2013年9月26日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/26)

本日、とりあげる作品は
「そして父になる」です。

いわゆる"勝ち組"ライフを謳歌し、努力を惜しまないエリートビジネスマン。彼はひとり息子に過大な期待をかけているが、闘争心の乏しさに物足りなさを覚えている。そして息子が生物学上の子でないと知った時、"やっぱり"と口にしてしまう。息子を愛していないわけではない、でもどこかで引っかかっていた違和感、その原因がはっきりし、男はますます傲慢になっていく。物語は気付かずに他人の子を育てていた2組の夫婦が真実に直面し、戸惑い苦悩していく過程で、人生で一番大切なことを学んでいく姿を描く。それぞれの立場で現実を受け入れるしかない、彼らのリアルな感情が胸を締め付ける。
高級マンションに住む野々宮の元に、6歳の息子・慶多は取り違えられた他人の子だったと連絡が入る。本当の息子・琉晴は斎木という電気店夫婦に育てられていたが、子供たちを元の親に戻すと同意する。
相手の家に試験的にお泊りする子供たち。貧乏でも子簿脳な斎木の家で、おとなしかった慶多は重荷をおろしたように生き生きし始める。一方の琉晴は無機質なマンション暮らしに馴染めない。上から目線の野々宮と同じ高さに視線をあわせる斎木、格差の対極でも、子供にとってどちらが心を開きやすいかは一目瞭然。
頭でっかちの野々宮はなぜそうなるのか理解できず、カネで解決しようとさえする。2人の父親の人物像は極端に類型的だが、彼らの思考回路はわかりやすく整理されていた。
お勧め度=★★★★(★★★★★が最高)「そして父になる」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130805を参考にしてください。
本日はもう1本
「凶悪」です。

拡大コピーした住宅地図から目星をつけた家をしらみつぶしに当たる。やっと見つけたキーパーソンは口が重く有効な手がかりはなかなかつかめない。それでも聞き込みを続け、かかわった人々の人物像を浮き彫りにする過程で、重大な犯罪の確信を深めていく。死刑囚の話は信じられるのか、小出しにされた情報に振り回されながらも男はのめり込んでいく。まさに調査報道の王道を行く展開、ところが真実に近づくにつれ明らかになるのはおぞましいほどの人間のエゴばかりだ。ピエール瀧とリリー・フランキーが演じる犯罪者が、救いのない物語にすさまじいまでのリアリティを吹き込んでいる。
雑誌記者の藤井は、死刑囚の須藤から、警察も知らない殺人事件の告発を受け、独自に取材を進める。須藤の曖昧な告発書を元に被害者の足跡をたどるうちに、木村という男の過去が明らかになっていく。
普段は温厚な顔で家族や舎弟を大切にしている木村と須藤。だが、借金で首が回らない男を殺し焼却炉で燃やし、生き埋めにし、さらに家族から見捨てられた老人に保険金をかけて引き取り、いたぶった挙句命を奪う。その切り替えが劇的に起きるのではなく、あくまで日常の延長として殺人と死体処理が行われる。
そこには悪事を働いている自覚などない。身寄りのない土地持ち老人を"油田"に例える木村の厚顔に、善悪を超越した人間の恐ろしさが凝縮されていた。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「凶悪」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130925を参考にしてください。
本日はもう1本
「ビザンチウム」です。

永遠の若さの代償は果てしない孤独。その秘密ゆえに人間とは心を通わせられず、同類からは追われている少女は、ノートに心情を綴っては破り捨てている。彼女が好意を寄せる少年は、難病で余命いくばくもない。映画は人目を避けて放浪するバンパイア母娘の関係が、新しい町での娘の恋によって壊れていく過程を描く。母みたいに強くはなれない、でも己の人生を選びたい、そんなヒロインの感情が切なく、時が止まったままの彼女の苦悩が浮き彫りにされる。望んでも死が許されない彼女たちの哀しみは、忘れ、忘れられることでしか癒されないのだ。
200年以上の時間を過ごしてきたバンパイアのクララとエレノアは、海岸の小さな町に流れつく。ある日、エレノアは白血病の少年・フランクと出会い、彼に自分の生い立ちを顧みた物語を読ませる。
普段は死を間近にした老人の血しか吸わないエレノアが、傷口から流れ出たフランクの血がしみ込んだハンカチをむさぼるようにすするシーンに、渇きに耐えきれない彼女の本性が見え隠れする。一方でクララは殺されて当然のポン引きか、正体を知った人間しか襲わない。
かつて昼間は暗がりで息をひそめ、人間の敵として忌み嫌われていた怪物然としたバンパイアの面影はもはや彼女たちにはなく、死ねない苦痛にさいなまれつつも生き続けなければならない姿は、まるで自らを罰しているかのようだ。
お勧め度=★★★(★★★★★が最高)「ビザンチウム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130924を参考にしてください。
本日はもう1本
「エリジウム」です。

劣悪な住宅に押し込まれた労働者は工場での危険な作業を余儀なくされ、大けがを負ってもほとんど補償されない。19世紀の工業国を思わせる格差社会、搾取される側は最低限の権利さえ与えられず貧困にあえいでいる。他方、人工衛星上の楽園に暮らす富裕層は先進の医療を施され、健康で快活な生活を享受している。人口増によって荒廃した近未来の地球、物語はスラム化したLAから脱出しようとする男の冒険を通じて、人が人として生きる意味を問う。高圧的なロボットの警官や役人に卑屈な態度をとる主人公が、権力に対して怒りより恐れを感じている、そんな希望なき"負け組"に生まれた彼の諦観が哀しい。
余命5日を宣告されたマックスは、エリジウム行きのシャトルに乗るために、工場の経営者を襲ってデータを奪う。エリジウムのNo2・デラコート長官は工作員のクルーガーにマックスを確保するよう命じる。
経営者はマックスら労働者にバイ菌を見るような目で接し、デラコートも不法侵入者のシャトルを容赦なく撃墜するなど、地球人の命など顧みない冷酷な特権意識を持っている。選民思想が支配層の常識になり、科学技術は進んでも人間の理性は後退しているあたり、行き過ぎた自由主義経済の暗い未来を予言しているようだ。
エリジウムに着陸したマックスの大活躍以外にもデラコートのクーデター計画や、秘密を知ったクルーガーの反乱などを盛り込んだために、いたずらに話が入り組んでアクションの切れ味を殺がれていた。
お勧め度=★★(★★★★★が最高)「エリジウム」についての詳細は、http://d.hatena.ne.jp/otello/20130923を参考にしてください。