2013年10月26日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/26)

本日、とりあげる作品は
「コールド・ウォー」です。

爆弾テロと同時に起きた警官誘拐事件。鉄壁のセキュリティと通信・監視網がいとも簡単に破られ、身代金が要求される。緊急事態に陥った香港、警察内部では主導権をめぐってたたき上げの現場部門とオフィスワークの管理部門が対立する。そこに見え隠れする裏切り者と密告者の影、犯人はテロリストのみならず警察官にもいる。誰が正しくて誰が黒幕なのか、そして本当の敵は誰なのか、映画は一瞬の気の緩みも許さないテンションで疾走する。さらに、内務調査機関の介入で、事件は一層複雑な様相を見せる。一つの謎を解決しても、二の矢・三の矢と繰り出される予想外の展開にスクリーンから目が離せない。
5人の警官が車両ごと消え、その中に息子がいると知った「行動班」のリーダー・リーは、非常事態宣言を出すが救出作戦に失敗。代わって「管理班」のラウが指揮を執るが、彼も身代金を奪われてしまう。
警察の人事・命令系統をすべて把握し、2人の副長官がせめぎ合う長官不在の時期を狙って犯行に及ぶテロリストたち。特にラウを散々振り回したあげくカネを強奪するユニークなアイデアには思わず膝を打った。しかも、お互いを解任し合うほど仲の悪いリーとラウの出世争いを利用するなど、犯人側の手口は洗練されている。
その上で、彼らを疑う内務調査官・ビリーの登場が、物語をアクションからミステリーに鮮やかに変貌させる。この練り込まれた脚本は警察映画の新境地と言っても過言ではない。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「コールド・ウォー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130928を参考にしてください。
本日はもう1本
「セイフ ヘイヴン 」です。

髪を切って脱色し妊婦のフリをして必死に走る女、バスターミナルで行方をくらました彼女を執拗に探す刑事。一瞬の差で逃げ延びた彼女は遠く離れた見知らぬ町で新しい暮らしを始める。物語は逃亡中の容疑者と思しきヒロインが身分を変えて、新たな恋を手に入れる姿を描く。彼女は許されるべきなのか、愛される資格があるのか。確かにやむを得ず相手を傷つけたのだろう、だがきちんと決着をつけずに未来はあるのか。それらの謎を一枚ずつはがす過程は意外性に満ちていた。
ボストンから夜行バスに乗ったエリンは小さな町で下車、ケイティと名乗って腰を落ち着ける。そこで雑貨店を営むシングルファザーのアレックスと出会い、彼から自転車をプレゼントされる。
ケイティには当地の濃密なコミュニティが疎ましく、他人の好意ですら詮索好きの好奇心に思える。そんな彼女の警戒心を隣人のジョーが解き、いつしかケイティは妻に先立たれたアレックスとデートを重ねる。このあたりの展開は通俗的で、映画はむしろ海や森など豊かな自然に恵まれ、住人の気質も穏やかで親切な町の住みやすさを強調する。
しかし、刑事が発した指名手配所はこの町にも届き、ケイティの安住が脅かされる。やがてアレックスにケイティの嘘がばれるとともに、ケイティと彼女が刺した男、そして刑事との関係が明らかになっていく。中盤からはケイティとアレックスのぬる〜いラブストーリーに緊張感が漂い始め、一気に加速する。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「セイフ ヘイヴン 」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130810を参考にしてください。
本日はもう1本
「マッキー」です。

あいつだけは絶対に許さない! 殺された男の魂はハエとなって転生し、復讐の炎を燃やす。愛する女を守るため、自らの恨みを晴らすため、持てる能力を最大限に発揮して敵に挑んでいく雄姿はコミカルだが哀しくもある。ハニカム構造の視界から見た人間の世界はすべてが巨大、その大きさの違いを逆に生かしてわずかな隙間から忍び込み、姿を隠し、意外なところから攻撃する。一方で精一杯のボディランゲージで恋人に思いを伝える。あくまでハエらしい外観にこだわりつつキュートさも失わないディテール豊かなCGが素晴らしい。
ビンドゥはジャニの歓心を買おうと懸命だが、彼女は強欲な社長・スディープにも追い回されていた。ある日、ビンドゥがジャニを誘ったことからスディープは激怒、ジャニを拉致してなぶり殺しにする。
登場人物の感情表現が非常に明確なうえ音楽で強調されるので、誰が見てもきちんとストーリーが理解できる構成は、いかにもインド映画。また、復讐という血なまぐさいテーマのなか、暴力がはびこり、銃弾が飛び交い、爆発が起き、ガラスや針が人体に刺さる痛みを伴う映像にもかかわらず、擬人化されたハエのユーモラスな動きが中和しているので残酷さをあまり感じさせない。
どんな内容であれ映画はエンタテインメント、観客を心底楽しませなければならないといった思想が貫徹され、頭を空っぽにしてスクリーンに没頭できる作品だった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「マッキー」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131016を参考にしてください。
本日はもう1本
「危険なプロット」です。

