2013年8月29日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(8/29)

本日、とりあげる作品は
「黒いスーツを着た男」です。

取り返しのないことをしてしまった男。放っておけなった女。悲しみの中で手をこまねいてる妻。一つの交通事故が3人の人生を交錯させ、彼らの苦悩を掘り下げていく。物語は、加害者と目撃者そして被害者の妻のバックグラウンドのディテールに踏み込み、人間の良心の在りかたのみならず、3つの階層が抱える社会問題をあぶりだす。成り上がりの労働者、インテリの小市民、市民権を制限された不法就労者、彼らがみな特別ではなく、どの立場に置かれたとしても共感を得られる人間であるという設定が、観客に問いかける。あなたならどうするかと。
結婚を控えたアルは労働者をひき逃げ、アパートから事故を目撃したジュリエットは被害者の身元を調べ妻のヴェラに連絡する。被害者の様子を密かに見にいったアルはジュリエットに気づかれてしまう。
自首を同僚に止められたアルはせめて見舞金を渡そうと金策に走り回り、ジュリエットに仲介を頼む。その過程で、結局自分の周りにいる人々は誰も親身になってくれないと知る。一方で胸の内を打ち明けられたジュリエットはアルに協力しヴェラの信用を失う。
このあたり、無責任にも無関心にも強欲にもなれない彼らの、人間としての理性と節度だけでなく弱さまで克明に描きこまれ、映画はある意味平凡な彼らの感情が、予想もしない展開に発展していく非凡さを見せる。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「黒いスーツを着た男」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130802を参考にしてください。
本日はもう1本
「上京ものがたり」です。

自分には特別な才能がある、そう思い込んで故郷を後にした女子大生。だが、東京での生活はシビアで、バイトに明け暮れる毎日が待っている。描いても描いても絵は認められない、転がり込んできた男とはずるずると別れられない、物語はそんな美大生のうだつの上がらない日常を追う。壮大な夢よりも目の前の現実、己の表現したいアートよりも編集者が求めるカット、そして何より生まれついてのセンスよりもあきらめずに努力を継続できる能力こそが"才能"であると、彼女は身を以て示そうとする。"最下位には最下位の戦い方がある"という言葉に象徴されるように、人生とは日々戦いなのだ。
東京の美大に入学した菜都美は万年ビリの成績。ある日バイト先のャバクラで先輩キャバ嬢・吹雪の娘・沙希に絵を気に入ってもらう。自信をつけた菜都美は出版社に売り込みにいくが、ことごとく断られる。
一方、プータローの良介と同棲する菜都美。時に彼の優しさに癒されるが向上心のなさに苛立っている。カネよりも大切なことがあると良介は諭すが、絵で生計を立てようとする菜都美は"稼いでこそプロ"と、カネの重要性を主張する。
ただ、エロ小説のイラストには、キャバクラでの下ネタトークや良介とのセックス体験が生かされているはずなのに、具体的なエピソードとして結実せず、吹雪母子との関わりもきれいごとの域を出ていない。もっと人間の深い業を前面に出してほしかった。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「上京ものがたり」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130826を参考にしてください。