。映画はエクサン・プロヴァンス音楽祭で上演された「椿姫」の制作に密着する。スタジオでの顔合わせからステージでのリハーサルまで、「椿姫」の物語の進行とともにオペラも完成に近づいていく斬新な構成のおかげで、メイキングと音楽の両方を味わえる。
稽古場に集められたか「椿姫」の主要キャストたち。ヴィオレッタ役のナタリーに演出家のシヴァディエが感情を解き放てと指示を出す。ピアノ伴奏でヴィオレッタになりきるナタリーは試行錯誤する。
第1幕、舞踏会が始まると、快楽が人生と信じるヴィオレッタの思いを体で示すナタリー。様々なキメポーズを披露する場面に彼女の繊細さが反映される。ヴィオレッタがアルフレードと出会い、快楽より大切なものに気づくシーンは、まさしく己の生きるべき道を発見する瞬間。
"不思議"という言葉について延々レクチャーするシヴァディエの狙い通り、ナタリーは愛こそが人生の真実と目覚めるヴィオレッタを歓喜に満ちた歌と演技で表現することに成功する。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「椿姫ができるまで」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130821を参考にしてください。

2013年9月26日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/26)

本日、とりあげる作品は
「そして父になる」です。

いわゆる"勝ち組"ライフを謳歌し、努力を惜しまないエリートビジネスマン。彼はひとり息子に過大な期待をかけているが、闘争心の乏しさに物足りなさを覚えている。そして息子が生物学上の子でないと知った時、"やっぱり"と口にしてしまう。息子を愛していないわけではない、でもどこかで引っかかっていた違和感、その原因がはっきりし、男はますます傲慢になっていく。物語は気付かずに他人の子を育てていた2組の夫婦が真実に直面し、戸惑い苦悩していく過程で、人生で一番大切なことを学んでいく姿を描く。それぞれの立場で現実を受け入れるしかない、彼らのリアルな感情が胸を締め付ける。
高級マンションに住む野々宮の元に、6歳の息子・慶多は取り違えられた他人の子だったと連絡が入る。本当の息子・琉晴は斎木という電気店夫婦に育てられていたが、子供たちを元の親に戻すと同意する。
相手の家に試験的にお泊りする子供たち。貧乏でも子簿脳な斎木の家で、おとなしかった慶多は重荷をおろしたように生き生きし始める。一方の琉晴は無機質なマンション暮らしに馴染めない。上から目線の野々宮と同じ高さに視線をあわせる斎木、格差の対極でも、子供にとってどちらが心を開きやすいかは一目瞭然。
頭でっかちの野々宮はなぜそうなるのか理解できず、カネで解決しようとさえする。2人の父親の人物像は極端に類型的だが、彼らの思考回路はわかりやすく整理されていた。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「そして父になる」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130805を参考にしてください。
本日はもう1本
「凶悪」です。

拡大コピーした住宅地図から目星をつけた家をしらみつぶしに当たる。やっと見つけたキーパーソンは口が重く有効な手がかりはなかなかつかめない。それでも聞き込みを続け、かかわった人々の人物像を浮き彫りにする過程で、重大な犯罪の確信を深めていく。死刑囚の話は信じられるのか、小出しにされた情報に振り回されながらも男はのめり込んでいく。まさに調査報道の王道を行く展開、ところが真実に近づくにつれ明らかになるのはおぞましいほどの人間のエゴばかりだ。ピエール瀧とリリー・フランキーが演じる犯罪者が、救いのない物語にすさまじいまでのリアリティを吹き込んでいる。
雑誌記者の藤井は、死刑囚の須藤から、警察も知らない殺人事件の告発を受け、独自に取材を進める。須藤の曖昧な告発書を元に被害者の足跡をたどるうちに、木村という男の過去が明らかになっていく。
普段は温厚な顔で家族や舎弟を大切にしている木村と須藤。だが、借金で首が回らない男を殺し焼却炉で燃やし、生き埋めにし、さらに家族から見捨てられた老人に保険金をかけて引き取り、いたぶった挙句命を奪う。その切り替えが劇的に起きるのではなく、あくまで日常の延長として殺人と死体処理が行われる。
そこには悪事を働いている自覚などない。身寄りのない土地持ち老人を"油田"に例える木村の厚顔に、善悪を超越した人間の恐ろしさが凝縮されていた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「凶悪」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130925を参考にしてください。
本日はもう1本
「ビザンチウム」です。

永遠の若さの代償は果てしない孤独。その秘密ゆえに人間とは心を通わせられず、同類からは追われている少女は、ノートに心情を綴っては破り捨てている。彼女が好意を寄せる少年は、難病で余命いくばくもない。映画は人目を避けて放浪するバンパイア母娘の関係が、新しい町での娘の恋によって壊れていく過程を描く。母みたいに強くはなれない、でも己の人生を選びたい、そんなヒロインの感情が切なく、時が止まったままの彼女の苦悩が浮き彫りにされる。望んでも死が許されない彼女たちの哀しみは、忘れ、忘れられることでしか癒されないのだ。
200年以上の時間を過ごしてきたバンパイアのクララとエレノアは、海岸の小さな町に流れつく。ある日、エレノアは白血病の少年・フランクと出会い、彼に自分の生い立ちを顧みた物語を読ませる。
普段は死を間近にした老人の血しか吸わないエレノアが、傷口から流れ出たフランクの血がしみ込んだハンカチをむさぼるようにすするシーンに、渇きに耐えきれない彼女の本性が見え隠れする。一方でクララは殺されて当然のポン引きか、正体を知った人間しか襲わない。
かつて昼間は暗がりで息をひそめ、人間の敵として忌み嫌われていた怪物然としたバンパイアの面影はもはや彼女たちにはなく、死ねない苦痛にさいなまれつつも生き続けなければならない姿は、まるで自らを罰しているかのようだ。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ビザンチウム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130924を参考にしてください。
本日はもう1本
「エリジウム」です。

劣悪な住宅に押し込まれた労働者は工場での危険な作業を余儀なくされ、大けがを負ってもほとんど補償されない。19世紀の工業国を思わせる格差社会、搾取される側は最低限の権利さえ与えられず貧困にあえいでいる。他方、人工衛星上の楽園に暮らす富裕層は先進の医療を施され、健康で快活な生活を享受している。人口増によって荒廃した近未来の地球、物語はスラム化したLAから脱出しようとする男の冒険を通じて、人が人として生きる意味を問う。高圧的なロボットの警官や役人に卑屈な態度をとる主人公が、権力に対して怒りより恐れを感じている、そんな希望なき"負け組"に生まれた彼の諦観が哀しい。
余命5日を宣告されたマックスは、エリジウム行きのシャトルに乗るために、工場の経営者を襲ってデータを奪う。エリジウムのNo2・デラコート長官は工作員のクルーガーにマックスを確保するよう命じる。
経営者はマックスら労働者にバイ菌を見るような目で接し、デラコートも不法侵入者のシャトルを容赦なく撃墜するなど、地球人の命など顧みない冷酷な特権意識を持っている。選民思想が支配層の常識になり、科学技術は進んでも人間の理性は後退しているあたり、行き過ぎた自由主義経済の暗い未来を予言しているようだ。
エリジウムに着陸したマックスの大活躍以外にもデラコートのクーデター計画や、秘密を知ったクルーガーの反乱などを盛り込んだために、いたずらに話が入り組んでアクションの切れ味を殺がれていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「エリジウム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130923を参考にしてください。