他人の秘められた日常を知りたい、そしてそこに隠された真実をあぶりだしたい。かつて作家を志した教師は、立場を忘れて好奇心に負けてしまう。彼の欲望を見抜いた若き作家はその気持ちを巧みに利用し、子弟の関係は逆転していく。映画は高校の国語教師が生徒の文才を伸ばそうとアドバイスするうちに、いつしか彼の紡ぎだす物語に絡め取られていく姿を描く。自分を圧倒的に凌駕する能力を持つ少年に出会ったとき、大人はどう対処すべきか。しかも本人は己の可能性にまだ気づいていない。何をすべきで何をすべきでないか、正しく導けるのか。主人公の逡巡と葛藤は、天才に嫉妬するあらゆる凡人を象徴する。
生徒の駄文にうんざりしていたジェルマンは、クロードが書いた文章に光るものを見出す。文体、ボキャブラリー、表現、先を期待させる展開は申し分なく、ジェルマンはクロードに個人的な指導を申し出る。
クロードの作文の内容は、クラスメートの家庭をのぞき見する視点で描写したもの。悪趣味と注意しつつもジェルマンは、読者を惹きつけてやまない構成に続きを読みたくて仕方がない。彼の妻・ジャンヌも夢中になっていく。いまや連載小説と化した完成度の高い作文に舌を巻きつつも、教師としてのプライドは守りたいジェルマン。だが、クロードはそんな彼の心に更なる言葉の毒を仕込んでいく。
美しさと狡猾さを備えたクロードを演じるエルンスト・ウンハウワーの悪魔のような妖しさが、ミステリアスな魅力をふりまいていた。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「危険なプロット」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131024を参考にしてください。

2013年10月24日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/24)

本日、とりあげる作品は
「マダム・マーマレードの異常な謎 出題編」です。

映画の中で提示された謎を、与えられたヒントを元に観客が上映時間内に解く。しかも3分間の"シンキングタイム"を3度挟む思いがけない展開は、"史上初"らしい。映画は、30年前に死んだ高名な映画監督の未公開フィルムに残された「遺言」の解明を依頼された"謎解き屋"と共にそのフィルムを見る設定の下、趣向を凝らした3本の短編を楽しめる構成になっている。芝居がかったヒロインをはじめ胡散臭そうな登場人物がそろった現在のパートに比べ、劇中劇は時代を感じさせる古風な作風。そんな手の込んだ作りに、遊園地のミステリーツアーに参加しているような高揚感を覚える。
"解けない謎はない"と豪語するマダム・マーマレードは古い豪邸に招待され、世界的名声を得ていた藤堂監督の遺族から彼の遺書の真意を探り出してくれと頼まれる。手がかりは「最初のセリフ」のみ。
1本目の「つむじ風」は、好きになってはいけない人に恋をした少女が、デビュー当時の吉永小百合を連想させるきらめきで繊細な心を表現している。気持ちは直接口にするか手紙でしか伝えられないもどかしさが初々しい。2本目の「鏡」は、鏡の中に閉じ込められた女に強く惹かれた男が、彼女を救い出そうとするうちに邪悪な怨念に呪われていく。
3本目の、頭の弱い少女の母への思いを描いた「やまわろわ」は、これだけ独立させても通用するほどの情愛にあふれた作品で、少女の一途な感情が胸を打った。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「マダム・マーマレードの異常な謎 出題編」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131003を参考にしてください。
本日はもう1本
「人類資金」です。

騙しているつもりが利用され、操っているはずが躍らされている。戦後、さまざまな巨額の詐欺事件が起きた「M資金」。映画は、マネーゲーム資金と堕した「M資金」を正しい使い道に戻そうとする戦後世代の奮闘を描く。世界の富の99%を独占する富裕層と、数十億人の貧困層。それらの対立項を軸に、ある種の正義感に目覚めた主人公の冒険の旅は、コンゲームとアクションが入り混じりより複雑にねじれていく。だが、東京・極東ロシア・東南アジア・NYと地球を半周する壮大なスケールに見合う内容に乏しく、「人」に投資してこそカネは生きるというテーマにたどり着くまで迷走が続く。
「M資金」をネタに詐欺を繰り返す真船は東南アジア系の男・セキを通じ本物の「M資金」に関係するグループに呼び出され、Mと名乗る責任者から「M資金」の管理財団から10兆円を詐取する計画を依頼される。
その後、真船やセキの前に自衛隊のスパイ組織や米国の殺し屋が現れたり、「M資金」を"相続"した老人などの思惑が絡むなど、ますます全体像が見えづらくなっていく。さらにセキの故郷である極貧国の資源開発を利用して国際マーケットに仕手戦を仕掛けるなど、真船は自らの詐欺行為を"良心の戦い"と定義づけていく。
ところがそのエピソードの数々は極めて大雑把で、"ホラ話にリアリティを持たせるのはディテール"のルールを無視している。パソコンで取引する時代に50億円分の札束を用意する必要があるのか。。。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「人類資金」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131020を参考にしてください。
本日はもう1本
「アルカナ」です。

