本日、とりあげる作品は
「人生の特等席」 です。
目はかすみ足はふらつき小便の出も悪い。老いぼれたスカウトマンは、
それでもフィールドに通いつめ若い才能を探し求める。データより経
験と直観、「マネーボール」の逆をいく主人公は決して自らの流儀を
曲げない筋金入りの頑固者。そして有能な弁護士として活躍する娘も
彼の血を濃く引いている。映画は、父を手伝う娘が野球の素晴らしさ
を再認識し、人生の指針を得る姿を描く。その、お互い気にかけてい
るのに素直になれず反目ばかりしている2人が、野球を通じて徐々に過
去のわだかまりを解いていく過程が穏やかな感銘と共感を呼ぶ。
高校生の視察に向かったガスを心配した上司は、ガスの娘・ミッキー
に同行するように頼み込む。ミッキーは重要な案件を抱えていたがガ
スと合流、2人はドサ周りを続けるうちに相手の本心を探ろうとする。
父と息子ならキャッチボールだが、ミッキーはガスの投げた球をバッ
トで打つ。男同士だと対等な関係を築けたはずが、父娘の間柄が彼ら
の心情を余計に複雑にする。元々ガスは頭のいいミッキーが自分を超
えるのを期待していたのだろう、ジャストミートしたミッキーの打球
が外野へ飛んでいくシーンは、父娘という男女間の、埋めがたいが触
れあうことはできる微妙な距離感を象徴していた。
その後すれ違う2人の感情が、他球団のスカウトマン・ジョニーを触媒
にして接点を持ち始めるが、彼らに共通するのは野球への深い愛と理
解。選手だけではない、のどかな野球場の雰囲気が郷愁を誘う。
お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)
「人生の特等席」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20121020 を参考にしてください。
本日はもう1本
「ドリームハウス」 です。
夢にまで見たマイホーム、美しい妻・幼い娘たちとの幸福に満ちた暮
らし、そして新しい人生のスタート。男にとって未来は輝かしいもの
になるはずだった。あの悲劇の記録を目にするまでは。意味ありげな
表情の隣人、不審な人影、やがて明るみになっていく凄惨な事実。物
語は念願の一戸建てを手に入れた主人公一家が遭遇する恐怖を描く。
それは過去から甦った亡霊、忘れていた忌わしい体験でもある。とこ
ろが、映画はそんな手垢のついたホラーの定石をはるかに凌駕し、妄
想と現実のはざまで行きかう予期せぬ展開の連続に、思わず身を乗り
出し、息をのんだ。
郊外の一軒家で妻とふたりの娘とともに執筆生活に入ったウィル。だ
が、娘たちは夜な夜な不気味な影や物音に脅える。その後、かつてこ
の家で一家惨殺事件が起こり、犯人が帰ってきたと知らされる。
有能な編集者だったウィルが、なぜ事件を知らなかったのか、家の購
入前に調べなかったのか。その矛盾はウィルの一見明晰で信頼のおけ
そうに見える人間像を徐々に壊していく。見たいものしか見ず、都合
の悪いことには耳目を塞いでいるのではという疑問。さらに、ウィル
が独自に調査していくうちに思いもよらぬ衝撃の真実が明らかになっ
ていく過程は、ミステリアスかつスリリング。
ウィルを演じたダニエル・クレイグは人格の変化をサラサラヘアとオ
ールバックで演じ分け、愛と苦悩、怒りといった感情を表現する。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)
「ドリームハウス」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20121005 を参考にしてください。
本日はもう1本
「ふがいない僕は空を見た」 です。
不妊症を義母に責められる女は高校生とのセックスを唯一の逃げ場に
している。「いっぱい出して」と懇願する言葉の裏にあるのは、心が
通わぬ夫よりも空想の恋人の精を体内にとどめておきたいという願い。
誰かに気持ちを分かってもらいたい、彼女の切ない思いは現実逃避の
世界でしか叶わない。そんなヒロインを田畑智子が壊れそうなほどの
繊細さで演じている。映画はふたりの愛と破局を通じて、人生にがん
じがらめにされた人々の閉塞感を描く。それは喪失感にも似た諦め、
未来への希望を失った者にとって、空は青いほど寒々と感じるのだ。
アニメ好き主婦・里美と知り合った卓巳は、彼女の部屋を訪ねてコス
プレプレイを続けている。ある日、同級生に告白されたのを機に卓巳
は里美と別れようとするが、里美は「呪ってやる」と卓巳をののしる。
里美の不義を疑う義母によって盗撮されていた里美と卓巳の性行為は
動画サイトで公開される。さらに卓巳の親友・良太はプリントしたそ
の画像をばらまくのを手伝う。ネットに流したのは里美なのか、良太
はなぜ卓巳を苦しめるのか。それらは、どんな人間も笑顔の裏に底知
れぬ悪意や嫉妬を抑え込んでいて、ふとしたきっかけで爆発すること
を示唆する。
だが、時制をシャッフルしたり唐突に良太の話に切り替わるなど、編
集の意図が全く理解できず戸惑いばかりが残る。良太のエピソードは
カットして上映時間を短くすれば引き締まった印象になったはずだ。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)
「ふがいない僕は空を見た」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20121119 を参考にしてください。
本日はもう1本
「ボディ・ハント」 です。
目で見たことは正しいのか、心で感じたことは真実なのか。哀しみを
纏った孤独な青年は忌わしい過去と重大な秘密を抱えている。転校し
てきた少女は、彼の純粋な瞳に魅かれ寂しさを癒してやろうとする。
ところが周囲の人々は彼らの交際を快く思わない。物語は森のそばの
一軒家に引っ越してきた母娘が隣人の事情に首を突っ込むうちに恐ろ
しいトラブルに巻き込まれていく姿を追う。大人の無理解、蔓延する
黒い噂、それでも彼を信じるヒロインの直截的な正義感がいかにもテ
ィーンエイジャーらしい。
格安物件を借りたサラとエリッサ母娘は、夫婦惨殺事件があった隣家
にひとりで暮らすライアンと知り合う。しかし、ライアンは行方不明
になったとされている妹のキャリー・アンを地下室に監禁していた。
悲劇の当事者として地域の住人から距離を置かれているライアン。両
親の離婚に胸を痛めているエリッサは彼の繊細な気持ちの理解者とな
っていく。映画の冒頭でキャリー・アンが両親を刺し逃走するが、ラ
イアンは密かに彼女を保護して人目につかないように拘束している。
そこにはかわいい妹を犯罪者にしたくないライアンの、歪んではいる
が深い愛が横たわっているよう。
一方、サラがライアンを食事に招待しておきながらエリッサとの交際
を禁じたり、登校したライアンに男子生徒が絡むシーンにライアンへ
の偏見が凝縮され、その反発からエリッサがライアンに急接近する設
定が共感を呼ぶ。
お勧め度=★★*(★★★★★が最高)
「ボディ・ハント」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20121121 を参考にしてください。