2013年9月21日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/21)

本日、とりあげる作品は
「甘い鞭」です。

四つん這いにされ、緊縛され、脚を広げたあられもない格好を強制された上で鞭打たれる女。肉体を痛めつけられることで、彼女はもう一度あの甘美な陶酔を味わいたいと願う。レイプされる恐怖でもない、服従を強いられた自我の放棄でもない、苦痛を超越した忘我でもない、そんな忌まわしいはずの過去が彼女の胸のなかでいつしか生きる目的になっている。物語は、高校時代に凄惨な事件の被害者になった経験のある女医が、凌辱の果てにたどり着いた禁断の境地を模索する姿を描く。聖女と娼婦を使い分ける壇蜜の熟した果実のような肢体がなまめかしく悶絶する映像は、世紀末的な退廃すら感じさせる。
産科医の奈緒子は、夜はM嬢としてSMクラブで男に体を提供している。彼女は17歳の時、変質者に1カ月間拉致監禁されたときに覚えた"甘い味"を忘れられず、以来それがなんだったのか探し求めていた。
17歳の奈緒子は男に縛られベルトで打たれる。32歳の奈緒子はプレー用の鞭に尻をさらす。逃げ場がなく命の危機と紙一重で絶望と闘っていた17歳の体験はSMクラブで再現きるものではなく、今の奈緒子は不満が募るばかり。彼女の体と心に刻まれているのは、あの一瞬の愉悦。それは事件の記憶以上に彼女の人生に影響を与え続けている。
映画は、奈緒子の肉体と精神を極限にまで追い詰めた時に現れる至高の感覚をひたすら追い続け、その過程で露わになる人間の本質を赤裸々に抉り出していく。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「甘い鞭」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130705を参考にしてください。
本日はもう1本
「ウォーム・ボディーズ」です。

薄れゆく記憶の中に少しだけ存在する意識は、死んだはずなのに生き続ける青年にとって苦悩の源。まだ人間の部分は残っている、でも空腹に耐えきれず人間に噛みついてしまう、かといってまったく理性を失ったガイコツにはなりたくない。そんなアイデンティティクライシスに陥ったゾンビ像が新鮮だ。物語は食料調達に出たゾンビが人間の少女に一目ぼれしたのをきっかけに起きる冒険を描く。決して恋に落ちてはいけない相手、しかしその思いは抑えきれない。映画は、他者への愛がハートに血を通わせ、生きる動機になり喜びを生むと訴える。
ゾンビとして無為に時間を過ごすRは、医薬品調達に来た人間の一団を襲ったときに、そこにいたジュリーに心を奪われる。ジュリーを匿いつつ彼女の歓心を買おうとするうちに、Rの体に変化が現れる。
人間はもちろんゾンビを警戒している。それ以上にゾンビたちも人間に"殺されない"ように集団行動を取る。ここではゾンビも"死"を恐れているという矛盾が、ユーモアを感じさせつつも、ゾンビでいる辛さを象徴する。Rにとってジュリーは無間地獄から救ってくれる希望に見えたのだろう、ジュリーの恋人の脳を食べて彼らの思い出を吸収し、その願いを確信に変えていく。
一方のジュリーも、Rが彼女を食うつもりがないと知って敵意を解く。争っているばかりでは悲劇が繰り返されるばかり、お互い理解しあえば新たな関係が構築できると、ふたりは身をもって証明しようとする。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ウォーム・ボディーズ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130809を参考にしてください。

2013年9月19日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/19)

本日、とりあげる作品は
「ウルヴァリン:SAMURAI」です。

三助おばさんにたわしでこすられたり、寺の坊さんがみな刺青を入れたヤクザだったり、剣道稽古や忍者軍団がやたら空中で回転したり、場末のラブホテルの奇妙なコンセプトに面食らったり……。不老不死を誇るミュータントも、古い因習・伝統と洗練された技術力が混在する不思議の国・ニッポンでのアウェイ戦はハプニングに見舞われっぱなし。来日経験がない米国人の日本へのイメージを見事に再現している。むしろ笑いを誘うほど戯画化されたシチュエーションに対するディテールへのこだわりが、映画にユーモアをもたらしている。
ウルヴァリンは日本人実業家・矢志田に東京に呼ばれが、重病の矢志田はウルヴァリンに死を与えると言い残して息絶える。ウルヴァリンは葬儀会場で誘拐された矢志田の孫娘・マリコを救い逃亡する。
永遠に生き続けるのは永遠の苦みなのか。愛した者にはいつも先立たれ、思い出はいつしか悪夢にかわって熟睡できる夜はない。そんなウルヴァリンが、初めて治癒能力を失い、傷ついていく。気を失うほどの痛みと出血が限りある命の証。無為な長生よりは目的のある死を選ぶ、その精神が人間を進化させてきたとウルヴァリンは知る。
田舎の村人と交流したウルヴァリンは、限りある命だからこそ他人と交わりを大切にし、精いっぱい生きる充実感を学んでいく。そして、自分を必要とする日本人と積極的にかかわって己の人生に意味を持たせようとする。この戦いはウルヴァリンの「自分探しの旅」なのだ。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ウルヴァリン:SAMURAI」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130917を参考にしてください。
本日はもう1本
「許されざる者」です。

馬には振り落とされる。刀は錆びている。ぶちのめされて顔を切りつけられる。何よりも死を恐れている。伝説の人斬りと呼ばれた男もすでに老い、日々の暮らしに窮するただの開拓農民。だが、作物が実らず子供たちに満足な食料を与えられないほどの貧しさに追い詰められたとき、亡き妻との約束を破って再び武器を手にする。その過程で、主人公たちが地平線まで広がる荒涼とした大地を渡り、森や小川沿いの道なき道をひたすら進む壮大なスケールの映像に圧倒される。そこに、弱き者、虐げられた者、すべてを失った者、無様でみじめで女々しいけれど人間としての誇りまで捨ててない人々の魂が慟哭となって共鳴し、巨大な感情のうねりとなってスクリーンにあふれ出す。
辺境の街で女郎が農民に顔を切られるが、警察署長の大石は穏便に事を収めようとする。復讐を誓った女郎仲間たちは犯人に懸賞をかけ、かつての戦友・金吾に誘われた元反政府派の十兵衛も街に向かう。
女郎の顔を切った男は賠償し、彼の相棒は悔いて詫びを入れる。強権的な大石は賞金稼ぎから街の秩序を守ろうとしている。女郎屋の主人も当時の価値観に照らせばまっとうに商売している。ある意味、この街に死に値する者は誰もいない。
一方で、もう人を殺めたくないと願っていた十兵衛がカネ目当てに街にやってくる。煮え切らない態度を取り続け、最後まで迷いを吹っ切れない十兵衛の表情に、"生きる"という業を背負った人間の大いなる苦悩が凝縮されていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「許されざる者」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130916を参考にしてください。

2013年9月14日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/14)