心霊現象なのかまったく新しい怪奇現象なのか、臨死体験した人間は自らの分身を体から分離させ、分身は独立した人格として活動する。生気のない顔ながら卓越した身体能力で人間を襲い、その心臓を糧として闇の世界で生きている分身。映画はそんな彼らが起こした惨殺事件を追う刑事が記憶喪失の少女とかかわるうちに、霊が見える能力で覚える疎外感を共有し、お互いに理解を深めていく過程を描く。スタイリッシュな映像を短いカットにしてスピーディに畳み掛けてくる。
死者の霊が見える刑事の村上は、大量殺人事件の現場で逮捕された少女も同じ悩みを持つと知り、彼女に接近する。自彼女に、村上はマキと名付け、殺人犯と決めつける同僚から守ろうとする。
一方、警視庁の心霊事件専門班が、惨殺事件は分身の仕業と断定、村上の捜査に介入してくる。同時に、マキとそっくりのさつきが現れ、マキの正体が明らかになっていく。普通は分身になるとゾンビのような邪悪な面を見せるのに、彼女たちの場合、さつきが親不孝者なのに対しマキは気立てがよくおとなしい。分身のほうがより愛される存在という皮肉が、本体と分身の価値の差に疑問を投げかける。
しかし映画はそれらの要素を取り留めなく羅列しているのみ。村上が爆弾犯を追うアクションの疾走感や、最強分身・ミチルとの格闘場面の躍動感は洗練されていただけに、もう少しきちんとした構成の脚本を作ってほしかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「アルカナ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131021を参考にしてください。

2013年10月19日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/19)

本日、とりあげる作品は
「もうひとりの息子」です。

自分はいったい何者なのか。体に流れているのは異教徒の血、でも両親は愛してくれる。過去を取り戻せないのならせめて真実を知りたい、その上で現実を直視するしかない。物語は、戦乱の中で生まれた2人に衝撃の事実が判明したのを機に起きる、本人たちと家族の葛藤を描く。宗教も言葉も異なる本当の父と母、しかも互いに敵対関係にある地域に住んでいる。いまだ高い壁に分断され流血の絶えないパレスチナ、映画は2つの家庭の交流を通じて人間の理性と良心を導き、2人の青年に未来を託す。
イスラエル人に育てられたヨセフは病院で取り違えられたアラブ人の子だと告げられる。パレスチナ人のヤシンも、ユダヤ人の子と知らされる。双方の家族は食事会を開き、2人は心中を打ち明け合う。
初めて親同士で面会した時、母親たちは息子の写真を見せ合ってすぐに打ち解けるのに、父親たちは憮然と席を立つ。過ぎてしまったことよりもこれからを考える女と、名誉を傷つけられたととらえる男。このあたり「そして父になる」の親たちと似たような反応だが、わが子への親の気持ちは国や民族が違っても変わらないのだ。一方、ヨセフとヤシンはわだかまりを呑み込んで友人になっていく。
軍人であるヨセフの父に嫌悪感を抱いていたヤシンの父が通行証を融通してくれた礼に訪れ、2人が無言でコーヒーを飲むシーンが、理性とは怒りや憎しみを抑制する冷静さだと訴える。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「もうひとりの息子」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130828を参考にしてください。
本日はもう1本
「ブロークンシティ」です。

欲望渦巻く汚れきった町、政治家もまた金権体質にまみれ強欲を隠さない。市長選を控えたNY、再開発の利権をめぐって現職市長と対立候補が公開討論する場面が刺激的だ。公共工事か、富裕層への増税か。まるで財政再建に苦慮する昨今の日本の現状を見るような身近な話題に、否応なく引きずり込まれる。映画は、とんでもないスキャンダルを入手した探偵が、そこに仕組まれた罠に気づくうちに自らも命の危険にさらされていく過程を描く。自分自身の良心とも戦う運命に直面する苦悩に満ちた探偵をマーク・ウォールバーグが熱演、荒んだ街並みにぴったりとなじんでいる。
捜査中に容疑者を射殺したビリーは無罪になったものの警察を退職、今は探偵事務所を開いている。ある日、市長のホステラーに呼び出されたビリーは、ホステラーの妻・キャサリンの浮気調査を依頼される。
ビリーはキャサリンに尾行をやめるようくぎを刺されるが、証拠写真をホステラーに渡してしまう。折しも市長選を直後に控え、支持率を挽回したいホステラー。ホステラーとキャサリンは仮面夫婦なのか。ホステラーと対立候補の言い分はどちらが正しいのか。さらに再開発業者との癒着と内通者の存在。謎が謎を呼ぶ展開の中で、最初からビリーはホステラーの捨て駒にされていたのだけは確か。
政治家と土建屋が巨利をむさぼろうとする、オリンピック招致でこんなきな臭い話が東京でもあちこちで出るのではと思わせる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ブロークンシティ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130910を参考にしてください。
本日はもう1本
「マイク・ミルズのうつの話」です。

