2012年10月20日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/20)

本日、とりあげる作品は

「思秋期」 です。

寂しさを紛らせるために酒に溺れ、弱さを隠すために暴れ、小さなプ
ライドを満たすために悪態をつく、いつも不機嫌な50男。もはや世間
から必要とされず家族もいない、己のダメさが分かっているのにどう
しようもない、だが新たな一歩を踏み出す気概もない主人公の閉塞感
がリアルに再現される。荒れ果ていた心が、人と人は支えあって生き
ていくものだと学び、次第に優しさを取り戻していく過程が胸に沁み
る。

失業中の飲んだくれ・ジョセフは、バーで喧嘩してチャリティーショ
ップに逃げ込んだのがきっかけで、店主のハンナと言葉を交わすよう
になる。裕福な地区に暮らすハンナは、夫のDVに苦しんでいた。

ハンナに苛むような辛言を浴びせていたジョセフは、彼女の事情を知
るにつれ興味を引かれる。ハンナもまた気遣ってくれるジョセフに胸
襟を開いていく。不器用な者同士が、お互いの気持ちを少しずつだが
通わせていく描写が感情的にならずに淡々としていて、そのさりげな
さが、まだふたりの日常の裏には何か大きな「他人に言えない秘密」
があるのではと予感させる。

やがて愛犬を蹴殺すほど荒んでいたジョセフから険が取れていくのと
は逆に、ハンナの顔にはアザと陰りが増えていく。沈んだトーンの映
像は、彼らのふとした仕種や表情から目が離せないほどの緊張感を生
んでいた。

お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)

「思秋期」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120908

を参考にしてください。

本日はもう1本

「希望の国」 です。

逃げる若い世代と、住み慣れた土地にしがみつく老夫婦。抗いがたい
巨大なうねりに巻き込まれ、生き残ろうとする者と運命を受け入れよ
うとする者の間に太い"杭"が打ち込まれる。それは親と子だけでは
なく、過去と現在、生と死をも隔てる境界線。物語は目には見えない
恐怖が徐々に拡散し、人間の日常を蝕んでいく様子を描く。避難先で
防護服を身に包む妊婦が町の人々から白眼視されるシーンは、人の心
に潜む偏見が生む反応こそが恐ろしいのではと思わせる。

地震による原発事故で住民に退避命令が出る。酪農を営む小野家はぎ
りぎり立ち入り禁止地区を免れるが、小野は長男夫婦の洋一・いずみ
を避難させる。2人は見知らぬ街で新生活を始め、いずみは妊娠する。

突然警察と自衛隊がやってきて、小野家の庭先に原発20キロ圏のバリ
ケードを作る。小野の家は圏外だが向いの宅地住民は国家権力による
問答無用の強制退去。さらに避難地域が広がるが、周囲から誰もいな
くなっても小野は普段通りの暮らしを続ける。認知症を患う妻と手塩
にかけて育てた乳牛への思いというより、国に対する強烈な不信感が
小野をより頑迷にしている。

やがて小野のもとに家畜殺処分や強制退避の通知が来るが、それらは
「命令書」と居丈高だ。国策だったはずなのに、事故が起きると家畜
を殺して出ていけと被災者に「命令」する。国の仕打ちに怒り、あく
まで抵抗する小野はすべての原発被災者の気持ちを代弁していた。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「希望の国」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120821

を参考にしてください。

本日はもう1本

「エクスペンダブルズ2」 です。

銃弾の雨が降り爆弾の嵐が通過しても男たちは無傷。自分たちの任務
に一切の疑問もためらいも持たずひたすら悪党どもをぶち殺していく
戦争大活劇は、ふた昔前のB級映画の雰囲気をふんだんに味あわせてく
れる。いまだ一線で気を吐く現役のスターたちと久しぶりに顔を見る
過去のスターたちの競演、シニアのマッチョ祭りと化した映像からは、
"見世物"という映画の原点に戻ったような懐かしさすら覚える。

アルバニア奥地に墜落した輸送機から機密ケースの回収を依頼された
バーニーたちエクスペンタブルズは、ヴィラン率いる傭兵軍団にケー
スを横取りされた上に新人狙撃手を殺され、復讐を誓う。

髑髏の装飾を施したナイフやペン、バックルなどバーニーの趣味の悪
さは、そのままこの作品のテーマとなって、"力こそすべて"の掟を
象徴する。紅一点この作戦に加わったマギーも暗号解除や東欧言語に
精通しているほかに銃器や拷問具の扱いにも秀でており、キュートな
外見とは反対に戦場で生き残る知恵とタフネスを証明してバーニーた
ちに仲間と認められていく。その過程が異彩を放っていた。

チャック・ノリスが唐突に助っ人に現れたり、前作では顔見世程度だ
ったシュワちゃんやブルース・ウィリスが今回はマシンガンを手に大
暴れし、お互いの代表作の決め台詞を交換し合うなどの細かい芸を見
せるなど、大いに楽しませてくれる。なにより60過歳ぎたおっさんた
ちが体を張ってエンタテインメントに徹する姿勢に好感が持てた。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「エクスペンダブルズ2」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120911

を参考にしてください。

本日はもう1本

「菖蒲」 です。

映画という虚構も、日常という現実も、女優にとってそのふたつの人
生は"死"という共通項で密接に結びついている。自分にレンズを向
けてきた長年寄り添った者の死、新作映画の中での愛する者たちの死。
物語は円熟の境地に達した大女優が、夫の死に直面した時に去来した
思いを語るとともに、自らの主演映画で重篤な病に侵されながらも新
しい恋に胸をときめかせる役を演じる姿を描く。カメラはさらに彼女
の二態を記録する第三の視点となり、作品は複雑な三層構造をなす。

ベテラン女優・クリスティナは夫の死から立ち直れず、新作へのオフ
ァーを一度は断るが後に承諾する。撮影に入った映画「菖蒲」は、大
戦後のポーランドが舞台の人間の生と死を見つめるストーリーだった。

「菖蒲」の劇中でクリスティナ扮するマルタは、医師の夫から先は長
くないと診断されるが本人はそれを知らされない。ある日、マルタは
ダンス場で見つけた若者・ボグシに惹かれ、恋心を抱いていく。息子
ほどの年齢のボグシから川に誘われるといそいそと水着に着替えて出
かけるマルタ。そんな彼女が、橋の上を歩くボグシと若い女を見かけ
て我に返る場面が、年齢を重ねることの哀しさをリアルに再現する。

クリスティナにとって、もはや老いと死は遠い未来の話ではなく、身
近に迫った問題となっているのだろう。彼女の切実さは、ひいては老
境に達したアンジェイ・ワイダ監督の死を受け入れるための準備にも
思えてくるのだ。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「菖蒲」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120928

を参考にしてください。