2011年11月21日月曜日

☆ こんな映画は見ちゃいけない!

「家族の庭」  です。<p>まるで沈黙を恐れるかのように絶え間なくしゃべり続ける中年女。寂<br>しさを隠そうとしている反面、孤独な心を理解してもらいたいと強く<br>願っているようでもある。夢はあった、そして叶った、しかし現実と<br>いう嵐の前で徐々に色あせ、ついには無残に壊れてしまった。映画は<br>そんな彼女の心境を赤いクルマで象徴する。きっといい人なのだろう、<br>ただ少し己を客観視できず感情を抑制できないおばさんをレスリー・<br>マンヴィルが好演。まだまだチャーミングだと思い込んで頑張ってい<br>るけれど、どこかズレている女心のイタさと哀しさを見事に表現して<br>いた。<p>トムとジェリーの老夫婦と息子のジョーは良好な親子関係を築いてい<br>る。ある日、ジェリーの同僚・メアリーを家に招くが、メアリーは男<br>運の悪さを嘆き中古車を買う予定を語った後、泥酔して眠りこける。<p>バーでちょっとセクシーな男に秋波を送ったり、独身のジョーに必死<br>でアプローチするメアリー。おそらく50歳は越えている、なのに恋の<br>現役にしがみつこうとする。その後もジョーの恋人・ケイティに対し<br>て露骨な不快感と対抗心をむき出しにするシーンは滑稽で、女として<br>の勝負は明白なのにそれでも「非」と「負け」に納得できずすねる姿<br>はむしろ憐れみすら誘うほどだった。<p>食卓ではふたりの弾む会話に口をはさめないメアリーの所在なさげな<br>表情が印象的だった。<p>       お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)

☆ こんな映画は見ちゃいけない!

「指輪をはめたい」  です。<p>気がつくと3人の女が婚約者になっている。美しく頭脳も明晰な完璧な<br>同僚、セクシーでさばさばした性格の風俗嬢、古風で尽くすタイプだ<br>がずれている人形劇師。それぞれに魅力を感じつつも、誰が本物の婚<br>約者か見当がつかない。映画はそんな主人公の幸せな災難をコミカル<br>に描く。なくした記憶を取り戻すために彼女たちと愛を確認していく<br>姿は、まさに彼自身の自分探し。その過程で、1人を選べない心の弱さ<br>が露呈していく。決められないのは逃げているだけ、結婚を目の前に<br>した男の、「この女でいいのか」の気持ちがリアルだ。<p>営業先で頭を打った輝彦は、恋人のデータをすっぽり忘れてしまう。<br>さらにかばんから婚約指輪が見つかり、我こそ婚約者と名乗る女が3人<br>現れる。わけのわからない輝彦は、謎の少女・エミに相談する。<p>3人の女はある意味、男の理想像ともいえる存在。ただ、その中から1<br>人に絞るとなるとみなどこか物足りず、踏ん切りがつかない。3人との<br>日替わりデートは楽しいはずなのに、結婚という現実が重くのしかか<br>ってくると途端に憂欝なものになっていく。<p>それでも結論をズルズル先延ばしにする輝彦には、もはやモテモテの<br>うらやましさより、悲壮感を覚える。あり得ない設定ながら、非常に<br>ファンタジックな映像が独特の世界観を作り上げ、輝彦の逡巡を明る<br>い苦悩に変えている。この物語に登場する女たちは、輝彦にもてあそ<br>ばれた被害者なのに、皆輝彦に優しい。それは彼の人徳なのだろうか。<p>       お勧め度=★★*(★★★★★が最高)<p>

☆ こんな映画は見ちゃいけない!

「新少林寺」  です。<p>拳銃や小銃を持った兵士に対しても手にする武器は棍棒や剣。武術鍛<br>錬を通じて己を高めようとする僧たちは、圧倒的な不利にもかかわら<br>ず敵に背中を見せない。それは西洋の物質文明には屈しない、科学力<br>では劣っていても4000年の歴史を持つ文化の力では決して負けていな<br>いという中国人の矜持。革命と内戦・欧米の介入、時代の荒波は外界<br>とは隔絶した寺院の中で修業を積む僧たちにも襲い掛かり、容赦なく<br>戦乱に巻き込んでいく。<p>辛亥革命直後、軍閥の指揮官・候杰は少林寺に逃げ込んだ敵将を殺害<br>する。その後、義兄でもある将軍を暗殺しようとするが、腹心の部下<br>・曹蛮の裏切りにあい、重傷の娘を抱えて少林寺に助けを求める。<p>かつて土足で蹂躙した少林寺の僧たちに救われて、候杰は過去を見つ<br>めなおす。権力のみを目的に生きていた人生が、自分を信頼してくれ<br>ていた将軍の寝首をかくつもりが信頼していた部下に足元をすくわれ<br>る結果に終わった皮肉。一方で僧たちは慈善事業に励み、武術を学ん<br>でもそれを自己の欲望を満たすために使わず、魂の高みを目指してい<br>る。そんな彼らの生き方に触れ、頭を丸めて煩悩を払おうとする候杰<br>の決意は、人は何歳になってもやり直せることを教えてくれる。<p>人が作ったものはいつか壊される、しかし、人が伝え守ってきた少林<br>寺の精神は途絶えはしない、雪の降る中修練に励む少年僧たちの姿は<br>1500年受け継がれてきた少林寺の思想と次世代への希望を象徴する。 <p>       お勧め度=★★★(★★★★★が最高)<p>

☆ こんな映画は見ちゃいけない!

「アントキノイノチ」  です。<p>遺品に焼き付けられた故人の思い、それは残された者に思い出となっ<br>て直接語りかけてくる。愛した記憶、愛された記憶、忘れていた場面<br>が脳裏によみがえる時、人は命のつながりを感じるのだ。一方で、無<br>念をいだたまま死んだ人、過去を共有する血縁者のいない人もいる。<br>それでも、他人に覚えていてもらうことで、確かに存在したという証<br>を残す。物語は、心が壊れた青年が遺品整理の現場で働くうちに、す<br>べての人間は誰かと繋がっていると気づいていく過程を描く。絶望と<br>死の影に押しつぶされそうなゆっくりとしたテンポの映像からは、繊<br>細な主人公の喪失感が重くのしかかってくるようだ。<p>高校時代、親友の自殺で精神のバランスを失った杏平は遺品整理業者<br>で働き始める。ハエやゴキブリがわき、ごみが散乱する孤独死のアパ<br>ートを片付けるうちに、生きるとは何かを考え始める。<p>誰にも看取られずに逝った人々は、何らかの理由で家族と音信不通に<br>なった人ばかり。だが、遺族に憎まれ遺産すら引き取りを拒否される<br>人でも、本当は家族に会いたい気持ちを引きずっていた事実がモノを<br>通じて語られる。杏平はそういった経験を積むうちに、己の人生もま<br>た両親や友人と確実に影響し合っているのを学んでいく。<p>特に老人ホームで息を引き取った女性の夫が留守電のテープを繰り返<br>し聞いて妻の願いを知るシーンは、人は死んでも苦楽を共にした人の<br>胸の内で輝き続けることを思い出させてくれる。<p>       お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)<p>