心が鉛になったように重く、押しつぶされる苦しみに襲われる。生きていてもつらいばかり、いっそのこと死んでしまいたいと思いつつ、なかなか実行に移せない。睡眠中は現実を忘れさせてくれるのでベッドから出られないetc. それが病気として一般的に認知されたのは古い話ではなく、21世紀になって米国の製薬会社がキャンペーンを張ったからだという。ある程度抗うつ薬で症状が抑制できる、でも薬をやめるとまた気分が落ち込んでしまう。映画は毎日数種類の抗うつ薬を服用し続ける5人の日本人の日常に密着し、彼らが何を考えどう暮らしてきたかを追う。
うつ克服にミカは毎日嫌いな酢を飲む。睡眠中が一番幸せというカヨコは自殺願望が消えない。酒もタバコもやめられないダイスケは抗うつ薬もやめられない。両親と同居中のタケトシは自立の道を探る。
5人の登場人物の中ではケンがいちばん個性的。半ケツ状態のホットパンツにハイヒールを履いて街に出る典型的なゲイファッション。人あたりも話し方もごく普通で、心を病んでいるようには見えないし、ゲイに対する偏見と闘っているわけでもない。何が彼を追いこんでいるのか、結局は彼自身にもわからない。
唯一、縄師に縛られ吊るされる瞬間は心が解放される。ケンだけは自分なりにうつとの付き合い方を学び実践し、己の置かれている状況を何とか快適なものにしているように見えた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「マイク・ミルズのうつの話」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130927を参考にしてください。

2013年10月17日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/17)

本日、とりあげる作品は
「ダイアナ」です。

警備員や執事といった人々に四六時中守られ、身の回りの世話を任せているけれど、胸の内を打ち明けられるのはエステティシャンだけ。かつて世界中の注目と祝福を浴びた元皇太子妃の眼前にあるのは、抱えきれないほどの孤独。そんな彼女が、初めて自分を特別な目で見ない男と出会い、恋に落ちる。物語は若くして交通事故死したダイアナ元妃の最期の2年間を描く。慈愛あふれるプリンセスの顔で海外を飛び回りつつも、女としての幸せを追いかけて己に正直に生きようとする。一見愚かにも見える、葛藤する姿が人間的で親近感を覚える。
離婚したダイアナは人生に倦んだ日々を送っていた。ある日、父危篤の知らせが入り病院に駆け、主治医・ハスナットの飾らない人柄にときめきを感じたダイアナは、彼を宮殿に招待し親交を深めていく。
離婚後もそれなりの身分は保障されているが、世間からみるとゴシップの対象。だがハスナットと一緒にいたい気持ちを抑えきれない。クルマのトランクに身をひそめたり、駐車場でクルマを乗り換えたり、黒髪のウィッグで変装したりと、涙ぐましい努力をして束の間の逢瀬を楽しむふたり。
ハスナットとの甘いひとときに身も心も溺れていくダイアナは普通の恋する女と変わらない。一方で地雷除去活動では並々ならぬ決意を全世界に示す。その私生活と公務のギャップが、彼女が人々に愛された理由だろう。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ダイアナ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130918を参考にしてください。
本日はもう1本
「ゴースト・エージェント R.I.P.D.」です。

ショットガンを浴びて落下、床にたたきつけられた男が目を開けると、人は鼓動を止め、飛び交う破片や銃弾、パトカーまでが空中で静止している。固まってしまった世界で覚醒し足を動かしているのは自分だけ。3Dで再現された奇妙な感覚、奥行ある映像が「死」をリアルに実感させる。物語は殉職した刑事が、成仏せずに悪事を企む悪霊たちを取り締まる捜査官になって大活躍する姿を描く。未練を残した妻に思いを伝えたいが、全くの別人の外見で復活しているため取り合ってもらえない。そのギャップが、派手なアクションの中にもユーモアと切なさをもたらし、主人公の愛の深さを代弁していた。
刑事のニックは横領した金塊を返納しようとして相棒のボビーに殺される。あの世の入り口で悪霊捜査官・R.I.P.D.に志願したニックは、ベテラン捜査官・ロイとコンビを組んで地上に戻ってくる。
R.I.P.D.隊員同士には生前の風貌のまま認識されるが、生きている人間にはニックは中国人の老人、ロイはブロンド美女に見えている。ボビーがニックの妻・ジュリアに近づき金塊の隠し場所を聞き出そうしても、ニックに阻むすべはない。
映画は謎解きの面白さよりも視覚効果に軸足を置き、悪霊ハンター対悪霊たちのバトルで楽しませようとする。あらゆる方向から降り注ぐ多大な情報量のCGと音響の圧倒的な臨場感に、体験型アトラクションに参加している気分を味わった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ゴースト・エージェント R.I.P.D.」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130906を参考にしてください。
本日はもう1本
「陽だまりの彼女」です。

風に揺れるモービルをせわしなく目で追う、興味がないと素知らぬふり、関心を持ったことには目を丸くして好奇心をむき出しにする。かまってほしいときには体を摺り寄せるけれど、相手の話はほとんど聞いていない。熱いコーヒーを飲めない・・・。気まぐれだけど一途なロインを上野樹里がしなやかに演じる。物語は10年ぶりに中学時代の同級生に再会した主人公が、彼女の魅力を再発見していく過程を描く。ふたりにとってはつらい過去も、共に過ごすうちに美しく懐かしい思い出に変わっていく。そんな恋の魔法の数々が、きらめくような映像に再現されていた。
広告会社に勤務する浩介は、取引先で打ち合わせに現れた真緒に驚くが、思い切って誘いのメールを出す。真緒は快く返事、ふたりはデートを重ねる仲になるが、浩介は真緒の父から衝撃の事実を知らされる。
中学時代いじめられていた真緒を助けた浩介はクラスから孤立し、ふたりは仲良くなる。男女で一緒にいるのが恥ずかしくて仕方のない年頃なのに、真緒は浩介から離れない。浩介の何気ない優しさとただ浩介といるだけでほおが緩む真緒、すっかり忘却の彼方に置き去りにされていた出来事が浩介の脳裏によみがえる。
ところが浩介の胸に真緒との記憶が蓄積されるに従って真緒がやつれていく。満ち足りた毎日に暗い影がよぎり、真緒が命を削って秘密を守る姿が哀しく、事情が呑み込めず葛藤する浩介の苦悩が切ない。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「陽だまりの彼女」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131014を参考にしてください。
本日はもう1本
「レッド・ドーン」です。

