2013年10月26日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/26)

本日、とりあげる作品は
「コールド・ウォー」です。

爆弾テロと同時に起きた警官誘拐事件。鉄壁のセキュリティと通信・監視網がいとも簡単に破られ、身代金が要求される。緊急事態に陥った香港、警察内部では主導権をめぐってたたき上げの現場部門とオフィスワークの管理部門が対立する。そこに見え隠れする裏切り者と密告者の影、犯人はテロリストのみならず警察官にもいる。誰が正しくて誰が黒幕なのか、そして本当の敵は誰なのか、映画は一瞬の気の緩みも許さないテンションで疾走する。さらに、内務調査機関の介入で、事件は一層複雑な様相を見せる。一つの謎を解決しても、二の矢・三の矢と繰り出される予想外の展開にスクリーンから目が離せない。
5人の警官が車両ごと消え、その中に息子がいると知った「行動班」のリーダー・リーは、非常事態宣言を出すが救出作戦に失敗。代わって「管理班」のラウが指揮を執るが、彼も身代金を奪われてしまう。
警察の人事・命令系統をすべて把握し、2人の副長官がせめぎ合う長官不在の時期を狙って犯行に及ぶテロリストたち。特にラウを散々振り回したあげくカネを強奪するユニークなアイデアには思わず膝を打った。しかも、お互いを解任し合うほど仲の悪いリーとラウの出世争いを利用するなど、犯人側の手口は洗練されている。
その上で、彼らを疑う内務調査官・ビリーの登場が、物語をアクションからミステリーに鮮やかに変貌させる。この練り込まれた脚本は警察映画の新境地と言っても過言ではない。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「コールド・ウォー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130928を参考にしてください。
本日はもう1本
「セイフ ヘイヴン 」です。

髪を切って脱色し妊婦のフリをして必死に走る女、バスターミナルで行方をくらました彼女を執拗に探す刑事。一瞬の差で逃げ延びた彼女は遠く離れた見知らぬ町で新しい暮らしを始める。物語は逃亡中の容疑者と思しきヒロインが身分を変えて、新たな恋を手に入れる姿を描く。彼女は許されるべきなのか、愛される資格があるのか。確かにやむを得ず相手を傷つけたのだろう、だがきちんと決着をつけずに未来はあるのか。それらの謎を一枚ずつはがす過程は意外性に満ちていた。
ボストンから夜行バスに乗ったエリンは小さな町で下車、ケイティと名乗って腰を落ち着ける。そこで雑貨店を営むシングルファザーのアレックスと出会い、彼から自転車をプレゼントされる。
ケイティには当地の濃密なコミュニティが疎ましく、他人の好意ですら詮索好きの好奇心に思える。そんな彼女の警戒心を隣人のジョーが解き、いつしかケイティは妻に先立たれたアレックスとデートを重ねる。このあたりの展開は通俗的で、映画はむしろ海や森など豊かな自然に恵まれ、住人の気質も穏やかで親切な町の住みやすさを強調する。
しかし、刑事が発した指名手配所はこの町にも届き、ケイティの安住が脅かされる。やがてアレックスにケイティの嘘がばれるとともに、ケイティと彼女が刺した男、そして刑事との関係が明らかになっていく。中盤からはケイティとアレックスのぬる〜いラブストーリーに緊張感が漂い始め、一気に加速する。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「セイフ ヘイヴン 」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130810を参考にしてください。
本日はもう1本
「マッキー」です。

あいつだけは絶対に許さない! 殺された男の魂はハエとなって転生し、復讐の炎を燃やす。愛する女を守るため、自らの恨みを晴らすため、持てる能力を最大限に発揮して敵に挑んでいく雄姿はコミカルだが哀しくもある。ハニカム構造の視界から見た人間の世界はすべてが巨大、その大きさの違いを逆に生かしてわずかな隙間から忍び込み、姿を隠し、意外なところから攻撃する。一方で精一杯のボディランゲージで恋人に思いを伝える。あくまでハエらしい外観にこだわりつつキュートさも失わないディテール豊かなCGが素晴らしい。
ビンドゥはジャニの歓心を買おうと懸命だが、彼女は強欲な社長・スディープにも追い回されていた。ある日、ビンドゥがジャニを誘ったことからスディープは激怒、ジャニを拉致してなぶり殺しにする。
登場人物の感情表現が非常に明確なうえ音楽で強調されるので、誰が見てもきちんとストーリーが理解できる構成は、いかにもインド映画。また、復讐という血なまぐさいテーマのなか、暴力がはびこり、銃弾が飛び交い、爆発が起き、ガラスや針が人体に刺さる痛みを伴う映像にもかかわらず、擬人化されたハエのユーモラスな動きが中和しているので残酷さをあまり感じさせない。
どんな内容であれ映画はエンタテインメント、観客を心底楽しませなければならないといった思想が貫徹され、頭を空っぽにしてスクリーンに没頭できる作品だった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「マッキー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131016を参考にしてください。
本日はもう1本
「危険なプロット」です。

他人の秘められた日常を知りたい、そしてそこに隠された真実をあぶりだしたい。かつて作家を志した教師は、立場を忘れて好奇心に負けてしまう。彼の欲望を見抜いた若き作家はその気持ちを巧みに利用し、子弟の関係は逆転していく。映画は高校の国語教師が生徒の文才を伸ばそうとアドバイスするうちに、いつしか彼の紡ぎだす物語に絡め取られていく姿を描く。自分を圧倒的に凌駕する能力を持つ少年に出会ったとき、大人はどう対処すべきか。しかも本人は己の可能性にまだ気づいていない。何をすべきで何をすべきでないか、正しく導けるのか。主人公の逡巡と葛藤は、天才に嫉妬するあらゆる凡人を象徴する。
生徒の駄文にうんざりしていたジェルマンは、クロードが書いた文章に光るものを見出す。文体、ボキャブラリー、表現、先を期待させる展開は申し分なく、ジェルマンはクロードに個人的な指導を申し出る。
クロードの作文の内容は、クラスメートの家庭をのぞき見する視点で描写したもの。悪趣味と注意しつつもジェルマンは、読者を惹きつけてやまない構成に続きを読みたくて仕方がない。彼の妻・ジャンヌも夢中になっていく。いまや連載小説と化した完成度の高い作文に舌を巻きつつも、教師としてのプライドは守りたいジェルマン。だが、クロードはそんな彼の心に更なる言葉の毒を仕込んでいく。
美しさと狡猾さを備えたクロードを演じるエルンスト・ウンハウワーの悪魔のような妖しさが、ミステリアスな魅力をふりまいていた。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「危険なプロット」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131024を参考にしてください。