本日、とりあげる作品は
「あの頃、君を追いかけた」です。

勉強なんてダサい、仲間とふざけ合っている時間のほうがずっと大切。1日を楽しく過ごすことしか考えていない男子高校生、そんな彼のお目付け役にクラス1の秀才美女が指名される。最初は反発しあいながらも、お互いの優しさを触れるうちに、いつしか惹かれあうふたり。授業中のイタズラ、放課後の校庭、居残りの教室。ありふれた学校の風景をノスタルジックに描くのは青春モノの王道、時に登場人物の見当はずれな言動と微妙な間が、それらの瞬間をかけがえのない思い出の一コマとして輝かせる。映画は随所にコミカルなシーンをちりばめ、観客を笑いと懐かしさに包み込んでいく。
不真面目な高校生・コートンはいつも5人の悪友とつるみ、退屈な学園生活に刺激を与えようとしている。コートンに手を焼いた担任は、クラスのマドンナ的存在・チアイーに彼の指導を押し付ける。
冷たい優等生だと思っていたチアイーが、実は悩み多い普通の女子と知ったコートンは、彼女との距離を一気に縮める。しかし、他の友人たちがチアイーに告白しては撃沈される中、コートンは友達以上の関係に踏み込もうとはしない。チアイーが好きなのに認めたくないコートン、チアイーもまたコートンが気になっているのに素直になれない。
ヘアスタイルを変えて相手にだけわかるようにアピールしているのに、どうしても自分の気持ちを言葉で伝える勇気がない。ふたりの、恋愛に不器用な純情さがもどかしく、思わず背中を押してやりたくなった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「あの頃、君を追いかけた」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130808を参考にしてください。

2013年9月12日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/12)

本日、とりあげる作品は
「共喰い」です。

快感の極致に達すると暴力の衝動を抑えきれなくなり、思わず相手を殴り首を絞めてしまう。そんな性的嗜好の父親を持つ息子は、自分にも同じ血が流れているのを自覚し、嫌悪し、苦悩する。倦怠、諦観、絶望……人間が吐き出すあらゆる負のエネルギーが堆積し腐臭を放つ川辺の街、映画はそこから抜け出せず悶々とする高校生の日常を通じ、生きるとは業を背負うことだと訴える。好きな女といるのに楽しくない、セックスしても愛はない、何より息苦しくなる環境で、己の本性を知ってしまった主人公の表情が切なく哀しい。
父・円とその愛人・琴子の3人で暮らす遠馬は、幼馴染の千種とのセックスに自信が持てず、産みの母・仁子に愚痴をこぼす。ある日、千種の首を絞めてしまい嫌われる。一方で琴子は妊娠したと遠馬に告げる。
女たちは、殴られ首を絞められる恐怖に死を覚悟したはず。しかし、なぜか彼女たちは円となかなか別れられず、仁子も琴子も妊娠するまでは黙って耐えている。それほどまでに円が魅力的なのか、映像からはうかがい知れない。ここで描かれるセックスには尊敬や慈しみはまったくなく、裸の肉体を重ね、交合し、射精するばかり。千種に至っては、遠馬を受け入れても痛みを感じるのみ。
あまりにも身勝手なセックスを女たちに強要し繰り返す父子に共感できる要素はないが、ただ性欲を発散させるために生きている2人の破滅的な姿には滑稽さが漂う。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「共喰い」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/201300909を参考にしてください。
本日はもう1本
「ジンジャーの朝」です。

迫りくる核戦争の危機、終末のイメージは多感な年ごろの少女に重く暗い影を落としていく。同時に周囲の大人たちが俗物に見え始め、自分だけがピュアな存在だと思い込む。物語は、同じ日に同じ病院で生まれた2人の女の子が双子の姉妹のように育ち、やがてそれぞれの道を歩みだすまでを描く。なんでも話し合った、秘密も共有した、いつも一緒にいた、だが禁断の一線を越えてしまった。様々な体験で視野は広がったが、思い通りに進まないことの多さに苛立ちは募るばかり。そんなヒロインが見つけた、大人への通過儀礼というにはあまりにも残酷な真実。揺れ動く彼女の感情をエル・ファニングが繊細に演じる。
ジンジャーとローザは将来の夢を無邪気に語り合う17歳。反核・反戦集会に顔を出したりしながらも日々過ごしている。ある日、ジンジャーは父・ローランドとローザが付き合っているのを知る。
いつ始まるともしれない核戦争にジンジャーは気が気ではない。一方で周りの人々は、人類滅亡の瀬戸際であるのに関心が低く、その態度がジンジャーには腹立たしい。特に、かつてアナーキストとして投獄された経験もあるローランドは"人生を楽しめ"と、個人の生活を優先させる。それどころか、家出してきたジンジャーを泊め、隣の部屋でローザとセックスする始末。
世界が核戦争で壊れる前に、家族や友人関係といった最小単位の世界が崩壊する皮肉。親友と父に裏切られたジンジャーの苦悩が切ない。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ジンジャーの朝」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130911を参考にしてください。

2013年9月7日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/7)

本日、とりあげる作品は
「アップサイド・ダウン」です。

大好きな女の子は真上から自分を見下ろし、ロープで手繰り寄せなければ上に"落ちて"いく。整然と区画されたオフィスは、床と天井が同じ構造を持ち、従業員も逆さになって働いている。重力が二重に作用する近接した双子の惑星、あらゆる生物も物質も生まれた惑星の引力の影響下にあるという設定のもとに作り上げられた上下対称の中間地帯のビジュアルは、慣れるまで少し意識が混乱するほどその世界観が精緻に再現されている。21世紀の諸問題を凝縮したような搾取と貧困、繁栄と荒廃、支配と隷従。重力によって線引きされた2つの世界はまさに上と下の関係だ。
上の星に住む少女・エデンと下の星のアダムは密会中に警察に見つかり、引き裂かれる。10年後、中間地帯に勤務するエデンを見かけたアダムはそこに就職、エデンに会いに行くが彼女は記憶を失なっていた。
アダムは"逆物質"を身に着け肉体を上の引力に順応させるが、長時間は持たない。デート中に"逆物質"が燃え始め命からがら下に逃げ帰ったりする。その上、アダムの前には引力だけでなく身分格差が立ちはだかる。このあたりの展開は禁じられた恋の物語にありがちなパターンだが、惑星の法則が同じ地平に立てないふたりの間にもどかしさを産み、浮いたり飛んだりと目まぐるしく動かす。
魔法のごとき科学でしか問題は解決できないからこそそこに夢が入り込む余地ができ、ラブストーリーをファンタジーに昇華させていた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「アップサイド・ダウン」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130629を参考にしてください。
本日はもう1本
「わたしはロランス」です。

ずっと自分を偽ってきた。心の性とは違う体の性、違和感を覚えながらも社会に同調し、家族や恋人にも隠してきたが、もはやこのままでは自己崩壊が起きる。そう判断した男は女として生きる決心をする。好奇心、嘲笑、嫌悪感、"改性"した本人は覚悟ができている。だが心構えのできていない恋人にはすべてが耐えられない。胸が切り刻まれるような痛みを感じ、1日が無事に終わってやっと安らぐという不安定な日々が彼女を蝕んでいく。物語はふたりの10年の時の流れを追い、その愛と別れ、再会を繰り返す姿を描く。輝いていた過去は戻らない、そして選択とは何かを捨てることであると映画は訴える。
国語教師のロランスは文学賞の受賞を機に"心は女"だと同棲中の恋人・フレッドに打ち明ける。一度は取り乱したフレッドも、ロランスに協力する決意を固める。しかし、現実はふたりに厳しく冷たかった。
まだ性同一性障害が精神疾患と考えられていた1990年代、オカマでもゲイでもないロランスの性的し向は、普通の人には受け入れられない。フレッドも頭では理解していても今までだまされていた後味の悪さが付きまとう。
学校をクビになり傷ついているロランス、彼と一緒にいる辛さにフレッドが感情を爆発させるシーンには、世間の目と闘う難しさ以上に、最愛の人が別世界に行ってしまった寂しさと怒りがリアルに表現されていた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「わたしはロランス」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130727を参考にしてください。
本日はもう1本
「大統領の料理人」です。