轟音と共に目覚めると空挺部隊がパラシュートで降下してくる。平和な町はあっけなく制圧され市民は自由を奪われる。経済危機とサイバーテロで弱体化した防衛ラインはいとも簡単に破られ、敵の侵入を許してしまった米国。映画は、海外に派兵はしても、核ミサイル以外に本土が攻撃されるのを想定していない弱点を衝く。だが祖国を守ろうとする勇者は必ず現れる。物語は、一度は山中に逃げた若者たちが解放軍を組織して、占領軍相手に戦う姿を描く。無理のある設定ながら、愛国心を鼓舞する効果は絶大だ。
田舎町の高校生・マットの元に海兵隊員の兄・ジェドが帰郷してくる。翌朝、北朝鮮軍が米国に侵攻、支配下に置くが、ジェドとマットは数人の友人と共に山小屋に隠れ、武器弾薬食料を集めて徹底抗戦を誓う。
彼らの中で銃の扱いに習熟し戦闘経験があるのはジェドひとり。ジェドは占領軍から強奪した小銃・爆弾でマットたち高校生を鍛え上げ、ゲリラ戦術を叩き込む。ウルヴァリンズと名乗る彼らは、町のあらゆる場所で爆弾を仕掛け、奇襲をかけて見事に北朝鮮正規軍を出し抜く。
要するにこの作品は、かつてのベトナムや21世紀のイラク・アフガンでの米国の占領政策の裏返し。故郷を土足で踏みにじった外国人に間違いを思い知らせてやる、そんな不屈の魂を持った人間がいる限り、力による統治は早晩破たんすることを米国のタカ派指導者たちに逆説的に訴えているのだ。そのメッセージは皮肉に満ちているだけに強烈だった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「レッド・ドーン」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131015を参考にしてください。
本日はもう1本
「ムード・インディゴ うたかたの日々」です。

腕利きのコックが作る自己主張する料理、蛇口から出てくるうなぎ、演奏に合わせてカクテルを作るピアノ、長く伸びた足をくねらせるダンス…。独創的な小道具とパリの古い町並みはレトロフューチャーなイメージに命を与え、主人公が体験する、夢で見たような風景と愛の苦悩を再現する。ところが、あまりにも奇抜なアイデアの数々は驚きやあこがれを遠く超えてしまい、そこから放たれるファンタスティックな毒は何のメタファーなのかまったく見当がつかない。結果的にこの作品の世界観から完全にはじき出されてしまった。
コランはパーティでクロエを紹介され、たちまち恋に落ちる。ふたりは結婚するが、クロエは肺に睡蓮の花が咲く病気に侵され、高額な治療費のせいで資産が底をついたコランは仕方なく働きに出る。
小説の描写を可能な限り豊かな想像力で視覚化しているのだろう。カラフルな前半は、それゆえ遊び心に富み、不思議の国に迷い込んだ感覚にとらわれる。だが、それらが物語の展開にどんな影響を及ぼしているのかは不明で、ただ妄想に似た思いつきを具象化するばかり。コランとクロエの思考や行動にどうかかわるのかも理解できなかった。
不条理劇とはちがう、奔放なイマジネーションで満たされたコランとクロエの甘く切ないメロドラマととらえるべきなのだろう。恋をしている間は目に入るすべてがが極彩色の楽しさに彩られる、そんな幸せに浸っていられる者のみがこの映画を堪能する資格を持つのだ。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ムード・インディゴ うたかたの日々」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131013を参考にしてください。

2013年10月10日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/10)

本日、とりあげる作品は
「トランス」です。

失くした記憶は取り戻せるのか、消された記憶はよみがえるのか。潜在意識に埋もれたしまった出来事を浮かび上がらせた男は、知らなかったはずの事実に驚き戸惑い恐怖する。今の自分は何者なのか、本当の自我はどこにあるのか、誰かにコントロールされているのか。現実と虚構の境界が分からないほど深いトランス状態で、彼はようやく真実にたどり着く。スタイリッシュな映像とスピーディでミステリアスな展開は、主人公の混乱した頭の中を覗き込んでいる気分になる。
競売員のサイモンは強盗のフランクを出し抜いて強奪されたゴヤの名画を横取りするが、フランクに殴られたせいで隠し場所を忘れる。サイモンは催眠セラピスト・エリザベスに記憶を修復してもらう。
エリザベスは浅黒い肌の大きな目のいわくありげな美女。サイモンの素性と目的を即座に見抜いた彼女は、フランクに自分も一枚かませろと持ちかけるなど、ギャングを恐れない大胆さも持つ。彼女がサイモンの意識の深層に働きかけ手がかりを探していく過程で、サイモンの脳内に投影されるのは、夢でもなく幻覚でもなくどこか知覚と妄想が入り混じったリアルな感覚に満ちたヴィジョン。それは蓄積途中でサイモンの脳が都合よく脚色した疑似体験にも見える。
さらにエリザベスの不審な行動が、一筋縄ではいかない複雑な事件の構造を徐々に明らかにしていく。操っているのはだれか、嘘をついているのはなぜか、謎が謎を呼ぶ構成に一瞬も目が離せなかった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「トランス」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130803を参考にしてください。
本日はもう1本
「パッション」です。

