2013年10月3日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/3)

本日、とりあげる作品は
「謝罪の王様」です。

ただきちんと謝ってほしかっただけ。相手の思いに気づかず謝罪のタイミングを逃し、いたずらに事をこじらせる。映画は "謝罪の言葉を口にしたら負け"という米国流の悪しき習慣に染まってしまい、道や電車で他人にぶつかっても知らんぷりし、失敗しても自分の落ち度を認めようとしない昨今の日本人に、「ごめんなさい」は社会生活の潤滑油だと再認識させてくれる。
係争相手の怒りを鎮める謝罪師・黒島は、ヤクザと交通事故を起こした典子を助手に雇う。典子はセクハラで訴えられた会社員のケースを担当するが交渉は難航、黒島が奥の手を使って訴訟を取り下げさせる。
その後も芸能人夫婦の謝罪会見、やり手弁護士と娘の不和の修復など難問を解決していく。彼らはみな悪意があるのではなく、反省の気持ちを表現するのが下手なだけ。黒島はそんな彼らに、どうすれば相手の心を開けるかをレクチャーする。あくまでコミカルに処理し説教くささを消しているが、黒島のノウハウは実生活で応用できるほど具体的で、思わずメモしたくなった。さらに外交問題を一任され、そこでも重大な過失ほど素早く誠意のこもった対応を見せる大切さを説く。
互いに無関係に見えるそれぞれのエピソードの依頼人同士が実は細い糸で繋がっていたり、何気ないシーンが別のシーンの伏線になっているなど、宮藤官九郎の脚本は熟練のテクニックみせる。特に少女が口ずさむ「わき毛ボーボー自由の女神」が頭から離れなかった。。。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「謝罪の王様」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130930を参考にしてください。
本日はもう1本
「地獄でなぜ悪い」です。

過剰な言葉、過剰なサウンド、過剰な演技、過剰なイメージ、そして何より映画への過剰な愛。五感のみならず思考までも支配しようと試みる凶暴な映像の数々と、先が読めない奇想天外な展開は、まさに全開の園子温ワールド。信念を曲げず目標に向かって突き進む青年と、妻子のためにすべてをなげうつヤクザ、野性を秘めた娘と彼女に心を奪われた男たちが入り乱れて繰り広げられる大殺戮は、血と暴力の饗宴を原色アートの域に昇華させている。だが、もはや暴走列車と化した物語の加速と破壊力に感性は追いつかず、トップスピードに達する前に悪酔いしてしまった。。。
映画監督を目指す平田は、"映画の神"に見出される日を待つばかり。ある日、娘のミツコ主演の映画を撮りたいヤクザの組長・武藤に拉致されたコウジから、アクション映画の監督を依頼される。
やる気はある、アイデアもある、でも才能はなくチャンスはこない。"映画監督"という肩書で自己陶酔に浸っている平田は、あらゆる映画青年の象徴。根拠もなく願いがいつか叶うと信じる自信だけが彼を支えている。一方の武藤は義理人情を重んじる古いタイプの武闘派で、いまだ切った張ったの世界に生きている。
基本的な設定で、ブルース・リーと深作欣二へのオマージュといったタランティーノの二番煎じではなく、現代の映画青年やヤクザが影響を受けたクリエイターに焦点を当てていれば新鮮さを感じたはずだ。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「地獄でなぜ悪い」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131001を参考にしてください。
本日はもう1本
「イップ・マン 最終章」です。

武術家でありながら、哲学者のようでもある。いかなる時でも表情を変えず呼吸も乱れないない物静かな風貌は、達人の域にあることを示す。床に置いた新聞紙の上から一歩も動かず攻撃をしなやかに受け流し、相手の力と体重を利用して、最小限の動きで反撃するテクニックは芸術的。武術とはケンカの道具ではなく己の鍛練につかうべきもの、パワーやスピードを合理的に使いこなすところに奥義があるのだ。
1949年、香港に拠点を移したイップ・マンは雑居ビルの屋上に道場を開く。弟子たちは労働争議に参加したりするうちに、白鶴道場の弟子とイザコザを起こし、イップは道場主のン・チョンと闘う羽目になる。
イップもンもお互いの力量を図るためにまず問答を交わし、相手を値踏みする。その、求道者にのみ許された駆け引きが緊張感を誘う。また、地面に突き刺された数十本の太い杭の上で獅子舞を舞いながら繰り広げられるカンフーアクションはスピーディかつスリリングで、こんなスタントを考え出す香港映画人の意気込みに敬服した。
やがて、弟子のひとりがアングラファイトで九龍城の黒社会とトラブルになると、イップは弟子を率いて救出に向かう。敵味方大勢のファイターが入乱闘する中で、イップは拳だけでなく棒術を披露するし、ギャングのボスは鉤爪を使うなど、このシーンはまさに「燃えよドラゴン」のクライマックス。イップ・マンの物語を描いていても、やはり香港映画の源流はブルース・リーにあると、改めて思い知らされた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「イップ・マン 最終章」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131002を参考にしてください。