2013年10月19日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/19)

本日、とりあげる作品は
「もうひとりの息子」です。

自分はいったい何者なのか。体に流れているのは異教徒の血、でも両親は愛してくれる。過去を取り戻せないのならせめて真実を知りたい、その上で現実を直視するしかない。物語は、戦乱の中で生まれた2人に衝撃の事実が判明したのを機に起きる、本人たちと家族の葛藤を描く。宗教も言葉も異なる本当の父と母、しかも互いに敵対関係にある地域に住んでいる。いまだ高い壁に分断され流血の絶えないパレスチナ、映画は2つの家庭の交流を通じて人間の理性と良心を導き、2人の青年に未来を託す。
イスラエル人に育てられたヨセフは病院で取り違えられたアラブ人の子だと告げられる。パレスチナ人のヤシンも、ユダヤ人の子と知らされる。双方の家族は食事会を開き、2人は心中を打ち明け合う。
初めて親同士で面会した時、母親たちは息子の写真を見せ合ってすぐに打ち解けるのに、父親たちは憮然と席を立つ。過ぎてしまったことよりもこれからを考える女と、名誉を傷つけられたととらえる男。このあたり「そして父になる」の親たちと似たような反応だが、わが子への親の気持ちは国や民族が違っても変わらないのだ。一方、ヨセフとヤシンはわだかまりを呑み込んで友人になっていく。
軍人であるヨセフの父に嫌悪感を抱いていたヤシンの父が通行証を融通してくれた礼に訪れ、2人が無言でコーヒーを飲むシーンが、理性とは怒りや憎しみを抑制する冷静さだと訴える。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「もうひとりの息子」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130828を参考にしてください。
本日はもう1本
「ブロークンシティ」です。

欲望渦巻く汚れきった町、政治家もまた金権体質にまみれ強欲を隠さない。市長選を控えたNY、再開発の利権をめぐって現職市長と対立候補が公開討論する場面が刺激的だ。公共工事か、富裕層への増税か。まるで財政再建に苦慮する昨今の日本の現状を見るような身近な話題に、否応なく引きずり込まれる。映画は、とんでもないスキャンダルを入手した探偵が、そこに仕組まれた罠に気づくうちに自らも命の危険にさらされていく過程を描く。自分自身の良心とも戦う運命に直面する苦悩に満ちた探偵をマーク・ウォールバーグが熱演、荒んだ街並みにぴったりとなじんでいる。
捜査中に容疑者を射殺したビリーは無罪になったものの警察を退職、今は探偵事務所を開いている。ある日、市長のホステラーに呼び出されたビリーは、ホステラーの妻・キャサリンの浮気調査を依頼される。
ビリーはキャサリンに尾行をやめるようくぎを刺されるが、証拠写真をホステラーに渡してしまう。折しも市長選を直後に控え、支持率を挽回したいホステラー。ホステラーとキャサリンは仮面夫婦なのか。ホステラーと対立候補の言い分はどちらが正しいのか。さらに再開発業者との癒着と内通者の存在。謎が謎を呼ぶ展開の中で、最初からビリーはホステラーの捨て駒にされていたのだけは確か。
政治家と土建屋が巨利をむさぼろうとする、オリンピック招致でこんなきな臭い話が東京でもあちこちで出るのではと思わせる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ブロークンシティ」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130910を参考にしてください。
本日はもう1本
「マイク・ミルズのうつの話」です。

心が鉛になったように重く、押しつぶされる苦しみに襲われる。生きていてもつらいばかり、いっそのこと死んでしまいたいと思いつつ、なかなか実行に移せない。睡眠中は現実を忘れさせてくれるのでベッドから出られないetc. それが病気として一般的に認知されたのは古い話ではなく、21世紀になって米国の製薬会社がキャンペーンを張ったからだという。ある程度抗うつ薬で症状が抑制できる、でも薬をやめるとまた気分が落ち込んでしまう。映画は毎日数種類の抗うつ薬を服用し続ける5人の日本人の日常に密着し、彼らが何を考えどう暮らしてきたかを追う。
うつ克服にミカは毎日嫌いな酢を飲む。睡眠中が一番幸せというカヨコは自殺願望が消えない。酒もタバコもやめられないダイスケは抗うつ薬もやめられない。両親と同居中のタケトシは自立の道を探る。
5人の登場人物の中ではケンがいちばん個性的。半ケツ状態のホットパンツにハイヒールを履いて街に出る典型的なゲイファッション。人あたりも話し方もごく普通で、心を病んでいるようには見えないし、ゲイに対する偏見と闘っているわけでもない。何が彼を追いこんでいるのか、結局は彼自身にもわからない。
唯一、縄師に縛られ吊るされる瞬間は心が解放される。ケンだけは自分なりにうつとの付き合い方を学び実践し、己の置かれている状況を何とか快適なものにしているように見えた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「マイク・ミルズのうつの話」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130927を参考にしてください。