親切な上司を信頼してはいけない、忠実な部下に心を許してはいけない、二股男を愛してはいけない。完全実力主義の会社、そこでは誰もが強烈な上昇志向で、結果を出した者だけが生き残り昇進していく。物語はそんな広告代理店に勤務する女たちの裏切りと嫉妬、欲望と罠のパワーゲームを描く。クローズアップの多用と感情を刺激する音楽、そして丁寧なカメラワークで撮影された登場人物の心理描写は古き良きミステリー映画を見ているよう。それぞれのシーンをじっくりと見せる、ゆったりしたテンポが逆に新鮮だった。
スマホ新製品のCMデモテープを作製、社内で好評を博したイザベルは、手柄を上司のクリスティーンに横取りされる。だがイザベルはビデオを投稿サイトで公開、すると大反響を得て社長に絶賛される。
その日からクリスティーンの露骨な嫌がらせが始まり、イザベルは精神的に追い詰められていく。部下のダニが味方になってくれたお陰で何とか打開策を出すが、起死回生とまではいかない。魅力的な微笑みを絶やさないクリスティーンに、容姿に恵まれないイザベルは歯が立たない。もはや学校での"いじめ"のレベルといえるほど執拗で陰湿、女同士の怨念と悪意の衝突はすさまじいまでの緊張感を生んでいく。
その過程で、デ・パルマ監督は情報を詰め込んで考える時間を与えない昨今の流行とは一線を隠し、腰を落ち着けてじっくりと彼女たちの胸の内を再現する。サスペンスの王道を行く演出だった。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「パッション」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131007を参考にしてください。
本日はもう1本
「ランナウェイ 逃亡者」です。

正義の闘いだったはずなのに無辜の市民を死なせてしまった。その事実は30年を経ても良心の呵責となって元活動家たちを責める。罪を償うべきか逃げ続けるべきか。物語は、1960年代の過激派が、元同志の逮捕で窮地に追い込まれる姿を描く。もはや老人の域に達した彼は、今は平穏に暮らし守るべき家族もいる。だが消したかった過去は思わぬところからかま首をもたげてくる。そして彼の逃亡劇は自分自身の真実を再発見する旅でもある。相変わらず好青年が齢を重ねたようなロバート・レッドフォードが、息も絶え絶えにジョギングするシーンが時の流れを感じさせた。
30年前の銀行強盗殺人容疑で反戦運動の元闘士・シャロンがFBIに拘束される。新聞記者・ベンは事件の取材を進めるうちに、地元の弁護士・ジムの正体が同事件で指名手配中のニックだと突き止める。
FBIを出し抜いて逃走するニックは、かつての同志・ミミの消息を求め、昔の仲間を訪ね回る。当然30年前の忌まわしき亡霊ともいえるニックの訪問を歓迎していないのは明らかで、旧交を温め合うなどというセンチメンタルなことはしない。
それでも、決してニックを裏切ったりはせず、救いの手を差し伸べるのは、むしろニックに自らの過去の清算を託しているから。仲間との信頼だけは守ろうとする、命がけの修羅場を乗り越えてきた彼らの絆に、強固な意志を持って生きてきた人々の信念がうかがえた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ランナウェイ 逃亡者」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131008を参考にしてください。
本日はもう1本
「ルノワール 陽だまりの裸婦」です。

降り注ぐ陽光、風にそよぐ木々や草原、小川のせせらぎ・・・。自然と気候に恵まれた南仏に居を構え、病気と闘いながら絵筆を操る老画家。若さの輝きに満ちた娘は彼の意欲を刺激し、体力の衰えを忘れさせてキャンバスに向かわせる。尻、胸、背中、顔の輪郭、曲線だけで素描された彼女の裸像は豊かなイメージを喚起し、人生の喜びを謳歌するよう。もはや情熱を発散させる年齢ではない、黙々と絵具を塗り、目の前の風景を絵筆一本で幸せの魔法がかかった世界に変貌させていく過程は、芸術家というより職人の技を味わう気分だ。
ルノワールの邸宅を訪れたアンドレはモデルに雇われ、彼のアトリエに出入りし始める。ルノワールはリウマチに侵され手足が不自由だったが、それでも指に絵筆を巻き付けてアンドレのヌードを描き続ける。
第一次大戦中とは思えないほどのどかな日常、そこに負傷して除隊になった二男のジャンが帰ってくる。ルノワールの創作に付き合い毎日アンドレの裸を見ているうちに、当然ジャンは彼女に魅かれていく。しかし、彼女は父のモデル、今まで父がモデルに手をだし母もそのうちの一人だと知っているジャンは複雑な心境だっただろう。
ただ、この作品は極めて散文的で、淡々とエピソードが語られるのみ。自転車をこぐアンドレの主観で始まるのだから、彼女が見聞した"ルノワール父子の真実"的なアレンジが欲しかった。美しい映像が紡ぎだす至福のシーンの数々が、物語に昇華されていないのは残念だった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「ルノワール 陽だまりの裸婦」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131006を参考にしてください。

