2012年10月13日土曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(10/13)

本日、とりあげる作品は

「桃さんのしあわせ」 です。

生まれたときから育ててくれた。中年を過ぎた今も家事を任せている。
実の母よりずっと身近なのに、特に意識はしなかった。ただ、当たり
前のようにそばにいて、身の回りの世話をしてくれる。映画は、男と、
彼の一家に長年仕えてきた家政婦の関係を中心に、現代中国における
高齢者社会の実態を描く。家政婦が動けなくなって初めて、彼は彼女
がなくてはならない存在と気づき、身寄りのない彼女のために老人ホ
ームを見つけ、頻繁に見舞う。ふたりの交流はまるで血縁以上の親密
さ、よき老後を迎えるには人との絆がいかに大切かを思い知らされる。

香港の映画プロデューサー・ロジャーが北京出張から戻ると家政婦の
桃(タオ)さんが脳卒中で倒れていた。病院に運ぶが中風の後遺症が
残ると診断され、ロジャーは桃さんを老人ホームに入居させる。

13歳の時から60年間ロジャーの家族に仕えてきたという桃さんは、他
人の面倒を見るのは習性になっていても誰かに介護されるのには慣れ
ておらず、ヘルパーやロジャーが手を貸してくることに居心地の悪さ
を覚えている。なによりいつも背筋をピンと伸ばして生きてきたのに
体が命令を聞かないふがいなさに耐えられない。

そんな桃さんは家政婦の人生に誇りを持ち、一方で分をわきまえても
いる。ロジャーの母からの差し入れの品は受け取ってもカネは固辞す
るあたり、使用人としての美学すら感じさせる。彼女の一本筋を通す
生き方は、古き良き中国人の道徳観に根差しているに違いない。

お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)

「桃さんのしあわせ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120707

を参考にしてください。

本日はもう1本

「情熱のピアニズム」 です。

身長1メートルほどしかない肉体から迸るエネルギーは聴衆を圧倒し、
感動させ、陶酔を与える。指先が紡ぎだす旋律は時に繊細で時に情熱
的、それは身体の自由をほぼ奪われた男の魂の自由を叫ぶ声だ。映画
は先天的骨形成不全症と闘いながらも、稀代の天才ジャズピアニスト
として一時代を築いたミシェル・ペトルチアーニの生涯を、関係者の
インタビューと生前の映像で再構成する。障害を活力にし、異形を魅
力にすり替え、過酷な運命ですらアートに昇華してしまう。彼のポジ
ティブな生き方はあくまで奔放で刺激的だ。

骨が弱いミシェルは両親や産科医から絶望的と思われたが、やがて音
楽に興味を持ち始める。父の英才教育でジャズピアノの腕を上げ13歳
でプロデュー、有名なジャズプレイヤーとセッションを重ねていく。

18歳でフランスから米国西海岸に渡ったミシェルは本場のアーティス
トたちと交流を重ね、彼の演奏が超一流であると証明していく。ピア
ノの高音部を高速で叩き続ける姿は、こんな体を与えた神に対する抗
議の悲鳴にも聞こえ、彼の超絶技巧は誰にも真似ができない。一方で、
あまりの激しさに度々腕や指を骨折する。まさに身を削りながらのパ
フォーマンスは、己の命が長くないことを悟っていたから。

だからこそ女にも手が早く、結婚離婚を繰り返しあちこちに恋人を作
っては別れる。人生を完全燃焼したい、悩んでる暇はない、そんな彼
の楽天的で積極的な姿勢がより多くのファンの心を引きつけるのだ。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「情熱のピアニズム」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120906

を参考にしてください。

本日はもう1本

「SAFE/セイフ」 です。

地下鉄でも街中でもホテルでもレストランでもカジノでも、ところ構
わず銃をぶっ放す。もちろん倒されるのは悪党ばかりだが、周囲の迷
惑をかえりみずに暴走する主人公とギャングたちに屈折した爽快感を
覚えてしまった。駆け引きと騙し合い、複雑に絡み合う利害、誰もが
他者を出し抜こうとし、失敗した者には死あるのみ。そんな状況で孤
立無援の男と哀しい運命を背負った少女が信頼関係を結んでいく。導
入部で、やられっぱなしの上絶望の表情を見せたりもするあたり、こ
れまでのジェイソン・ステイサムの作品とはひと味違っている。

ロシアマフィアに借りを作ったルークは、地下鉄ホームでロシア人に
追われる少女・メイを救う。マンハッタンに出るとNYPDの刑事が介入、
高級ホテルに隠れるが、中国マフィアがメイをさらっていく。

メイは中国マフィアのカネの流れをすべて記憶する"生きる裏帳簿"。
彼女の頭の中にある金庫のナンバーを聞き出そうとロシアマフィアが
誘拐し、汚職刑事グループもマフィアとの取引材料にするためにメイ
をつけ狙う。メイはもはや世間知の低い子供ではなく、決してルーク
の足手まといになっていないところが物語の展開を早め、アクション
の波状攻撃は考える暇を与えない。

ただ、ステイサムが得意とする格闘シーンはハンディカメラの手ブレ
した短いカットの連続で、卓越した技の切れ味をじっくりと堪能でき
なかったのが残念。このままセガール化しなければよいが。。。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「SAFE/セイフ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120705

を参考にしてください。

本日はもう1本

「推理作家ポー 最期の5日間」 です。

落ちぶれても矜持だけは無駄に強く、我こそは当代随一の文学者であ
るという自信は揺るぎない。一方で婚約者の威厳ある父親の前では威
勢を削がれたりもする。男はペンから生み出された奇想天外な仕掛け
で一世を風靡した作家、死の影におびえる日々の中、連続殺人犯のか
ら挑戦を受ける。映画は稀代の推理小説家、エドガー=アラン・ポー
が警察とともに犯人を追跡する過程で、悩み苦しみ恐れ怒る感情豊か
なポーの姿を描いていく。そのスタイリッシュな映像は夜の闇をより
深く切り裂き、猟奇的な死体ですらアートに昇華する。

母娘惨殺事件、批評家斬殺事件が連続して起き、捜査官・フィールズ
警視正は手口がポーの小説と同じだと気づく。フィールズはポーに協
力を要請するが、今度は仮面舞踏会で何かが起きると予告状が届く。

犯人はさらにポーの婚約者エメリーをさらい、ポーに対してこれらの
殺人事件をモデルにした連載小説を書けばエメリーの居場所を教える
内容のメッセージを送りつける。犯人は暴力的で残酷ではあるが、同
時にポーの著作の熱狂的なファンでもある。それは顔の見えない「ミ
ザリー」を連想させ、死体に隠されたエメリーの監禁場所のヒントか
らは、知的だが狂気に駆られた孤独な犯人像が浮かび上がってくる。

犯人の動機が説得力に欠けるのは知能が高いのに精神に異常をきたし
ているからなのか。謎に包まれたポーの最期の5日間と「レイノルズ」
の"遺言"に着想を得たこの作品はあくまで重厚でミステリアスだ。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「推理作家ポー 最期の5日間」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120823

を参考にしてください。