2012年10月25日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/25)

本日、とりあげる作品は

「アルゴ」 です。

一つ間違えれば自分の命だけでは済まない。絶体絶命の危機の中に身
を投じ平然と嘘をつきとおす度胸を持つ男は、身体能力や銃器に頼る
のではなく、アイデアと機転で同朋を救い出す。その、あまりにも突
飛な作戦は味方ですら成功するとは思わないほど、ゆえに敵は見事に
欺かれる。派手さはないがユーモラス、アクションはないがスリリン
グ、そして何よりイメージで物語を紡ぐ"映画"というメディアの力
をあらためて見せつけられた。

'79年、イラン革命防衛隊に占拠された米国大使館から抜け出した6人
の職員はカナダ大使の私邸に匿われる。米国務省とCIAは人質奪還のス
ペシャリスト・トニーに彼らの救出を命じる。

トニーは彼らを映画のロケハン隊に偽装して出国させる計画を立案す
る。実際に脚本を買い、製作発表を行い、いかにも大作映画のプトジ
ェクトが胎動とまず米国内でプロパガンダを打つ。その後イランに入
国、6人に徹底的に偽の身分を覚えこませる。ヒゲ面のもっさりした外
見でトニーの"切れ者"ぶりをカムフラージュする一方、ハリウッド
の虚栄とCIA上層部の官僚体質を暴き出し、現場で苦労する工作員と対
比させる構成が小気味よい。

極限にまで高まったトニーと職員たちの不安と緊張だけでなく、あえ
てヒロイズムを避け、シリアスなのにどこかとぼけた味わいを残すと
ころに好感が持てた。

お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)

「アルゴ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120927

を参考にしてください。

本日はもう1本

「ペンギン夫婦の作りかた」 です。

辛すぎずくどすぎず、おかずに和えてもご飯にかけても、食材の風味
を損なうことなく独特の香味を鼻孔の奥に残す。中華料理店なら普通
に置いてあるラー油にさまざまな具材を加えて"ラー油を食べる"発
想で新たな需要を産んだ「石垣島ラー油」。それはひと組のカップル
の、素朴だけれど斬新なアイデアの賜物だった……。映画は、深く信
頼し合うふたりが厳しい現実を克服し、前向きに生きる姿を描く。

歩美と中国人夫・暁江は勤務先の倒産を機に石垣島に旅行、すっかり
石垣島が気にいったふたりは永住を決意する。歩美は飲食店で働くう
ちに現地の農産物で作るラー油を思いつき、フリーマーケットで売る。

物語は帰化申請する暁江のために夫婦で役人の面接を受けるふたりが、
回想の中でどれほどお互いを大切にし、いかにして大ヒット商品であ
る「石垣島ラー油」が生みだしたかを再現する。査問官は偽装結婚を疑
う態度を崩さず、さらにラー油製造場所を強制捜査したりと、あくま
で東京から来たよそ者と中国人に対する不信感を隠さない。そのあた
りの緊迫した空気と、歩美と暁江の苦労ですら楽しもうとするラブラ
ブな日常や帰化申請に向けて想定問答を繰り返す軽妙なシーンがバラ
ンスを取る。

ただ、もともと原作に波乱万丈の起伏があまりないのだろう、査問官
や歩美に勘違いさせてコミカルな味付けをしてアクセントをつけるが、
設定がベタ過ぎて笑えなかった。。。

お勧め度=★★(★★★★★が最高)

「ペンギン夫婦の作りかた」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121022

を参考にしてください。

本日はもう1本

「伏 鉄砲娘の捕物帳」 です。

猟師として抜群の腕前を持つ娘と、物の怪の本性を隠して生きる男。
ふたりは決して結ばれてはならない関係でありながら、出会い、惹か
れあい、そして運命に身をゆだねていく。並の作家ならば"道ならぬ
恋"に落ちた彼らが、苦悩し、二者択一を迫られつつも心の声に従う、
もしくは引き離される姿を描くはず。ところが、映画はそうした手垢
のついた展開とは明確に一線を画し、予期せぬ方向に舵を切る。

猟師の孫娘・浜路は江戸で犬の面をかぶった男・信乃に助けられ、兄
・道節の長屋に案内される。道節は、「伏」と呼ばれる魔物を退治し
て報奨金を狙っているが、さっそく浜路を連れて吉原に伏狩りに行く。

吉原に着く早々道節は客引きに誘われて仕事を放棄、一人になった浜
路は運よく信乃と再会、着物を買ってもらったりする。やがて花魁道
中が始まると、見物のために行列に近づいた道節が躓いた弾みで浜路
を花魁に投げつけ、花魁の正体が伏だとばれてしまう。その後もあら
ゆる場面で必然性のないことが突然起こり、物語を強引に引っ張って
いく。さらに、瓦版発行者の冥土という娘が登場するが、服装が現代
のメイド風なのもセンスの悪いギャグとしか思えない。

愛を謳うでも人生に葛藤するでもなく、目を見張るような映像を見せ
るわけでもない雑なシーンが続き、「南総里見八犬伝」の名を汚して
いく。作り手の主張やテーマのみならず、内容もまったく理解できな
い稀有な作品だった。

お勧め度=★*(★★★★★が最高)

「伏 鉄砲娘の捕物帳」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121023

を参考にしてください。

本日はもう1本

「宇宙人王さんとの遭遇」 です。

心の奥まで見透かすような黒光りする瞳、それは真実を語っているの
か、狡猾さを覆い隠そうとしているのか。時に弱々しく慈悲を乞うが、
自説を絶対に曲げない強い意志もにじませる。驚きや怒りには反射的
に反応し頭部を鶏冠のように広げるが、そのほかはほとんど感情が読
み取れない。物語はそんな宇宙人を秘密機関のエージェントが取り調
べる過程で、"エイリアン"の扱いについて考察を加える。

中国語翻訳者・ガイアは、中国語を話す宇宙人・ワンさんの通訳を引
き受ける。ガイアはキルティ捜査官の執拗な尋問に嫌悪感を抱き、文
化交流のために地球にきたと繰り返すがワンさんに同情していく。

ワンさんとは、今や世界中で政治的経済的な脅威となった中国人の象
徴。民族・出身で偏見や差別はいけないと頭では理解しているが、一
度甘い顔を見せてしまうと食い物にされてしまうのではといった不安。
イタリアではまだ宇宙人を使ったジョークで済まされるのかもしれな
いが、すでに池袋や新宿といった「新興チャイナタウン」が現実とな
っている日本では、より切実なリアリティで見る者に迫ってくる。

結局、異文化や異文明と出会ったとき、相手に良心や善意を期待する
のは墓穴を掘る結果になる。中国語を話す者を信用するなというこの
作品の教訓は、領土問題でくすぶっている日本人にとっては共感を呼
ぶ部分が少なからずあるはずだ。もちろんあらゆる中国人を敵視する
後味の悪さは否めないが。。。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「宇宙人王さんとの遭遇」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121024

を参考にしてください。