2012年9月6日木曜日

こんな映画は見ちゃいけない!(9/6)

本日、とりあげる作品は

「デンジャラス・ラン」 です。

敵を信じるべきなのか、味方を疑うべきなのか。"稀代の悪党"を武
装集団から守りつつサバイバルしなければならない男は、自分だけを
頼りにピンチを切り抜けていく。ハンディカメラによる細かいカット
の連続とざらついた質感の映像は、絶体絶命の主人公の恐怖と不安、
勇気と怒りを再現する。クラッシュの衝撃が伝わるようなカーチェイ
ス、骨がきしむような格闘、臨場感あふれる銃撃戦。映画は命がけの
任務を初めて体験する見習い工作員の主観をリアルに描き、観客にも
また彼と同じ感覚を味わせてくれる。

新人エージェント・マットが管理するCIAの隠れ家に米国の元大物スパ
イ・トビンが連行されてくるが、トビンの身柄を狙う傭兵部隊の襲撃
を受ける。マットはトビンに手錠をかけ奪った車で逃走する。

大きな活躍がしたくてうずうずしているマットだが、いきなりの実戦
に経験不足は否めない。そこに、なぜ居場所がばれたのかという疑心
暗鬼を突くようなトビンの言葉にさらに混乱し、雑踏の中でトビンに
逃げられてしまう。トビンはその時、「プロしか殺さない」と言って
マットを生かしたままにするが、トビンに半人前と思われたマットの
気持ちは想像に余りある。

国家への忠誠は正義や良心とは両立せず売国奴は身近なところにいる
CIAの歪んだ現実。人をだまし時に暗殺も厭わない、そんな人生を送っ
たトビンの心情が切なさを誘う。

お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)

「デンジャラス・ラン」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120622

を参考にしてください。

本日はもう1本

「コロンビアーナ」 です。

小窓をするりと抜け、バラック小屋がひしめき合うスラム街の屋根を
飛び、迷路のような狭い通路を走り抜け、急な階段を駆け下るヒロイ
ン。彼女はただ生き延びるために断固たる決意をしただけの、死の恐
怖に脅えるいたいけな少女。近年、様々な活劇で見られる"住宅密集
地での追跡劇"を、武装した悪党たちvsすばしこい小学生という構図
で見せるプロローグが、しなやかなスピード感と危うい繊細さを描き
切っていた。

マフィアのボスに両親を惨殺されたカトレアはコロンビアから単身米
国に脱出、シカゴの叔父の下で復讐を誓う。15年後、殺し屋となった
彼女は請け負い仕事のほかに、ボスにつながる悪党を次々と暗殺する。

正体を隠して侵入し、通気ダクトを這いまわり、音もなく忍び寄って
銃弾をぶち込んだ後は壁をよじ登り屋上を伝う。まるで忍者のごとき
軽やかな身のこなしは一部の隙もなく、伝統舞踊的な形式美すら感じ
させる。その後のマフィアとの一団との派手な銃撃戦は大味ながら、
タオルを使った格闘シーンはアイデアにあふれていた。

気に食わない尋問者の手を突き刺すことで、明らかにカトレアが「ニ
キータ」の後継者であると宣言する。この20年間、女殺し屋を主人公
にしたハードなアクション映画は進化し洗練され凶暴化した。だから
こそマッチョ路線に向かうのではなく、小柄で細身な女にしかできな
い暗殺術をもっと見せてほしかったのだが。。。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「コロンビアーナ」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120903

を参考にしてください。

本日はもう1本

「I'M FLASH!」 です。

"死を恐れて生きるな、死は究極の救い"という若きイケメン教祖。
だがその本性は、死を受け入れる勇気がない気弱な青年。教義を明確
な言葉に変換して大衆を導いていく"表の顔"は、所詮作りものなの
だ。物語はそんな男が飲酒運転で交通事故を起こしてしまい、教祖を
辞めると言いだした後に起きる、教団内でのもめ事を追う。しかし、
そこで描かれるのは、新興宗教のシステムや信者との葛藤、信仰や神
の存在を問うといったありふれたものではなく、あくまで同乗者に重
傷を負わせた主人公の心の変遷。教祖であっても操り人形でしかない
彼の実体が哀しい。

バイクをはねた上、助手席の女を昏睡状態にしてしまった教祖のルイ
は、教団に匿われている。彼を警備する3人の殺し屋と共に時間を過ご
すうちに、事故の直前に女が打ち明けた過去が彼の脳裏にこだまする。

ルイは植物状態になった女を遺憾に思うが、だからといって贖罪する
わけでもなく、ただ家族によって軟禁され暇を持て余しているうちに
自らの人生を見つめ直すのみ。3人の殺し屋たちはルイの胸中を想像し
たりもするが、積極的に関わろうとはしないのは、雇われた本当の目
的がルイの警護ではなく暗殺だと気づいていたからだろう。

ルイも父や祖父が実は殺されていたと知って、自分の運命を悟る。そ
のあたり、お互いの些細な言動から相手の真意を探りあうなど、もっ
と心理的な駆け引きを見せれば緊張感が保てたのだが。。。

お勧め度=★★(★★★★★が最高)

「I'M FLASH!」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120904

を参考にしてください。

本日はもう1本

「るろうに剣心」 です。

軽やかに宙を舞い、目にも止まらぬ速さで剣を抜き一撃を浴びせる。
数十人もの敵を向こうに回し単身斬り込んでいくスピード、身をひね
り頭をかがめ背を反らして攻撃をかわす反射神経と柔軟性は時代劇の
殺陣に新しい風を吹き込んでいる。映画は、伝説の剣豪が地上げに苦
しむ若い娘を助けたのを機に巨大な悪と闘わざる得なくなる苦悩を描
く。もう人を殺さない、そう心に誓っていても人斬りの過去は付きま
とう、それでも新たな出会いを経て、再び人の役に立とうと自らの未
来を切り開いていく姿が痛快だ。

戊辰戦争時、"人斬り抜刀斎"と恐れられた緋村剣心は、10年後、流
浪人となって東京に流れてくる。ある日、剣術道場の娘・薫の命を救
ったことがきっかけで、道場の居候になる。

武士の世の中が終わり、才覚があれば誰でものし上がれる。その時流
に乗り損ねた元士族と、彼らを手下にするアヘン密造で巨利を得る成
り上がり者の観柳の対比が鮮やか。いやらしいまでにカネと権力に固
執する男を香川照之がけれん味たっぷりに表現し、現れるだけで場の
空気を変える圧倒的な存在感を見せている。

もはや剣術は無用、彼らの腕は観柳のような悪党の私兵となる時のみ
必要とされる、新時代に適応できなかった男たちのなれの果てが哀し
い。剣心もまた彼らと同類、消えゆく運命にある剣客が最後に己のプ
ライドを賭けて死闘を繰り広げる様は、滅びの美学すら感じさせる。

お勧め度=★★*(★★★★★が最高)

「るろうに剣心」
についての詳細は、

http://d.hatena.ne.jp/otello/20120905

を参考にしてください。