人生の転機は突然訪れ、ヒロインを嵐の中に放り込む。行先も告げられぬまま乗せられたクルマ、誰に仕えるのかも教えられぬまま連れて行かれた宮殿、そして男たちの不快そうなまなざし。まだ女性の社会進出が完全に浸透していなかった1980年代、映画はフランス大統領専属の女性コックが孤軍奮闘し、料理とはなにかを追求する姿を描く。旧弊を打ち破り、性差別に耐え、己のレシピを極めようとする彼女は求道者のよう。そこには恋も夢もなく、あるのは食べた人が満足したか否かの現実のみ。究極の美味も過剰な装飾も不要、家族のぬくもりを思い出させるような母の手料理の味が求められるのだ。
大統領の専属料理人となったオルタンス、旧態然とした男の世界に驚く。彼女は独自のメニューを毎日考案し、徐々に周囲の理解を得ていくが、自分の料理が口に合っているかわからず、苛立ちを募らせる。
直接お目通り叶わず嗜好を聞く機会がない。感想は給仕が下げた食器の残飯で推測するしかない。やっと大統領と話す時間を与えられ、贅を尽くした饗宴よりも素材の味を生かした素朴な家庭料理こそがいちばんの好みと知る。2人の会話は弾み、「食」とはフランス人が最もこだわる関心事であることをうかがわせる。
深夜の厨房でトーストのトリュフのせを振る舞ったときに大統領が漏らした弱音、一国の最高権力者に信頼されていたという自負がオルタンスに誇りと生きる勇気を与えていたに違いない。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「大統領の料理人」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130724を参考にしてください。
本日はもう1本
「夏の終り」です。

一見平和なカップルに見えるが、女はかつて夫と子供を置いて年下の愛人と駆け落ちした過去を持ち、男は正妻との家庭を行き来している。本来ならば愛憎渦巻く修羅場となってもおかしくはないのだが、彼らの生活は奇妙な調和を保ち、違和感なく収まるところに収まっている。物語は、不倫関係にあるヒロインの家に、以前の愛人が現れたのをきっかけに起きる波紋を描く。もう若くはないが仕事は順調に進んでいる。その中で2人の男の板挟みになり、激情に流されそうになる女と、煮え切らない男たち。強さはもろさ、優しさは優柔不断、そして愛は幻想、映画は登場人物の感情を繊細なタッチですくい取る。
作家の慎吾と同棲中の染色家の知子の家に、元恋人・涼太が訪ねてくる。慎吾が妻の下に帰っているあいだに涼太との仲を復活させた知子は、歪んだ三角関係を続けるが、慎吾の妻からの手紙を見つける。
不倫相手である知子の存在を妻に認めさせて、涼しい顔で知子の家に出入りする慎吾。当然知子と涼太の交情も知っているが気にかけていない。しかもそんな状態が日常になっても平然としている。まさしく作家らしい慎吾のモラルの欠如はかえって微笑ましいくらい。一方の涼太は知子への思いを募らせ、もはや耐えられないところまで追い込まれている。知子は2人の間で巧みに愛とセックスを使い分ける。
3人とも傷つき、苦しんでいる。それでも知子だけが困難乗り越えるしたたかさを持っているあたり、女の業を象徴していた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「夏の終り」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130905を参考にしてください。

2013年9月5日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/5)

本日、とりあげる作品は
「サイド・エフェクト」です。

心も体も鉛の鎖で縛られ毒の霧の中にいるような気分が続き、思考とは別に手足が勝手に動き突飛な行動に走ってしまう。深刻なうつ病に苦しむヒロイン、彼女はやがて強力な副作用を伴う抗うつ薬に頼る。物語はそんな女が犯した罪のために窮地に陥った担当医が、事件の裏に隠された真実を暴いていく姿を追う。心身喪失状態で起こした殺人は罪に問えるのか。薬を処方した医師は責任を取るべきか。そして副作用を強く警告しなかった製薬会社の瑕疵はどこまで追求できるのか。クールで謎めいた空気をまとった映像は、人間だれもが他人の知らない別の顔を持つことを暗示する。
重度のうつ患者・エミリーは、出所したばかりの夫とやり直そうと努力している。ある日、彼女は自傷事故で入院、精神科医のバンクスから勧められた新薬は症状を改善させるがエミリーは夢遊病を併発する。
肉体的には健康で外見は元気そうに見えるのに、ちょっとしたきっかけで精神のバランスが崩れるエミリー。一方で英国のアクセントが鼻につくバンクスはどこか患者を見下した態度をちらつかせる。映画はまずこの2人の立場を鮮明に印象付け、のちにエミリーが夫を刺殺し原因が新薬の副作用と判断されると、か弱い患者対高慢な医師および製薬会社という構図を浮かび上がらせる。
巧妙なストーリーテリングとどんでん返し、S・ソダーバーグの演出は洗練を極め、先の展開が読めない上質のミステリーに仕上がっていた。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「サイド・エフェクト」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130713を参考にしてください。
本日はもう1本
「マン・オブ・スティール」です。

超人的な身体能力を持つ者は、普通の人間にとって驚きや憧れ以上に恐れの対象でしかない。ゆえに幼少時より父親から力の封印を躾けられた若者は、正しい使い方を探して放浪する。自分は何者なのか、なぜこんな力を持っているのか、物語はそんな主人公の魂の彷徨をみつめる。映画のプロローグ、宇宙の遥か彼方、崩壊しつつある惑星ととどまる人々の主導権争いは壮大かつ精緻なヴィジュアルに彩られ、圧倒的な情報量には目をみはるばかり。その映像には先進文明が生んだ哲学が貫かれ、強烈な引力となって観客を作品世界に引き込んでいく。
地球人に育てられたジョー・エルの息子・クラークは、養父の死後、あてのない旅に出ていた。ある日クラークは北極の氷床に埋まった飛行船を発見、そこでジョーからのメッセージを受け取る。
己の出自を知ったクラークは青いボディスーツに身を包み大空を飛ぶ。アイデンティティを取り戻した彼は初めて自由を得た喜びで全身を満たすかのよう。音速を超える飛翔のスピードが、失われた過去への決別と未来への希望を表現していた。
そして地球に現れたクリプトンの反逆者・ゾッド将軍一派。それは長年彼が探し求めていた人生の意義であり、誰はばからず良心に従って力を発揮できるチャンス。ある意味、ゾッド将軍はクラークの運命の扉を開くきっかけでもある。進むべき道を見つけたクラークだが、最初からこれほどの強敵を迎えてしまって続きが作れるのだろうか。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「マン・オブ・スティール」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130903を参考にしてください。
本日はもう1本
「オン・ザ・ロード」です。

