2012年11月10日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(11/10)

本日、とりあげる作品は

「チキンとプラム」 です。

立体絵本風の味わいのある山々や街並みが、ファンタジーの世界にい
ざなってくれる。でもそれはハッピーエンドが約束されたおとぎ話で
はなく、皮肉と苦悩に満ちたつらく哀しい思い出。今まで何のために
生きてきたのか、何をなしてきたのか、誰を愛し誰に愛されてきたの
か。その答えが虚しいものと知った時、男は命を絶とうとする。望ま
なかった結婚、愛せなかった妻、音楽家としての修業の日々とアート
の真髄に目覚めた出来事。人生とはかくも短く、たった一つの願いす
ら叶えられない切なさが胸に染みる。

著名なバイオリン奏者・ナセルは愛用のバイオリンを壊されたのをき
っかけに、自殺を決意。自室にこもって静かに最期の瞬間を待つうち
に、思い通りにならなかった過去を反芻する。

魔法使いが描いたようなエキゾチックな1958年のテヘランの街頭が、
懐かしくあたたかくミステリアスな素晴らしい雰囲気。さそんな物語
背景のもと、ナセルは妻に理解されず子供たちにもバカにされ、唯一
の味方である弟もつれない態度で遠ざける。しかし、夢の中で明らか
になる真実は彼の思い込みとは正反対。実は家族はナセルに心を砕い
ていたのに、ナセルが気づかなかっただけという不幸が芸術家の孤独
を象徴していた。

繊細な感情と運命の些細なイタズラ、ユニークだが哀切にあふれた豊
饒な映像は、新鮮な驚きの連続だった。

お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)

「チキンとプラム」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120922

を参考にしてください。

本日はもう1本

「ミラクル ツインズ」 です。

幼少時から手術を繰り返し、胸部や腹部に深く刻まれた生々しいメス
の痕を見せる一卵性双生児の姉妹。それは先天的難病と闘ってきた彼
女たちの生の証でもある。映画は満足に呼吸ができない病気の双子姉
妹の闘病記録を通して、待ち続ける辛抱強さと希望を失わなず解決法
を探す勇気を描きつつ、医療における臓器移植の現状をレポートする。
胸いっぱいに空気を吸い込み吐き出す、生きるために必要な当たり前
の動作を意識せずできる幸せをこの作品は実感させてくれる。

根本的治療法がない遺伝病・(CF)を持つイサとアナ。学校に通えず、
入院生活を克明な日記とイラストに著し出版する。その後、米西部の
名門・スタンフォード大に移り、適合する肺を探す日々が始まる。

新鮮な肺を提供されるにはウエイティングリストの上位に名を連ね、
ドナーが脳死しなければならない。それでも米国では移植システムが
比較的洗練されているので、イサ・アナともに無事肺の移植手術を受
け、普通の暮らしができる程度には回復している。

当然ながら彼女たちはドナーへの感謝を忘れない。ドナーは死んでも、
臓器は他人の体の一部となって役立っている。遺族にとってこれほど
気持ちの休まることがあるだろうか。「難病に負けずに頑張ってます」
的な感動の押し売りを極力避けた語り口はあくまで軽妙だが、命は人
から人へと受け継ぐものであり、その大切さをあらためて考えさせら
た。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「ミラクル ツインズ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120815

を参考にしてください。

本日はもう1本

「私の奴隷になりなさい」 です。

命じられるまま、されるがままに身をくねらせ、女は苦悶の中にも愉
悦の表情を浮かべる。肉体にもたらされた痺れるような快感と精神的
にすべて頼れる圧倒的な解放感。それは自分を受け入れてくれた上に
やりたくてもできなかった行動の背中を押し、自身気付かなかった、
いや気づかぬフリをしていた本性に目覚めさせ火をつけてくれた男へ
の全身全霊の帰依。そんなヒロインを演じた壇蜜の絡みつくような弾
力をもつボディときめ細かい肌が非常に魅力的だ。困惑の中に期待を
にじませ、切なさと危うさが同居する複雑な心理を、憂いを湛えた瞳
で表現する。

転職した"僕"は、香奈という先輩に魅かれ何度もアプローチするが、
そっけない態度。ところが、突然彼女からメールで"セックスしない"
と誘われる。香奈は彼にビデオで性交中の顔を撮ってくれと頼む。

香奈は先生と呼ばれる中年男の"奴隷"として言いつけを守っていた
だけで、"僕"に対する思いは微塵もない。"僕"とセックスすると
いう命令を実行して先生の歓心を買おうとしているのだ。一見歪んで
いる、だが全幅の信頼を置く人間に隷属する歓び。結果与えられるご
褒美は、更なる羞恥をさらけ出せる安心感。

誰にも打ち明けられなかった心の闇を先生は理解してくれる、その孤
独を癒してもらったことで心身ともに委ねてしまう微妙で繊細な女心
の深淵をのぞくような映像は、文学的な格調さえ備えていた。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「私の奴隷になりなさい」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121108

を参考にしてください。