2012年9月29日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/29)

本日、とりあげる作品は

「BUNGO〜ささやかな欲望〜」 です。

恋人、親子、隣人、知人、友人、夫婦、それぞれの関係の中から浮か
び上がってくる人間の真実。映画は日本の文壇に名を残した作家たち
の短編の中から素材を得、愛や嫉妬、劣情や憧れ、誤解といった感情
の行き違いを、6つのエピソードにまとめる。1編を除いて20世紀の前
半に舞台を設定しており、その当時の人々も現代人と変わらぬ苦悩を
抱いて生きていたことがしのばれる。もちろん技術文明の差からその
解決法はまったく違うしが、それでも人の考え方などいつの時代もあ
まり変わらないのだ。

「注文の多い料理店」は山に狩りに出かけた倦怠期の不倫カップルが、
慰謝料惜しさ・欲しさに自分から別れ話を切り出せないうちに辺鄙な
レストランに入る。口先だけの甘い言葉と裏腹に、ふたりともエゴ丸
出しにする姿が彼らの本性を衝いていた。

「乳房」は、胸が膨らみ始めた少年が、誰にも相談できずに悩むうち
に、近所に住む若妻のもとで女の体を知る。厳格な父親が思春期の息
子と夫を戦争に取られて若い肉体を持て余している妻の双方を案じて、
それとなくふたりに場を提供してやるという気配りを見せるあたりが
趣深い。

「人妻」は階下で夜ごとなまめかしい嬌声を上げる人妻の肢体に妄想
を抱く下宿人の欲望を掘り下げる。己の分身が耳元で "悪魔のささや
き"をするが、男はなかなか踏ん切りがつかない。その煮え切らない
様子はいかにも小市民的だ。

「鮨」は、すし屋の看板娘が常連客の老人に幼いころの思い出話を聞
かされる。食べ物への不潔感を拭えず卵と海苔以外口にできなかった
少年が、いかにして極端な偏食を克服したか。母の息子への愛情がノ
スタルジックに描かれる。

「握った手」は同級生に恋した大学生が、その思いを彼女にぶつける
が、一方で女給とも付き合っていたと告白する奇妙な味わいのある作
品。恋は考えてするものではなく直感でするものであると教えてくれ
る。

最後の「幸福の彼方」、見合い結婚した夫婦がお互いに隠していた秘
密を打ち明け合ううちに、相互補完のような過去が明らかになってい
くが、そこに至る夫婦同士の思いやりや愛情が濃やかなタッチでスケ
ッチされる。アコーディオンを弾きながら物を売る行商が昭和初期を
感じさせる。

「見つめられる淑女たち」と銘打たれた前半の3作品は、登場人物も少
なくロケやセットも小ぶりでコストをかけていない気がするが、「告
白する紳士たち」の後半3作品、とくに「幸福の彼方」は凝った作り。
ヒロインを演じた波瑠の凛とした美しさと奥ゆかしい笑顔が強く印象
に残った。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「BUNGO〜ささやかな欲望〜」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120831

を参考にしてください。

本日はもう1本

「アイアン・スカイ」 です。

月の裏側に築かれた忌まわしい鍵十字型の秘密基地。いまだヒトラー
とその後継者に忠誠を誓うナチの残党たちは世代を超えて生き残って
いる。だが彼らが説く理念は、近未来の米国大統領にとっても世界を
支配する力を持つ黄金の指環のように輝いて思えてくる。映画は地球
侵攻を目論む月面のナチと地球を守るべく協力する主要国のリーダー
たちを尻目に、謀反を起こそうとする野心家と彼の婚約者・黒人宇宙
飛行士らが入り乱れて壮大なスペースオペラの絶景を見せる。細部ま
で完成度の高い映像に、ワーグナーの旋律が見事にシンクロしていた。

2018年、月面探査に向かった黒人宇宙飛行士・ジェームズは、地球再
侵攻を目論むドイツ軍に捕えられて白人化された上、次期総統・アド
ラーとともに斥候としてNYに送りこまれる。

折しも米国は大統領選挙キャンペーンの真っただ中、アドラーの婚約
者・レナーテの友愛主義が選挙公報官・ヴィヴィアンのメガネに叶い
アドラーとともに選対スタッフに採用される一方で、ジェームズはイ
カれたホームレスに落ちぶれている。このあたり主要な登場人物のキ
ャラが立ちすぎて方向性がバラバラで、それが物語の進む先を予測さ
せない危うさと期待を孕んでいる反面、まとまりを欠いている。

フィンランド人のティモ・ヴオレンソラ監督はナチと米国に対する嫌
悪感をクールな笑いに包んでいるが、一発芸的小ネタの連続だけでは
なく、もっと練りこんだブラックジョークをカマしてほしかった。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「アイアン・スカイ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120810

を参考にしてください。