2013年10月5日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/5)

本日、とりあげる作品は
「R100」です。

突然現れた女王様に回し蹴りを喰らい、握りずしを叩き潰され、噴水に沈められる男。苦痛の奥にある愉悦に思わず目を細めほおを緩める。病床の妻を心配しながら一人息子とつつましく暮らす彼にとって、唯一心が休まる瞬間だ。物語はSMクラブと特別な契約を結んだ主人公が徐々に蝕まれていく姿を描く。肉体的だけではない、精神的にも追い詰められる彼の、もう逃げ出したい、でも忘れられない、一度足を踏み入れると絶対に抜け出せない禁断の忘我をシュールな映像で再現する。既成の価値観で理解しようとしてはいけない、ただ受け入れるのみ。松本人志も"考えるな、感じるんだ"の境地に達したようだ。
サラリーマンの片山はSMクラブ"ボンデージ"に入会、その日から日常生活に女王様が闖入し彼を責める。当初片山はサプライズに満足していたが、次第にエスカレートするプレイに悩まされ始める。
女王様が片山の職場を訪れ彼を鞭打ち罵倒する場面には不安を、妻が入院する病室で片山を縛りろうそくを垂らすシーンには危うさを覚え、身の危険を感じた片山が警察に相談する気まずさと困惑には脇腹をくすぐられる。さらに謎の男が警告を発したりするなど、一応ストーリーはあるが、もはや限りなく妄想に近いまったく先の読めない不条理な展開。
だがそこから発散される豊穣なイマジネーションは強烈な引力を放ち、笑いと共感と未体験の興奮を味あわせてくれる。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「R100」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130815を参考にしてください。
本日はもう1本
「フローズン・グラウンド 」です。

昼なお薄暗い極北の地、弱々しい太陽の光は町の片隅でひっそりと生きる人々には届かない。それでも石油目当てに様々な人が集まり、夜の街を徘徊する女たちを餌食にする変質者も密かに牙を研ぐことができる。映画は1983年にアラスカで発覚した大量殺人事件を追う。善良な市民として暮らす犯人、わずかな手がかりを元に現在と過去を結びつけていく刑事。沈んだ映像が犯人の心の闇と被害者の絶望を象徴し、邪悪なエネルギーとなって刑事に伝わっていく。
保護された娼婦・シンディはハンセンを告発、州警察のジャックは彼女の証言を元にハンセンの身辺を洗う。身元不明死体が連続して発見された事件との関連に気づいたジャックはシンディに協力を求める。
ハンセンは前科はあるが、今では市警察も認めるほどの模範的な住民。だが、娼婦ばかりを監禁・レイプしたうえ猟銃で射殺するという残忍な裏の顔を持つ。飛行機に乗せて原野で犯行に及び死体を埋めるために、なかなか警察の手が及ばず、ジャックたちは後手後手に回る。論理的な仮説は立てられるが証拠はない、そんな状況で右往左往しているうちにハンセンの魔手は唯一の証人であるシンディに再び伸びる。そのあたりの描写はあくまで感情を抑制し、サスペンスを盛り上げるような演出はしない。
ハンセンを演じたジョン・キューザックは狂気をあえて封じ込めて、人殺しが日常と化した男のダークサイドを表現する。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「フローズン・グラウンド 」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130822を参考にしてください。
本日はもう1本
「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」です。

マリリン・モンローのシンボルともいえる左ほおのホクロ。デビュー間もないころの写真にはなかったり、彼女のセックスアピールの証となった後も、時に大きくなったり小さくなったり、薄くなったり消えたり。シチュエーションに応じて微妙に見かけが変わっていることに初めて気づいた。映画ではホクロの件には触れていないが、その変化は、彼女の波乱万丈の人生を象徴しているかのようだ。
マリリン・モンローについて書かれ出版された本は1000冊を超え、最近2箱分の手紙が見つかる。そこには彼女の夢、努力、不満、孤独などが赤裸々につづられ、彼女の知られざる一面を知ることができる。
20世紀FOXのカメラテストを受けたマリリンは大物プロデューサー・ザナックと寝て役を与えられる。彼女は"枕営業"を恥じてはおらず、スターになるためのステップと割り切っている。もちろん他の女優以上にレッスンに励み、チャンスが来た時の準備は怠らない。さらに無名時代のヌード写真流出事件も利用して売名を図る。
後に、NYで本格的に演技を学び、自己の深層を見つめる作業に没頭する。その先にあるのは誰にも理解されない不安と恐怖。だが、契約を棒に振って出席したJFKのパーティでも、やっぱりセクシーなマリリンを演じている矛盾。マリリン・モンローという虚像の大きさに耐えきれなかった彼女の苦悩の深さは、"alone!!!!!!"の言葉の後に付いた感嘆符の数が物語っていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130831を参考にしてください。

