2012年8月30日木曜日
こんな映画は見ちゃいけない!
本日、とりあげる作品は
「あなたへ」 です。
届かなかった思い、叶わなかった願い、主人公はそんな「気持ち」を
託されて旅に出る。愛し愛されていた妻、彼女が残した宿題は、敷か
れたレールの上を歩んできた彼の人生に、初めて自分の頭で考えるチ
ャンスを与える。きっと答えなんかない、でも他者の意見を聞いてみ
れば何か違うものが見えてくるはず。物語は妻の遺言を執行するため
に西に向かった男が、さまざまな出会いを経て、人の心の機微に触れ
ていく姿を描く。オレンジ色に染まった夕日、雲海に浮かぶ城址、早
朝の海、灯台に舞う2葉の絵手紙etc. 自然の力を強調したようなヴ
ィヴィッドな映像は、山頭火の句のように深く胸に染みいってくる。
富山刑務所技術指導官の倉沢は、故郷の海に散骨してほしいと記した
妻・葉子の遺骨を載せてミニバンで長崎を目指す。道中、元中学校教
師やイカ飯実演販売員らとの交流を楽しむ。
皆それぞれに言いづらい苦悩を抱えている。だが、赤の他人の気安さ
からか、つい胸の奥のくすぶりを打ち明けていく。自由に放浪を楽し
む老人、日本中を回りほとんど家族と顔を合わせない販売員、やり直
そうとする営業マン。ふれあいが希薄になった現代でも、旅という非
日常ではまだまだ人情が交差する機会があることを教えてくれる。
人は誰もが言葉にできない思いを秘めていて、それを汲んでやるのが
大人の心遣いといった"仕掛け"は、いかにも健さん=降旗監督的な
枯れた味わい。しみじみとした余韻が後を引く作品だった。
お勧め度=★★*(★★★★★が最高)
「あなたへ」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20120828
を参考にしてください。
本日はもう1本
「闇金ウシジマくん」 です。
パチンコに溺れて借金し体を売って穴埋めする母を持つニートの娘。
上昇志向が強く大きなイベントを企画中だが資金繰りに行きづまる青
年。2人はいつかこの暮らしから抜け出したいと願いつつも、社会の底
辺からなかなか這いあがれない。映画はそんな彼らの"カネさえあれ
ば"の発想に付け込み暴利を貪る闇金業者の目を通して、カネに人生
を狂わされた若者たちの末路を追う。カネがないのは不幸だ、しかし
カネに振り回されるのはもっと悲惨。うたかたの夢を見せておいて、
それをすべて奪ったうえで負債と絶望を残すカネの魔力が青春の蹉跌
となって再現され、はかなくも哀しい余韻を呼ぶ。
起業を目指す純はあちこちのパーティに顔を出し出資者を探すがなか
なか見つからない。追い詰められた挙句、知りあいに高利貸しの丑島
からカネを借りさせた上、恐喝で刑事告訴して踏み倒そうとする。
一方、母親の借金の利子を肩代わりしている未来はデートカフェで働
き、己の「女」としての商品価値に目覚めていく。若いというだけで
カネを払うオッサン、楽してカネを稼ぐことを覚えたギャルたち。
逆に中年に達した未来の母は「女」の部分にしがみついて糊口をしの
ぐが、この母のへそ周りの醜いセルライトが彼女の弱さと堕落した生
活を饒舌に物語り、目をそむけたくなるようなリアリティを醸し出し
ていた。"こんな怠惰な人間にはなりたくない"と思う女を黒沢あす
かが文字通り肉体で演じていた。
お勧め度=★★★*(★★★★★が最高)
「闇金ウシジマくん」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20120827
を参考にしてください。
本日はもう1本
「神弓 −KAMIYUMI−」 です。
弓を引く指をわずかにひねり、弦を放すと回転がかかった矢は敵が予
想の出来ない軌道で飛び確実に首を射抜く。そんな神業に等しい弓の
技術を持った男が迫りくる敵兵たちを単身迎え撃つ。走り、かわし、
跳び、隠れ、おびき寄せ、罠にかけ、そして必殺の矢で止めを刺す彼
の荒々しい息遣いがリアルに再現される。物語は、侵略軍の捕虜とな
った妹を救出するためにゲリラ戦を挑む弓の名手の壮絶なサバイバル
を描く。満州人が使うノミのような平らな鏃がついた矢は破壊力抜群。
主人公との力と技のぶつかり合いは迫力満点だ。
17世紀朝鮮、弓の使い手・ナミの住む村を満州軍が突然現れ村を攻撃
、生存者を全員連行する。その中には妹・ジャインと幼なじみのソグン
も含まれていた。難を逃れたナミはジャインの奪還を誓う。
ナミは満州軍の本陣を急襲、ジャインとソグンを解放して再び山中に
姿を消す。ナミの腕前を見抜いた満州軍は精鋭部隊を派遣、林から絶
壁へとジワジワとナミを追い詰めていく。木々の間を駆け、谷を飛び、
矢の雨をよけながら逃げるナミと決してあきらめない満州軍。このあ
たり「矢」という目に見える速度の飛び道具をテーマにしたおかげで、
めくるめくカメラワークが浮遊感とスピードを味あわせてくれる。
狩られる側から狩る側に転じたナミは、地形や藪、トラを利用した偽
装工作で1人また1人と精鋭部隊を仕留めていく。彼の雄姿は「ランボ
ー2」を彷彿させ、奇襲のアイデアは息詰まる緊張感に満ちていた。
お勧め度=★★*(★★★★★が最高)
「神弓 −KAMIYUMI−」
についての詳細は、
http://d.hatena.ne.jp/otello/20120829
を参考にしてください。