セックスとドラッグとパーティ、まだ見ぬ世界に足を踏み入れた青年はたちまち溺れ、旅に出る。自分の殻を破るため、特別な友人と貴重な体験をするため、そして何より人生の真実を見つけるために。物語は作家志望の青年が風変わりな男と出会い、ニューヨークから中西部を経て西海岸まで往復する過程でかかわった人々とのひと時を描く。地平線に向かってひたすら伸びる道路、凍てつく真冬から抜けるような青空の夏、たそがれ時の太陽からネオンきらめく深夜まで、季節と時刻によってさまざまな顔を見せる風景が米国の広さを実感させる。
1947年NY、父の死に落ち込んでいたサルは友人にディーンを紹介され、常識や社会通念に捕らわれない彼の奔放な生き方に魅了されていく。後にデンバーに移ったディーンを訪ねるためにサルもNYを後にする。
複数の女と同時に付き合い、特にトラブルを起こさず人間関係を構築しているディーンは、男友達のカーロにまで片思いされるほど性的な魅力的の持ち主だ。だが、反抗するでもなく夢を追いかけているのでもない中途半端な存在で、ただ現実と真剣に向き合うことから逃げているようにしか見えない。
当時の若者の代表としてサルは彼に影響を受けていくが、サルは傍観者に徹するだけ。旅を通じて成長するでも人情の機微を味わうでもない。この手の"純文学"は発表された当時は衝撃的だったのだろう。しかし、21世紀の現代ではやはり語りつくされた感がある。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「オン・ザ・ロード」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130904を参考にしてください。
本日はもう1本
「劇場版 タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」です。

あらゆる過去にタイムワープし、歴史の知られざる一面を発掘する仕事、当然史実を変えるような干渉は許されず傍観者に徹するべきなのに、どうしてもトラブルに巻き込まれる。物語はそんな少し危なっかしい主人公を通じ、記録には残っていない一般大衆の生活をレポートしようとする。ゼロ年代に大流行したフェイクドキュメンタリーの手法を時代劇と融合させるアイデアが秀逸で、歴史の生き証人になった気分にさせてくれる。
本能寺の変直後の京に派遣された時空調査員・沢島は、元信長家中の侍・権之介に取材中、幻の茶器を持つ島井の護送に同行する羽目になり、茶器にまつわる履歴の修正作業を命じられる。
その過程で、安土城焼失の謎を解明したいヒカリという新人調査員と合流しつつ権之介のインタビューを進める沢島。そして、飢えた町人や、村が野盗に略奪され虜になった百姓など、信長亡き後無法地帯となった日本で弱き立場の彼らが嘗める辛酸を目の当たりにする。それは天下を目指す英雄伝には決して描かれることがない、サイレントマジョリティの叫び。
だが、沢島の職分では彼らの事情に立ち入れず権之介らと共に野盗に捕縛されてしまう。このあたり、当時の人に未来の科学力の使用を禁止されている彼らはほとんど活躍できず、もどかしさばかりが募っていく。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「劇場版 タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130901を参考にしてください。
本日はもう1本
「ガッチャマン」です。

突然上空から現れたかと思うと急降下し、流麗な体さばきで敵兵士を瞬時に倒す。さらにビルの壁面を駆け上り、宙を舞い、巨大なホイール型爆弾に挑む。映画は、中野から新宿にかけて仔細に再現された町並みで繰り広げられる壮絶な市街戦のプロローグで、一気に作品世界に引き込もうとする。しかしそこで展開される安っぽいアクションの数々は、TVの子供向け特撮ヒーロー番組の水準。肝心の"選ばれし戦士"も自分たちこそが人類の最後の希望という意識に乏しく、作戦遂行中に感情に流される始末。苦悩する等身大の若者としてさせたかったのかもしれないが、それを戦闘中にまで引きずるなど愚の骨頂だ。
ウィルスXに感染した人間はギャラクターに進化し、人類から地球を奪おうと戦争を仕掛ける。地球防衛組織は、健、ジョーら5人の"石"の力を操るエージェントをギャラクターに差し向ける。
イリヤはかつてジョーの婚約者で、健とも幼馴染のナオミを殺した仇敵。健は私情より任務を優先させるが、ジョーは復讐にはやる心を抑えきれず暴走してしまう。他にも怪力自慢の竜が戦う意義を問うたりする。800万人に1人しかいない"石"の適合者としてギャラクターに立ち向かう使命のもと、子供のころから訓練されているはずなのに、このメンタルの弱さはなんなのか。全く理解できなかった。
あの美しかったガッチャマンを貶めたのは、「誰だ!誰だ!誰だ!」と思わず叫んでしまった。
お勧め度=(★★★★★が最高)「ガッチャマン」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130830を参考にしてください。

2013年8月31日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/31)

本日、とりあげる作品は
「ジェリー・フィッシュ」です。

話が合わないクラスメイトとは距離を置き、口うるさい両親とはそりが合わない。学校でも家庭でも疎外感を覚えている女子高生は水中で浮遊するクラゲに自身を重ねている。そんな彼女に同類の雰囲気を嗅ぎ取った同級生が接近してくる。やがて彼女たちは、お互いの肉体を確かめることだけが己の存在を証明する手続きであるかのように求め合う。男との愛のないセックスよりも、女同士の思いやりにあふれた抱合。繊細で傷つきやすい、でも傷ついても決して壊れない彼女たちの心の彷徨を、逆光を多用したソフトなタッチの映像で再現する。
水族館のクラゲ水槽の前で、夕紀は叶子に突然キスされる。その後もふたりは唇を重ね淋しさを埋め合わせていく。ある日、叶子が男子と付き合いだしたせいでふたりの間に微妙な隙間風が吹き始める。
夕紀はおとなしそうな外見とは裏腹に、セックスのなんたるかを知ろうとバイト先のDVD店店長と関係を持っていた。美人で溌剌とした叶子は、ボーイフレンドに抱かれていても表情は上の空。ふたりとも、イクことしか頭にない男とのセックスでは空疎な後味しか得られなかったのだろう。女同士だからこそ感じるポイントが分かっている安心感が、更にふたりの距離を縮めていく。
心も体も許しあったのに話せない秘密がある。友情を煮詰めて肉体関係に発展させたのに、やっぱりそれは探していたものではなかった。抑制された感情に、人生に対する彼女たちの諦観がにじみ出ていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ジェリー・フィッシュ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130812を参考にしてください。
本日はもう1本
「悪いやつら」です。

