2012年11月1日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(11/1)

本日、とりあげる作品は

「リンカーン/秘密の書」 です。

大木を一撃で粉砕する強力な斧を自在に操り、襲い掛かってくるヴァ
ンパイアたちの首を刎ね額をたたき割り肉体を微塵に打ち砕く。その
スローモーションを多用した流麗で柔軟な体の使い方は様式美すら感
じさせる。映画はエイブラハム・リンカーン米国大統領が若き頃、表
の顔とは別にヴァンパイアハンターとして人知れず闘っていたという
強引で突飛な発想を、壮大なバロック音楽のような映像に昇華する。
もはやヴァンパイアは日光も十字架も恐れず、普通の市民に紛れて日
常を送り、夜な夜な密かに人間の生き血をすする存在。数が増えると
主流派に反発する者も現れるなど、まるで社会の縮図だ。

幼いころ奴隷商人のヴァンパイア・バーツに母を殺されたエイブは復
讐を誓い、長じてバーツに挑むがあっさり返り討ちにあう。危ういと
ころを謎の男・ヘンリーに救われ、彼に弟子入りして修練に励む。

ヴァンパイアを倒すための戦術を身に付けたエイブは雑貨店に勤めな
がらも勉学に勤しみ、夜はヘンリーからの命令でヴァンパイアを狩る
二重生活を経て、いよいよ母の仇・バーツに挑む。暴走する馬群とと
もに疾走し、馬の背から背へ跳び移りながらの格闘はあふれる躍動感
に3Dの臨場感が加わる大スペクタクルだった。

やがて南部の黒人奴隷がヴァンパイアの餌にされているのを目の当た
りにしたエイブは政治家に転身、奴隷解放を訴える。このあたりは荒
唐無稽だが、突きぬけた論理はむしろ爽快だった。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「リンカーン/秘密の書」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121006

を参考にしてください。

本日はもう1本

「高地戦」 です。

死ぬのは怖くない、だが、もうこれ以上仲間が命を落とすのを見たく
ない。そんな思いが兵士たちの脳裏によぎる。しかも銃口を向けあっ
ているのは同じ民族で、酒や食料を通したささやかな交流すら生まれ
ている。映画は、朝鮮戦争末期、何度も奪還と撤収を繰り返す高地を
舞台に、最前線に配属された兵士たちの心情をリアルに再現していく。
そこには、故郷に残した家族や恋人への愛情を切々と綴る感傷などは
ない。彼らは早く戦争が終わってほしいと願うのみ。まさしく、"戦
う相手は敵ではなく戦争"の現実が彼らに襲い掛かかってくるのだ。

韓国軍のカン中尉は、内通者を探すためにエロック高地付近を守るワ
ニ中隊に赴く。そこはかっての友人・キム中尉が中心に共産軍と小競
り合いを繰り返していたが、兵士たちはみな心に深い傷を抱えていた。

ワニ中隊の兵士たちは戦闘が日常となり、すでに死と隣り合わせの緊
張感はない。無論、戦友の戦死には胸が痛むが、気持ちの切り替えも
早い。"浦項で見た地獄"が彼らから感情を奪い、恐怖に対して不感
症になってしまっているが、生き残っていることに後ろめたさを覚え
ているようでもある。一方で秘密倉庫を通じて共産軍と奇妙な友情を
芽生えさせる不思議。それは共産軍とて変わらないのだろう、韓国領
内にいる親族への手紙を韓国兵に託してくる。

つい数年前までひとつだった祖国がふたつに分断されて米中の代理戦
争をする不条理が、この物資の交換箱に凝縮されていた。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「高地戦」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121031

を参考にしてください。

本日はもう1本

「シャドー・チェイサー」 です。

家族が突然姿を消し、得体の知れない組織に銃撃される。何が起きて
いるのかわからない、誰に追われているのか見当もつかない。じっと
していると死が待ち受けているのは確か。頼れるのは己の生存本能だ
け、ひたすら走り続けるしかない。カメラは、予期せぬ危険に巻き込
まれた男に寄り添い、彼の驚きと困惑とサバイバルをリアルに再現す
る。そして状況が呑み込めたとき、"素人"ならではの無鉄砲さで、
プロの工作員たちを相手に堂々と渡り合う。謎が新たな謎を呼ぶたた
みかけるような展開、先を読ませぬ二重三重の偽装と欺瞞の中で、主
人公は信じられるものをみつけていく。

久しぶりに家族と休暇を過ごすウィルは、クルージング中の一家全員
が失踪して警察に駆け込むが、なぜか拘束されかけ、危ういところを
父のマーティンに救われる。だが彼もウィルの目の前で射殺される。

自分がまったく聞かされていなかった父の正体に驚愕するウィル。し
かも同僚だったキャラックに裏切り者扱いされた上、身元不明の電話
には"トム"と呼ばれている。さらに妹の存在まで明らかになるなど、
父に関する多くの耳を疑う情報が一気にウィルの前に押し寄せる。

たしかにストーリーはミステリアスで、次々と提示される新事実は考
える暇を与えないほど凝縮されている。ただ、既視感のあるアクショ
ンに終始し、クライマックスのカーチェイスも大味で緊迫感に欠ける。
シガ二─・ウィーバーの悪党ぶりは新鮮だったが。。。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「シャドー・チェイサー」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121029

を参考にしてください。

本日はもう1本

「旅の贈りもの 明日へ」 です。

叶えられなかった望み、守られなかった約束、人生に残された宿題。
42年ぶりに過去の扉を開いた男は遠き日の思い出を今に蘇らせようと
する。そしてあの時の"なぜ"の答えを求めて一枚のはがきを手に特
急列車に乗る。物語は定年退職後暇を持て余した主人公が古いはがき
を手掛かりに、差出人に会いに行こうとする姿を追う。ままならぬ日
々に悶々としたあの頃、たった1日だけのデートが大人になっても自分
を支えていた。1人暮らしの寂しさに耐えかね、その時のときめきをも
う一度味わいたいと願う彼の胸の内が切なくリアルだ。海は近く空は
大きい町、福井を舞台にさまざまな人の思いが交錯する。

離婚して25年、サラリーマン生活を終えた孝祐は、荷物の整理中に周
囲が焼けたスケッチを見つける。それは美大受験を目指していたころ、
同じ目標を持つ文通相手・美月からの挿し絵はがきだった。。

高校時代、美術の道に進むことを父に反対され道具を燃やされた孝祐
は家出、美月が住む福井に向かう。小ぶりな天守閣の城、どこまでも
続く砂浜、心まで温まったラーメン、ホームでの別れ。まだ少年少女
だったころのふたりが悩みを打ち明け夢を語るシーンは瑞々しい若さ
にあふれ、青春のきらめきを放つ。なにより、はがき1枚ずつに丹念に
風景を描き相手に送る、気持ちのこもった往復書簡が懐かしかった。

ただ、現在の孝祐が音信不通の美月を探す過程は小さな事実を積み重
ねる構成にすべきだろう。もっとストーリーを練り上げてほしかった。

お勧め度=★★(★★★★★が最高)

「旅の贈りもの 明日へ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121027

を参考にしてください。