2012年11月8日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(11/8)

本日、とりあげる作品は

「シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語」 です。

スピーディでダイナミックな男性パフォーマー、しなやかで優美な女
性パフォーマー。極限まで鍛え上げられた彼らの肉体が表現する芸術
は、重力のくびきから解放された自由を謳歌しているかのよう。その
驚異的な身体能力の高さは人間技とは思えないほど洗練され、加えて
それらのパフォーマンスに与えられた物語はイマジネーションあふれ
る幻想的な空間に見る者をいざなう。

町はずれで興行するサーカスにふらりと足を踏み入れた少女は、空中
ブランコ乗りに心を奪われる。しかし、ブランコ乗りは演技中に落下、
そのまま砂地獄に沈んでしまう。

ブランコ乗りの後を追った少女が落ちたところは砂の惑星。テント小
屋でピエロに誘われ、幕を開けるといきなり円形プールでのショーが
始まる。シンクロナイズドスイミングとダンスを融合した水中の舞い
は、まるで人魚のカーニバル。その後、両端に大きな円筒を固定した
巨大シーソーでは信じがたいバランス感覚を持った男たちが高速で回
転する輪の中で跳び、走り、芸を見せる。さらに垂直壁での格闘アク
ションは、「マトリックス」を彷彿させる現実離れした光景だった。

ドキュメンタリーでもなくドラマでもない、まったく斬新かつクリエ
イティブなアプローチの映像化は、もはや何も考える必要はない。た
だ、スクリーン上で繰り広げられるスペクタクルと音楽に身を委ねて
いるだけで幸福な気分になれる、稀有な体験だった。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120929

を参考にしてください。

本日はもう1本

「北のカナリアたち」 です。

交わされたままの約束、言いそびれた言葉、知らされなかった事実。
とっくの昔に記憶の彼方に封印していた忌まわしい出来事が突然脳裏
によみがえる。そして、要領は悪いが素直で優しかった教え子が事件
の容疑者と聞かされたヒロインは、彼の所在を求めて旅を続けるうち
にわだかまりを解いていく。いじめや諍いはどんな環境でも起こりう
る、また誰もがみな他人には見せない別の一面を持っている、そんな
人生の真理が明かされていく過程はスリリングな上、愛に満ちている。

図書館を定年退職したはるの元に刑事が訪れ、北海道の離島で教鞭を
とっていたころの教え子・信人が殺人を犯して逃亡中と事情聴取を受
ける。はるは同時期の教え子5人の消息をたどって北海道に飛ぶ。

はるが島で過ごした日々、吃音の信人に自信を持たせようと合唱を始
めるが、その後狭い村の人間関係の中で芽生える悪意のなかで信頼が
崩れていく。水に流すには苦すぎ、心のしこりは消えない。それでも
はるはもう大人になった教え子たちを重荷から解放してやるとともに
自らの蹉跌も清算していく。

波高い海、雪に閉ざされた冬、緑濃い大地・・・雄大な北海道の自然を背
景に20年前と現在が混在するミステリー仕立ての構成は、人間の奥深
いところに眠る真実の皮を一枚ずつはがしていくような緊張感にあふ
れていた。そして省略の美学が見事に結実したクライマックスは、描
かれなかったことが想像力を刺激する。

お勧め度=★★★(★★★★★が最高)

「北のカナリアたち」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121106

を参考にしてください。

本日はもう1本

「のぼうの城」 です。

武士らしい威厳は微塵もなく、百姓たちと田植え麦踏みに興じる男。
城代の要職に在りながら武芸よりも芸能に長け、不思議な魅力で領民
から大いに慕われている。映画はそんな主人公が、所領の一大事を前
に抜群のリーダーシップを発揮し、見事に難局を切り抜ける姿を描く。
身分で分け隔てせず、相手の目線でものを言い、いつしか周囲を納得
させてしまう奇抜な侍大将を野村萬斎が怪演、戦国時代の武士像に全
く斬新な解釈を加える。その現代語を口にする変人ぶりには最初強烈
な違和感を覚えるが、やがて彼にしか演じ得ないのではと思わせる圧
倒的な存在感を示していく。

戦国時代末期、秀吉の北条攻めに伴い、北条方の忍城に石田三成の軍
勢が押し寄せる。兵力2万の石田軍に対し、成田長親率いる忍城は兵力
500。だが開城を迫る石田軍に対し、長親は籠城戦で迎え撃つ。

城下全域を高い土手で囲み、一気に川を決壊させる。冒頭、秀吉軍が
見せる"高松城水攻め"シーンでは、津波と見まがう巨大な奔流が城
下町ごと飲み込み、天守閣を残して人も建物もすべて水に流されてし
まう。VFX技術の粋を集めた、戦国時代の無慈悲さが凝縮された圧巻の
プロローグに思わず前のめりになった。

ところが、本題である忍城攻防戦においては、それほど奇手奇策が見
られなかったのが残念。投石器や油攻めだけでなく、もっとあっと驚
くような珍奇な新戦術を見せてほしかった。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「のぼうの城」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121105

を参考にしてください。

本日はもう1本

「JAPAN IN A DAY」 です。

時間が止まったままの人がいる。新しい一歩を踏み出そうとする人も
いる。直接被害を受けたわけではないが何らかの形で被災者を励まそ
うとする人もいる。まるで無関心の人もいる。おそらく日本人すべて
が記憶しているであろう悲劇からちょうど1年後の"その日"を、人々
はどんな思いを抱えて過ごしたのか。映画は一般人から募集した2012
年3月11日の映像をつなぎ合わせ、ありふれた1日でも、当人にとって
はかけがえのない1日であると証明していく。

深夜、日付が変わっても若者たちは騒ぎ、居酒屋では酔客が心地よく
飲んでいる。夜が明け、あの大災害から1年後の朝が始まる。

津波で両親と妻・娘を一度に亡くした男はその時の様子を淡々と再現
し、この1年泣く暇もなかったと述懐する。流された我が家の跡地にロ
ープを張って黄色いハンカチを結びつける人もいる。理髪店の店主は
客が来なくなったと嘆く。1歳の誕生日を迎えた娘を祝う両親もいる。
それら断片的なシーンの数々は前半こそ興味を持って見ていられるが、
次第に何の絞り込みもなくただダラダラとした日常風景ばかりが多く
なり退屈を禁じえない。

これらの映像に、どれほどの大惨事に見舞われようとも人間は立ち直
れるという、あきらめない日本人の姿を投影し、希望に結び付けよう
とする姿勢は理解できる。だが見せ方に工夫が乏しくあまりにも単調
すぎたのが残念だ。

お勧め度=★★(★★★★★が最高)

「JAPAN IN A DAY」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20121107

を参考にしてください。