暴力団、検事、民間人…。同じ姓、同じ出身地ならどこかでつながっている。そして目上の者には頭が上がらない。韓国の伝統的な血縁社会で身内の係累を最大限に活用する男。度胸も腕っ節もないが他人の歓心を買う才能には恵まれた彼は、やがてボスをしのぐほどの力を蓄えていく。映画はしがない公務員から裏社会を仕切るまでになった半グレ中年男の半生を描く。大胆だが小心、媚を売るけれど虚勢も張る、ケンカは弱いが利に聡い。暴力がはびこり陰謀が渦巻く世界で、人脈を武器に仁義よりも実利を選ぶ彼はヒーローとは対極。見苦しさすら人間的な主人公をチェ・ミンシクがリアルな感情表現で演じる。
大量の覚醒剤をネコババしたイクヒョンは新興組織のボス・ヒョンベに転売、ヒョンベが遠縁の親戚と知って彼の元に出入りするようになる。ある日、イクヒョンはキムの組織の縄張り内のクラブに介入する。
自分のほうがヒョンベより上の世代と知ったイクヒョンは急にヒョンベに礼節を求め態度がでかくなる。1980年代でも儒教道徳に基づいた大家族制度が健在だったのだろう。一族は助け合うものという暗黙の掟は、時に法に優先し逮捕された彼らをたびたび救う。
特にベテラン検事とイクヒョンの関係は、つい20年ほど前までは前近代的な悪習が根付いていたことを物語る。極道としてのプライドがないがゆえに己の欲望に忠実になれる、大統領直々の犯罪組織撲滅命令はそんな封建制の悪しき名残を一掃する機会でもあったのだ。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「悪いやつら」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130731を参考にしてください。
本日はもう1本
「美輪明宏ドキュメンタリー 〜黒蜥蜴を探して〜」です。

ブロンドの長髪、年老いた魔女のような外見なのに、男性名を名乗っている。この人の人生を知らない世代の者にとって、男なのか女なのか、同性愛者なのか女装趣味なのか、直接本人に聞いてみたい謎は尽きない。映画は、彼が"女優"として出演した古い日本映画を見たフランス人映像作家が、美しく妖艶な姿に隠された素顔に迫る過程を描く。美少年歌手・俳優デビューした後、いち早く「女であること」に目覚め、性の先駆者となって20世紀後半から21世紀の現在まで走り続けてきた彼の半生は、波乱と刺激に満ちている。
1957年に丸山明宏の名で映画に出た三輪は小柄ゆえ女装に活路を見出し、それ以来女らしさを追求し始める。次第に世間は彼を"女優"と認知し始め、'70年代になるとそのスタイルは輝きを増し始める。
まだ同性愛がタブー視されていた当時、三輪は心無い人から「バケモノ」「死ね」といった罵声と文字通り石やガラス片を投げつけられたと語る。一方でそういう風潮だったからこそ、女以上に女っぽい彼の芸風は一部のアングラ劇団やアーティストには受け入れられ、活躍のチャンスを広げていく。
そして、ホモ告白の過去にも触れるが、どれほどの逆風が吹こうとも彼は己に正直であろうとする。もはや性別や性的嗜好の問題ではない、三輪明宏という一人の人間として見てほしい。そう願う彼の言葉は、差別や偏見を持つ、すべての人の心に突き刺さる。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「美輪明宏ドキュメンタリー 〜黒蜥蜴を探して〜」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130819を参考にしてください。
本日はもう1本
「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」です。

いつも一緒だった友人の死。原因が己にあると思い込み、悩み傷つき、まだ高校生の年頃なのに老成してしまった少年少女たちは、いまだに呪縛から逃れられない。もちろん幽霊だからといって恐れるわけではなく、彼女を仲間として迎える。物語は小学校の仲良し男女6人組の女子メンバー1人が事故死したのをきっかけに、残った者が葛藤を抱えながら生きていく姿を描く。十代の若さで過去に捕らわれ、苦悩し、他人の気持ちばかり考えてしまう彼らの優しさが痛々しい。
"超平和バスターズ"元リーダー・じんたんの前に、5年前亡くなっためんまが現れる。めんまはじんたんにしか見えないが、メンバーはめんまの存在を信じ、彼女がこの世に戻ってきた理由を探る。
小学生の時のように無邪気に戯れてはいられない。しかし、めんまと最後に交わした言葉だけは鮮烈に共有している。あの日、僕たちは何を伝えたかったのだろう、私たちは何を望んでいたのだろう。届かなかった思いと叶わなかった願い。再び秘密基地に集まった5人はめんまが成仏できるように頭をひねり、その過程でわが身を見つめ直す。
"好き"と口には出せなくても素直に態度に出ていた小学校時代とは違い、今は感情を巧みにオブラートに包むすべを心得ている。隠し事はナシというルールは生きていても、隠さないと相手を傷つけることを知っている。それでもやっぱり、親友たちにきちんと感謝したい。言葉の持つ力をあらためて教えられた作品だった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130817を参考にしてください。

2013年8月29日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/29)

本日、とりあげる作品は
「黒いスーツを着た男」です。

取り返しのないことをしてしまった男。放っておけなった女。悲しみの中で手をこまねいてる妻。一つの交通事故が3人の人生を交錯させ、彼らの苦悩を掘り下げていく。物語は、加害者と目撃者そして被害者の妻のバックグラウンドのディテールに踏み込み、人間の良心の在りかたのみならず、3つの階層が抱える社会問題をあぶりだす。成り上がりの労働者、インテリの小市民、市民権を制限された不法就労者、彼らがみな特別ではなく、どの立場に置かれたとしても共感を得られる人間であるという設定が、観客に問いかける。あなたならどうするかと。
結婚を控えたアルは労働者をひき逃げ、アパートから事故を目撃したジュリエットは被害者の身元を調べ妻のヴェラに連絡する。被害者の様子を密かに見にいったアルはジュリエットに気づかれてしまう。
自首を同僚に止められたアルはせめて見舞金を渡そうと金策に走り回り、ジュリエットに仲介を頼む。その過程で、結局自分の周りにいる人々は誰も親身になってくれないと知る。一方で胸の内を打ち明けられたジュリエットはアルに協力しヴェラの信用を失う。
このあたり、無責任にも無関心にも強欲にもなれない彼らの、人間としての理性と節度だけでなく弱さまで克明に描きこまれ、映画はある意味平凡な彼らの感情が、予想もしない展開に発展していく非凡さを見せる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「黒いスーツを着た男」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130802を参考にしてください。
本日はもう1本
「上京ものがたり」です。

自分には特別な才能がある、そう思い込んで故郷を後にした女子大生。だが、東京での生活はシビアで、バイトに明け暮れる毎日が待っている。描いても描いても絵は認められない、転がり込んできた男とはずるずると別れられない、物語はそんな美大生のうだつの上がらない日常を追う。壮大な夢よりも目の前の現実、己の表現したいアートよりも編集者が求めるカット、そして何より生まれついてのセンスよりもあきらめずに努力を継続できる能力こそが"才能"であると、彼女は身を以て示そうとする。"最下位には最下位の戦い方がある"という言葉に象徴されるように、人生とは日々戦いなのだ。
東京の美大に入学した菜都美は万年ビリの成績。ある日バイト先のャバクラで先輩キャバ嬢・吹雪の娘・沙希に絵を気に入ってもらう。自信をつけた菜都美は出版社に売り込みにいくが、ことごとく断られる。
一方、プータローの良介と同棲する菜都美。時に彼の優しさに癒されるが向上心のなさに苛立っている。カネよりも大切なことがあると良介は諭すが、絵で生計を立てようとする菜都美は"稼いでこそプロ"と、カネの重要性を主張する。
ただ、エロ小説のイラストには、キャバクラでの下ネタトークや良介とのセックス体験が生かされているはずなのに、具体的なエピソードとして結実せず、吹雪母子との関わりもきれいごとの域を出ていない。もっと人間の深い業を前面に出してほしかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「上京ものがたり」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130826を参考にしてください。

2013年8月22日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/22)