2013年10月3日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/3)

本日、とりあげる作品は
「謝罪の王様」です。

ただきちんと謝ってほしかっただけ。相手の思いに気づかず謝罪のタイミングを逃し、いたずらに事をこじらせる。映画は "謝罪の言葉を口にしたら負け"という米国流の悪しき習慣に染まってしまい、道や電車で他人にぶつかっても知らんぷりし、失敗しても自分の落ち度を認めようとしない昨今の日本人に、「ごめんなさい」は社会生活の潤滑油だと再認識させてくれる。
係争相手の怒りを鎮める謝罪師・黒島は、ヤクザと交通事故を起こした典子を助手に雇う。典子はセクハラで訴えられた会社員のケースを担当するが交渉は難航、黒島が奥の手を使って訴訟を取り下げさせる。
その後も芸能人夫婦の謝罪会見、やり手弁護士と娘の不和の修復など難問を解決していく。彼らはみな悪意があるのではなく、反省の気持ちを表現するのが下手なだけ。黒島はそんな彼らに、どうすれば相手の心を開けるかをレクチャーする。あくまでコミカルに処理し説教くささを消しているが、黒島のノウハウは実生活で応用できるほど具体的で、思わずメモしたくなった。さらに外交問題を一任され、そこでも重大な過失ほど素早く誠意のこもった対応を見せる大切さを説く。
互いに無関係に見えるそれぞれのエピソードの依頼人同士が実は細い糸で繋がっていたり、何気ないシーンが別のシーンの伏線になっているなど、宮藤官九郎の脚本は熟練のテクニックみせる。特に少女が口ずさむ「わき毛ボーボー自由の女神」が頭から離れなかった。。。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「謝罪の王様」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130930を参考にしてください。
本日はもう1本
「地獄でなぜ悪い」です。

過剰な言葉、過剰なサウンド、過剰な演技、過剰なイメージ、そして何より映画への過剰な愛。五感のみならず思考までも支配しようと試みる凶暴な映像の数々と、先が読めない奇想天外な展開は、まさに全開の園子温ワールド。信念を曲げず目標に向かって突き進む青年と、妻子のためにすべてをなげうつヤクザ、野性を秘めた娘と彼女に心を奪われた男たちが入り乱れて繰り広げられる大殺戮は、血と暴力の饗宴を原色アートの域に昇華させている。だが、もはや暴走列車と化した物語の加速と破壊力に感性は追いつかず、トップスピードに達する前に悪酔いしてしまった。。。
映画監督を目指す平田は、"映画の神"に見出される日を待つばかり。ある日、娘のミツコ主演の映画を撮りたいヤクザの組長・武藤に拉致されたコウジから、アクション映画の監督を依頼される。
やる気はある、アイデアもある、でも才能はなくチャンスはこない。"映画監督"という肩書で自己陶酔に浸っている平田は、あらゆる映画青年の象徴。根拠もなく願いがいつか叶うと信じる自信だけが彼を支えている。一方の武藤は義理人情を重んじる古いタイプの武闘派で、いまだ切った張ったの世界に生きている。
基本的な設定で、ブルース・リーと深作欣二へのオマージュといったタランティーノの二番煎じではなく、現代の映画青年やヤクザが影響を受けたクリエイターに焦点を当てていれば新鮮さを感じたはずだ。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「地獄でなぜ悪い」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131001を参考にしてください。
本日はもう1本
「イップ・マン 最終章」です。

武術家でありながら、哲学者のようでもある。いかなる時でも表情を変えず呼吸も乱れないない物静かな風貌は、達人の域にあることを示す。床に置いた新聞紙の上から一歩も動かず攻撃をしなやかに受け流し、相手の力と体重を利用して、最小限の動きで反撃するテクニックは芸術的。武術とはケンカの道具ではなく己の鍛練につかうべきもの、パワーやスピードを合理的に使いこなすところに奥義があるのだ。
1949年、香港に拠点を移したイップ・マンは雑居ビルの屋上に道場を開く。弟子たちは労働争議に参加したりするうちに、白鶴道場の弟子とイザコザを起こし、イップは道場主のン・チョンと闘う羽目になる。
イップもンもお互いの力量を図るためにまず問答を交わし、相手を値踏みする。その、求道者にのみ許された駆け引きが緊張感を誘う。また、地面に突き刺された数十本の太い杭の上で獅子舞を舞いながら繰り広げられるカンフーアクションはスピーディかつスリリングで、こんなスタントを考え出す香港映画人の意気込みに敬服した。
やがて、弟子のひとりがアングラファイトで九龍城の黒社会とトラブルになると、イップは弟子を率いて救出に向かう。敵味方大勢のファイターが入乱闘する中で、イップは拳だけでなく棒術を披露するし、ギャングのボスは鉤爪を使うなど、このシーンはまさに「燃えよドラゴン」のクライマックス。イップ・マンの物語を描いていても、やはり香港映画の源流はブルース・リーにあると、改めて思い知らされた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「イップ・マン 最終章」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20131002を参考にしてください。