本日、とりあげる作品は
「スター・トレック イントゥ・ダークネス」です。

直観に従い、正しいと思えばどれほど無謀でも行動に移す男。何事もロジカルに考え、決してエモーショナルに流されず合理的に対処する男。全く正反対の性格の2人はコインの表裏のごとくぴったりと寄り添いながらお互いの欠点を補いあっている。カーク船長とミスター・スポック、今回はそのキャラクターをより際立たせ、壊れかけた友情と信頼を修復するまでを描く。感情と論理、それは生まれつき持つ性質と、成長の過程で身につける理性。だが、最後の最後では本質的な部分が少しだけ勝るのではと思わせる。彼らはロボットではない、血の通った人間なのだから。
軍事情報記録保管庫が爆破され評議会はハリソンと呼ばれる男を犯人に特定するが、会議場がハリソンに襲撃される。カークは提督の命令を受け、クリンゴン支配地域の惑星に逃亡したハリソンを追跡する。
宇宙空間で繰り広げられる戦場絵巻は3Dのスケール感で見る者を圧倒し、地上での肉弾戦はスピード感に手に汗握る。さらに小道具まで細密に再現された映像は臨場感にあふれ、過剰なほどの情報量が視覚を刺激する。
しかし、先住民族に追われるカークや、クライマックスでハリソンを追走するスポックなど、走るという人間の根源的なアクションが一番躍動感を伴っていたのは確か。やはり俳優が身体能力を極限まで駆使してこそ映画はスリリングになる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「スター・トレック イントゥ・ダークネス」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130615を参考にしてください。

2013年8月17日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/17)

本日、とりあげる作品は
「エンド・オブ・ウォッチ」です。

わずかな違反も見逃さず厳格に法を執行する制服警官。彼らにとって、担当する全米一治安が悪いといわれる一帯は絶好の狩場になる。ドラッグと暴力、銃撃と殺人が茶飯事と化した街で、日々彼らは見回り、摘発し、人命救助に奮闘する。映画はそんな2人の日常に密着、車載カメラやクリップカメラ、ハンディカメラの映像は圧倒的な臨場感とリアリティにあふれ、犯罪取締りの最前線をレポートするドキュメンタリーのようだ。そこで描かれているのは黒人ギャングの衰退とメキシコ系ギャングの隆盛だ。
LAサウス・セントラル地区をパトロールするテイラーとザヴァラは、黒人を逮捕したり子供を救ったりと大活躍。ある日、メキシコ系のチンピラに職質をかけるとトラックにドラッグと自動小銃を隠していた。
四六時中カメラを回し続けるテイラーは、警察署内のミーティングやロッカールームなど、普段部外者が目にできない場所でも撮影をやめない。記憶媒体に残された、時に危険も顧みない2人の行動は、スリルを楽しんでいるかに見える反面、相棒に恐怖を悟られないための蛮勇にも思える。そのあたり、感情表現に走らないこの作品のスタイルが、解釈に奥行きを持たせていた。
妥協しないテイラーは、記録することで自分たちを客観的にとらえようとする。そして目の当たりにした現実。ザヴァラのエッチ話の使い方は、命のはかなさを象徴していた。。。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「エンド・オブ・ウォッチ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130725を参考にしてください。
本日はもう1本
「タイピスト!」です。

数十人のタイピストたちが一心不乱に指を動かし、速さと正確さを競う。成績上位者が勝ち残り、決勝戦は1対1の勝負。正面に相対してお互いの表情を読み、けん制し合う様子はまるで決闘のような緊張感だ。物語はかつて世界中で盛んだった競技タイプに青春をかけたヒロインの成長を追う。しっとりと柔らかな色調の映像は1950年代を意識し、ファッションやクルマ、テニスラケットなどのディテールが時代の空気を再現する。加えてユーモアを忍ばせたシチュエーションの数々はエスプリの極み、何よりデボラ・フランソワが最高にキュートだ。
秘書に憧れるローズは保険会社に試験採用されるが、タイプの早打ち以外はまったくの役立たず。だが彼女の素質を見抜いた社長のルイはタイプ大会出場を提案、彼女を自宅に引っ越させて特訓を始める。
その日からはオンもオフもタイプ漬けの生活。人差し指だけで打っていたローズに5本指打法を叩き込み、用紙を効率よくセットする方法や、ボキャブラリーを増やして単語を予測させるために読書もさせ、さらに長丁場を戦い抜く体力をつけようとランニングも欠かさないなど、もはやスポ根マンガ顔負けの訓練の数々がテンポよく描かれる。
一方で、ローズのルイへの思いが恋に変わり、ローズの気持ちを受け入れるべきか突き放すべきか悩むルイも彼女を愛し始めていることに気づく。そのあたり、あくまで禁欲的にならず"勝利も恋も"欲張るあたりフランス人の人生に対する取り組み方・楽しみ方を感じさせる。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「タイピスト!」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130804を参考にしてください。
本日はもう1本
「楽園からの旅人」です。

"善行は信仰に勝る"。生涯を通じて祈りを捧げてきた男は、その思いが決して届かないと悟り、神に頼るのではなく己の意思と責任で実行する道を選ぶ。礼拝堂の天井近くにつるされたキリスト像が撤去された時の絶望、そして神ではなく難民という人間が与えてくれた希望。きっと彼はあらゆる出来事が"神の御心"と決め付けて思考を放棄し難事に立ち向かうのを避けてきたのだろう。やっと教会の重石から解放され、いかに振る舞うべきかに目覚めていく。物語は閉鎖される教会の司祭がアフリカ難民を匿う過程で、勇気とは何かを問う。
信者数の減少で廃止が決まった教会、業者が絵画や美術品を運び出してしまい、建物が取り壊されると居場所も行き場もない司祭は悲嘆に暮れている。その夜、十数人のアフリカ難民が礼拝堂に避難してくる。
事情を察した司祭は空になった礼拝堂を彼らに提供するが、もてなす準備がないと心を痛めている。難民の中にはけが人や妊婦もいる。おそらく彼にとって腹をくくって違法行為に手を貸すのは初めての経験だったはずなのに、当局の捜査を頑として拒む。一方でアフリカ人の中には単なる就労目的の者以外に、大量のダイナマイトを隠し持つテロリストや異教徒もいる。ところが、司祭は彼らを守ることで自分の声に耳を貸さなかったキリスト教の神に意趣返しをするのだ。
明るい未来ではないかもしれない、それでも立ち止まっているよりはましだと寡黙なこの作品は訴えているようだった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「楽園からの旅人」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130801を参考にしてください。
本日はもう1本
「ザ・タワー 超高層ビル大火災」です。

熱で膨張した鉄骨がひしゃげ、その影響で壁が崩れ床が抜けガラスが飛散する。天井から落ちてくるコンクリート片、迫りくる火と煙、運よく生き残っても逃げ場はない。超高層ビルの中層階、映画はそこに取り残された人々と救出に向かった消防士たちの壮絶な脱出劇を追う。進路も退路も断たれ頼りは運任せのアイデアのみ、命の危機にさらされる過程で彼らは人としての価値を試されていく。自分だけは助かりたい者、幼い娘を捜す者、息子のために生きなければならない者、使命感に突き動かされる者。それぞれの立場で描かれる様々な愛の形が灼熱の火炎の前に浮き彫りにされていく。
108階建てのツインタワーにヘリコプターが激突、火災が発生する。セキュリティ担当のデホはレストラン街に孤立した娘と好意を寄せるユニを救助するために、カン消防士らと現場に向かう。
遠景では天を目指す水晶の塔、近寄ると空を覆うほど威容、きらきらと反射しつつもビルの内部が半ば透けて見える2棟の高層ビルはまるで光り輝くアート作品。そして生き物のごとく天井を這い壁を走る業火は人間の強欲を焼きつくすかのよう。それらメインのビジュアルは精緻なCGで再現され圧倒的なリアリティを持つ。
そんな、ハリウッドを凌駕する韓国クリエイターの英知が結集された映像は最後まで炎の恐ろしさを見る者に知らしめる。911を思い出させるビルの大崩壊は高慢な人間に対する神の鉄槌に見えた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ザ・タワー 超高層ビル大火災」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130729を参考にしてください。
本日はもう1本
「ローン・レンジャー」です。

法による裁きか、死の復讐か。白馬にまたがって駆ける黒マスクの男と顔に奇妙なペイントを施したカラスを頭に頂いた男。"正義"に対する考え方の対照的な2人がコンビを組んで、己の描く世界を実現するために裏切りと欺瞞を繰り返す資本家に迫っていく。その過程で繰り広げられるアクションの数々は躍動感に満ち、手に汗握る展開の連続に胸が躍る。映画は、19世紀後半、広大な米国を統治するために敷設された鉄道を舞台に、善玉、悪玉、正体不明の女、原住民、騎兵隊、出稼ぎ中国人、女子供までを絡ませてラストまで疾走する。
インディアンのトントは、脱走したブッチを追って返り討ちにあった新任検事・ジョンの命を助ける。トントによって蘇生したジョンはローン・レンジャーとなって共にブッチを追う。
ブッチの足跡をたどるうちに、鉄道建設の邪魔になるインディアンを排除する計画が浮き彫りになっていく。しかしトントとジョンは協力するどころか、ことあるごとに対立るばかり。のあたり、人生の先輩・トントが、血気盛んな若者・ジョンに生き方を伝授する、ある種の"師弟関係"を描けば飲み込めたのだが、ジョンはあくまでトントに"上から目線"を貫く。
もちろん当時インディアンは白人より劣ると考えるのが米国の常識だったのだろうが、ヒーローの誕生・成長秘話をすっ飛ばしいきなり大活躍するジョンの姿には共感できなかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ローン・レンジャー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130807を参考にしてください。
本日はもう1本
「パシフィック・リム」です。

開いた左の手のひらで右手の拳を受け止める人型巨大兵器。走りながら腕を大きく振り回すハンマーパンチを繰り出し、怪獣の頭部にヒットさせる。さらにひるんだ怪獣を、蹴り、絞め、投げ飛ばし、最後にプラズマ砲で仕留める。人型巨大兵器vs怪獣、重量感あふれる攻防の数々は、まるで生身の人間が戦っているかのごとき圧倒的な臨場感。怪獣が傷つき機体が破損するたびに、痛みがスクリーンから伝わってくる。物語はかつて人型巨大兵器のパイロットだった青年が地球滅亡の危機に際し再び立ち上がる姿を描く。
怪獣に敗れパートナーを失った人型巨大兵器・イエーガーのパイロット・ローリーは放浪を続けていた。だが、進化する怪獣に対処できるパイロットを探す地球防衛軍は、ローリーを部隊に復帰させる。
2人のパイロットが同時にイエーガーに指令を送り込む必要から、彼らは脳の神経回路を同期しなければならない。パイロット同士の相性や技量も重視され、ローリーは復讐に燃える女性隊員・マコと組むことになる。彼らのイエーガーは旧式、それでも2人はイエーガー体内での全身を使った操縦に、使命を果たす昂揚感以上の喜びを感じている。
センチメンタルな葛藤は一切なくし、ひたすらイエーガーと怪獣たちがパワーをぶつけ合う。それは洗練された格闘技のような技とスピードを競うのではなく、むしろ取っ組み合いのケンカ。ローリーやマコの成長より、あくまでバトルにこだわったの映像に胸が躍った。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「パシフィック・リム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130813を参考にしてください。
本日はもう1本
「少年H」です。

1枚の絵ハガキが証明した日米の国力の差。その事実を知っているとスパイとみなされる世の中で、人々たちは口をつぐんでいく。逆に"大和魂"を妄信する人々は高圧的な態度で市民に目を光らせている。そして、大人たちの振る舞いに不満を覚える少年はつい余計なことを口走り顔の痣を増やしていく。戦争、それは国民の命を奪い、生きている者の自由を奪う。物語は太平洋戦争を挟んだ数年間、神戸で思春期を過ごした主人公の成長を描く。日本が間違った方向に進んでいると考えながらも良き臣民のフリをするしたたかな父親が、実は様々な葛藤を抱えている。そんな小市民的な男を水谷豊が抑制のきいた表情で演じていた。
洋装店を営む父・盛夫と母・敏子、妹と暮らす小学生の肇は敏子のハイカラ教育にうんざりしている。だが、盛夫の仕事に付き添って外国人屋敷に行き、子供のころから西洋の風を受けて育っていた。
外国人顧客を相手にしても挨拶以外は日本語で済まし、それでもきちんと意図は伝わっている盛夫は"人と人、国や言葉は関係ない"と肇に教える。一方で軍国主義に走る日本人とは、言葉は通じても思いは届かない。肇が中学に進学するころには戦況が悪化、理性より無謀な精神論が幅を利かせていく。
戦争に反対したいができない風潮の中、少しでも良心に従おうとする両親の姿に肇は人生を学んでいく。ノスタルジックな雰囲気の映像に悲惨さはないが、戦争が人の心を蝕んでいくという真実は訴える。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「少年H」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130814を参考にしてください。
本日はもう1本
「素敵な相棒」です。

記憶を蓄え、それをもとに思考するからこそ人間。一切のメモリーを消去されても平気でいられるのがロボット。「我思う、ゆえに我あり」の言葉に象徴される人間とロボットの違いは明確だ。だが、テクノロジーの進化で"感情"のようなものを抱くロボットは、人間の友になれるのか。物語は軽度のアルツハイマー症老人と高性能ヘルパーロボットの交流を通じ、何が人間を人間足らしめているかを問う。「忘れてしまった」ことすら覚えていない主人公は、頑固な生き方を変えない。彼を一番理解しているのが家族ではなくロボットである皮肉が、高齢化社会の行く末を暗示する。
物忘れがひどく苛立ちを隠せない元泥棒のフランクは、息子から介護ロボットをプレゼントされる。当初は拒否していたが、完璧に家事をこなし世話を焼いてくれるロボットに心を開いていく。
限りなく人間の精神に近い機能をもつロボットにいかにもロボット風の外観を与えているのは、過剰に情が移るのを防ぐためだろう。ロボットのおかげで積極さと健康を取り戻したフランクは、かつて情熱を注いだ泥棒稼業に復帰するためロボットに錠前破りのテクニックを教え、やがてわが子より深い絆を感じ始める。
結局、実の息子も娘もフランクの事を心配しているが、自分たちの思いをフランクに押し付けてもいる。ロボットはフランクの気持ちを慮りつつフランクに寄り添っている。ロボット3原則のもとロボットが良きパートナーとして人間と共存する、そんな未来に希望が持てた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「素敵な相棒」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130816を参考にしてください。